異世界ネクロマンサー

珈琲党

文字の大きさ
上 下
41 / 62

41 水洗トイレが出来た

しおりを挟む

 俺とリサは失敗を重ねつつも、ついに陶器の便器を作ることに成功した。
 粘土や釉薬の成分の違いなのか、真っ白なものはできなかったが、それでもツルツルでピカピカの便器を作ることが出来たのだった。
 便器のほかにも、陶器製の排水管なども同時に作った。

「これをトイレに使うのは、ちょっともったいない感じだね」

「まぁな。ここまで作るのは苦労したからなぁ」

 といっても、作ろうと思い立ってから半年ほどで出来たのだ。
 記憶の中に、ある程度の作り方と、完成形があったからこそなせる業だな。
 まったくのゼロからということになると、途方もない時間と試行錯誤が必要だっただろう。


 便器と配管パーツができたので、俺たちはすぐに新しい便所の建設に取り掛かった。

 いままでの吹けば飛ぶような便所小屋ではなく、レンガ造りのしっかりとした建物を作った。
 便所の裏には、縦横深さ共に二メートルほどの大きな便槽を掘った。便槽の壁はレンガとモルタルでしっかり固めて、分厚く丈夫な木の板で蓋をした。底の部分は土のままにして、排泄物の水分は地面に吸収させるようにしてある。
 現代の日本でこんなものを作ったら環境問題云々で非難ごうごうだろうが、この世界なら何の問題もない。俺たちが出す分量だって知れたものだしな。
 便槽が一杯になれば、リサの魔法で処理すればいい。リサは嫌がるかもしれないが、それが一番簡単で確実だろう。

 便所から便槽までの配管をして、便所内には陶器の便器を設置した。
 内装は、綺麗なタイルで仕上げてある。こういう細工はリサが得意なのだ。
 さらには明り取りのために、小さなガラス窓まで取り付けた。倹約家のリサもこれには反対しなかった。いままでの便所小屋は昼間でも暗かったからなぁ。

 そしてついに、俺が恋焦がれていた水洗便所が完成したのだった。
 見栄えに関しては、リサが頑張ってくれておかげで期待以上になった。
 
「やったー! 完成だね!」

「あぁ、本当に良い物が出来たなぁ……」

 俺たちが便所の前で騒いでいるところに、眠そうな顔のベロニカがのっそりと顔を出す。

「前から熱心に作ってたけど、この建物は何なの?」

「良いから、ちょっと中を見てくれよ」

 便所の中を見たベロニカが目を丸くしている。

「……へ、へぇ、ずいぶんと豪華な作りねぇ。この真ん中の陶器も見事だわ……。で、これ何なの?」

「その中に水が溜まってるだろ? それで顔を洗うわけだ。新型の洗面台だな」

「ふぅん、なるほど……」

「ちょっと、イチロウ!」

 リサが鋭い目つきで、俺の脇腹に手をかけている。

「あ! いや、嘘嘘、冗談だよ。 これは新しい便所なんだ」

「はぁ!? そんなはずあるわけないでしょう! 面白くない冗談ね」

「本当よ。水洗トイレって言うんだよ」

「ええええぇ!? なんでこんなに豪華なわけ? バカなの?」

「まぁ、豪華って言っても、その陶器もタイルも俺たちの手作りだからな」

「お金はあんまりかかってないよね」

「ふ、ふぅん。でも、こんなのどうやって使うのよ」

「そうそう、使い方を教えておくよ」

 俺は便器に疑似ウンコを落として、バケツの水でザッと流す。
 思惑どり、疑似ウンコは便器の排水口に吸い込まれていった。

 ベロニカはしばらくの間、驚愕を絵に描いたような表情を浮かべていた。

「えぇ!? どういうこと?」

「だから、水洗式の便所だよ。ウンコは便所裏の便槽へ流れて行ったんだ。これで臭くて汚い便所からおさらばできるわけだ。そうそう、使う時はこの木の便座をおろして、ここに座って用を足すんだぞ」

「でも、こんなの見た事ない……」

「そりゃそうだろ。この世界では初かもしれんからな」

「使うのが楽しみ!」

「この陶器の器に、用を足すってわけ? ちょっと抵抗が……」

 リサはニコニコしているが、ベロニカは困惑顔だ。

「しかし、吸血鬼もウンコするんだな」

「ちょ、ちょっと! 私は下等な人間たちとは違うのよ! するわけないじゃない」

「いやいや、ベロニカ。お前は普通に飲み食いしてるじゃないか。 入れたら出るのが道理だろうが」

「で・ま・せ・ん!」

『やれやれじゃの……』

「ちょっと、イチロウ!」

 リサが殺気を含んだ目で俺をにらむ。

「わかった、わかった。まぁ、とにかくだ。使ったら水で流すこと。忘れるなよ」

「わかってるわよ……」

 使い勝手については、まだまだ改善の余地はあるが、一応水洗トイレは完成した。
 金属の配管とかバルブとかが手に入れば改善できるだろうが、それはもっと先になるだろうな。

 あとトイレットペーパーがないから、いまだにハンドウォシュレット問題は解決してない。
 とはいえ、一番大きな問題は片付いたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

【完結】大聖女の息子はやり直す

ゆるぽ
ファンタジー
大聖女の息子にして次期侯爵であるディート・ルナライズは義母と義姉に心酔し破滅してしまった。力尽き倒れた瞬間に15歳の誕生日に戻っていたのだ。今度は絶対に間違えないと誓う彼が行動していくうちに1度目では知らなかった事実がどんどんと明らかになっていく。母の身に起きた出来事と自身と実妹の秘密。義母と義姉の目的とはいったい?/完結いたしました。また念のためR15に変更。/初めて長編を書き上げることが出来ました。読んでいただいたすべての方に感謝申し上げます。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました

mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。 ーーーーーーーーーーーーー エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。 そんなところにある老人が助け舟を出す。 そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。 努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。 エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

処理中です...