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46 思わぬ災難
しおりを挟むある日。
出入りの行商人の一人が、真っ青な顔で駆け込んできた。
服もボロボロで顔も傷だらけだ。
話を聞くと強盗に遭い、何もかも奪われてしまったのだという。
「最近は街のゴロツキも大人しいし、油断していました」
「襲ってきたのは知ってる連中か?」
「いいえ。全く知らない連中です」
「そうか」
俺は行商人に貸し出していた板ゴーレムにつながる。
すぐに現在位置が判明。
場所はガザ街道から南に少し入った山の中っぽい。意外と近いな。
板ゴーレムを通して荷車の周りを見回す。
いかにも山賊という風貌の、こ汚い男たちが数人。
こいつらが犯人らしい。
荷車に積まれた商品をガサガサとあさっている。
「おい見ろよ、これ砂糖だぞ!」
「何ぃ! それだけありゃぁ、ひと財産だぜ」
「こっちの樽は酒か。グビリ……こりゃぁ上物だ!」
「やっぱり間違ぇねぇな。
この印の付いた荷車は、金目の物を積んでるんだ」
「それにしてもよぉ、なんでこんな目立つもん付けてんだ?
襲ってくれって言ってるようなもんだろ?」
「さぁな。まぁせっかく酒もつまみもあるんだ、ちょっと飲もうぜ」
「だな」
山賊たちは、干し肉をつまみに酒盛りを始めた。
「楽なシゴトだったぜ」
「あぁ、あの野郎は武器も持ってなかったし、護衛の一人も付けてねぇしな」
「にしても、なんで他の連中は手を出さねぇんだろうな?」
『なんでだと思う?』
「さぁ、俺も聞きてぇよ」
「……え? て、テメェは誰だ!」
山賊たちに緊張が走った。
連中は一斉に立ち上がって、声のした方に向き直る。
そこには一体のスケルトンがいた。
俺が急行させたスケルトン・ニンジャだ。
俺はニンジャの体を借りて言葉を続けた。
『驚かせたようですまない。荷車を奪ったのはお前たちで間違いないな?』
それを聞いて山賊たちがニヤニヤと嫌な笑みを浮かべた。
連中は油断なく武器を構えながら、ジリジリとニンジャを半包囲する。
「だったら何だっていうんだ?」
「今さら、取り戻しにきたのか? 随分と遅せぇじゃねぇか、ヘヘヘ」
「スケルトン一匹なんざ、わけねぇぜ」
「野郎どもやっちまえ!」
ビビビビッ!
ぐっと踏み込んだ男たちの足の甲から、ほぼ同時にクナイが生えた。
スケルトン・ニンジャのサブウエポンだ。威力は低いが、足止めには有効だ。
文字通り地面に足を縫い付けられた男たちは、武器を落としてうずくまる。
「「「ぎゃぁぁぁ!!」」」
『なんで他の連中が手を出さないかって? 手を出すとこうなるからだよぉ!』
男たちの足の甲に生えたクナイを、順番にぐりぐりと動かしてやる。
「はぅぁぁぁ!」
「イヒィィ!!」
「お、オタスケォォォォl!」
「わかった! 返す! かえすからぁぁぁ!」
俺は完全に戦意を喪失した男たちに、語りかけるように言った。
『ダメダメ、もうちょっと痛い目みようぜ。
森の魔導師に喧嘩を売ったんだ。覚悟しろよ!』
「「「ヒィィィィィ……」」」
しばらく後。
散々痛めつけ、脅しつけてボロ雑巾のようになった山賊たちを解放してやった。
連中は放心した顔で、足をひきずりながら街へ逃げて行った。
彼らが裏社会に俺の悪名をさらに広めてくれるに違いない。
『さて、荷物を回収して帰ろう』
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「それで、あのぅ、私の荷車は……」
行商人が心配そうに俺に声をかけて来た。
リサの修復の魔法で、破れた服も顔の傷も治っている。
酒を飲ませてやったので血色も回復している。
「お、帰ったな。ご苦労」
ニンジャが荷車をひいて戻ってきた。
「あ! あれは私の!
取り返してくれたんですね? ありがとうございます!」
「山賊が酒盛りをしたせいで、ちょっと減ってると思う。
念のために、荷物をあらためてくれ」
「……、おおむね大丈夫です」
「減った分は、砂糖で補填してやるよ。酒は在庫が少なくなってるから」
「よろしいので?」
「いいから、遠慮するな。
山賊どもが置いていった剣もやるから、これを売って賄ってくれ」
「し、しかしこれでは、私が得をすることに……」
「まぁ、災難に遭ったんだから、迷惑料と思って受け取ってくれ。
俺のその紋章も、知らん奴には効果がないからな……」
「いろいろと、どうもお世話になりました!」
「良いからいいから、またこれまで通り頼むよ」
行商人は感謝の言葉をひとしきり並べたてると、ふっと普段の調子に戻った。
気持ちの切り替えが早いなぁ。
「それで、物は相談なんですが……。
その見事な器なんですが、売っていただくわけには?」
行商人が指をさすのは、俺が酒を注いでやったコップだ。
リサがたくさん作った陶器のコップの一つだ。
あっ!と声が出そうになる。うかつだった。
これは行商人たちには内緒にしておくつもりだったのに……。
それにしても、さすが商人だなぁ。実に目ざとい。
「これは、まだ数が少ないからダメ!」
「そ、そこをなんとか……」
それから一時間余り、俺は怒涛の説得攻撃を受けることになった。
この気迫があるなら山賊どもも撃退できただろうに、という凄まじいものだった。
結局俺は根負けしてしまったのだった。
「こないだの大イナゴの影響でバタついてるから、もう少し待ってくれ。
あと、数はあまり出せないからな」
「承知しました。その時はよろしくお願いします」
納得した行商人はようやく帰ってくれた。
やはり行商人はタフでないと生きて行けないんだろうな。
『あの気迫はイチロウも見習うべきかもしれんのぉ、フフフ』
『まったく、災難だぜ……』
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
数日後。王都のどこか。
「それでリッキー、紋章付きの行商人に手を出した奴らがいたらしいな?」
「あぁ、そうだ」
情報屋のリッキーが出した手のひらに、銀貨が数枚置かれる。
銀貨を確認したリッキーが話を続けた。
「他所からきた新参者だ。強盗専門のクズどもだよ。
それで首尾よく荷物を奪って、アジトまで持ち帰ったまでは良かったんだが、
なぜだかすぐに荷物を奪い返されてるんだな」
「なんだそりゃ!?」
「連中が口をそろえて言うにはだ、スケルトンが一体やって来たんだと」
「スケルトン!? スケルトン一体に何が出来るんだよ」
「まあな。けど、それがただのスケルトンじゃなかったらしい。
えらく俊敏らしくてな、男四人でも全く歯が立たなかったんだと。
それでだ、スケルトンに捕まった後、泣いて謝ったんだが許してもらえずに、
全員ねっちりと拷問されたんだと……」
「うげぇ! なんだよそりゃ……。なんのために?」
「俺も知らんよ! まぁとにかくだ、紋章付きには手を出すなってことだな」
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