異世界ネクロマンサー

珈琲党

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40 便器づくり

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 俺とリサは陶器づくりに没頭していた。
 陶器の便器を作る、というのが俺の本来の目標なんだが、リサは陶器作りそのものの面白さにはまっている様子だった。

 もちろん本業だって、おろそかにはしていない。
 スケルトンに任せられるところはどんどん任せて、半オートメーション化していっているので、俺たちはかなり楽になっているのだった。
 砂糖や酒やその他の売り物も、まだまだ需要がある様子で、卸しても卸しても値崩れする様子はない。いまのままでも当面は安定して稼いで行けそうだ。


 それはともかく、陶器づくりだ。
 何十回となく失敗を繰り返したおかげで、ある程度は狙ったものが作れるようになった。
 焼き加減とか、どの釉薬がどんな色になるのかとか、一定のノウハウが蓄積されてきている。

 ちょっと苦労したが、簡単な手回しろくろも手に入れることが出来た。
 一般向けにろくろなど売られているはずもなく、結局いろいろと手を回して、職人に特注で作ってもらったのだ。出入りの行商人もろくろのことなど知らなかったし、この手の知識は、焼き物を作っている工房などが独占しているのかも知れない。

「これ使ってみろよ」

「えぇ!? ナニコレ?」

「これはな、真ん中に粘土を置いて、こんな感じに……ありゃぁ。いやいや、もう一回……うわぁ」

「あ、分かった! イチロウ、私がやってみるから」

「う……。はい」

 俺は無理だったが、リサはあっさりとろくろの使い方をマスターした。

「これスゴイねぇ。これがあれば、皿やコップが作り放題だよ!」

「……そ、そうか。じゃあ頼む」

 それからひと月もしないうちに、家の食器が全て、リサが作った新しい陶器に置き換わった。
 元々使っていた、信楽焼のような食器は出入りの行商人に買い取ってもらった。
 リサが言っていたように、そんなものでも高級品だったらしく、結構な値段で売れたのだった。


「次は、もうちょっと大きいやつを作ってみてくれ」

「大きいやつって?」

「そうだなぁ……。蓋つきの砂糖壺とか、水がめとか、花瓶とか……」

「わかった、やってみる!」

 リサが陶器作りに精を出している横で、俺も目標に邁進しているのだった。

「ねぇ、イチロウは何を作ってるの?」

「前にも言ったが、俺は快適な暮らしを追求している。そして、これこそがその快適な暮らしを支えるものなのだ!」

「……ふ~ん」

「わかるか?」

「ううん」

「……だろうな。まぁ、あと一月もすれば現物が完成するはずだから」

「へぇ。じゃぁ、楽しみにしてるね!」


 俺は記憶を頼りに、水洗トイレの便器の模型を作っていた。
 実物の四分の一ほどのものだが、注水経路は省略してある。
 なぜなら、ここには水道がないから。配管もバルブもパッキンも何もないのだ。
 だから、使う時はバケツの水をザッと流し込む方式になるだろう。

 それはともかく、今は便器の肝である排水経路に集中しているのだった。
 便器の排水経路は、アルファベットのSを横に倒したような形になっている。
 それで、横倒しにしたSの手前半分の、Uの部分に水が溜まるようになっている。
 水が排水口に封をしているおかげで、下水からの匂いや虫などが防げているわけだ。
 以前に清掃のバイトをした時にこの仕組みを教わったのだが、最初に考えた人は天才だと思った。

 その肝心の排水経路を作るのに、俺は苦戦していた。
 排水経路の奥まった所は手も指も届かなし、どうやって成形すれば良いのか分からん。

 なんとなく俺の様子をうかがっていたリサが言う。

「難しい部分は別々に作って、後でくっつければ良いのに」

「あ! た、確かに……」

 そうだよ。なにも一体成型で作る必要なんかなかったのだ。
 パーツごとに作って、柔らかい粘土を接着剤がわりにして組み立てれば良いんだ。
 コーヒーカップの持ち手とか、そんな感じに作ってるのを見た覚えがあったな。

「リサ、お前頭良いな!」

「エヘヘ……、もっと褒めても良いよ」

『これ、イチロウ。しっかりせんか』


 何はともあれ、多くの失敗の末に、陶器製の便器の模型を作ることが出来た。
 おそらく粘土の成分の違いなんだろうが、真っ白の陶器はいまだに作ることが出来ずにいる。
 なので、色は緑がかっているが、形はまごうことなき便器だ。

 模型とはいえ、一応の形になったそれを見ながら感慨にふける。

「それで、イチロウ。これ何なの?」

 水洗トイレを使ったことのないリサは、さすがに見ただけでは分からないらしい。

「これで、臭くて汚い便所からおさらば出来る、……かもしれない」

「えぇ!? どういうこと? トイレが臭くて汚いのは当たり前じゃない」

「それが綺麗で快適なものになるとしたら?」

「それは嬉しいけど……」

「まぁ、今回作ったのは実験のための模型だから、すぐには出来ないけどな」

「ふぅん」

「とりあえず、組み立てて実験してみるから少し待ってくれ」

 便器の模型と一緒に、配管用の陶器のパイプや接手も作っていた。
 俺はそれらを使って、便所全体の模型を組み立てた。

「これが新しい便所だと思ってくれ」

「それに座ってするってこと?」

「そうだ。この便器の中にウンコしたとする」

 俺はウンコ代わりの粘土を、便器の模型に落とす。

「それで?」

「でだ、用を足し終わったら、バケツでこの便器の中へ水を流すんだ」

 俺はコップに汲んでおいた水を、便器の模型に流し入れた。
 ウンコに見立てた粘土は、水と一緒に便器の排水口に吸い込まれていった。

「わぁ!」

「水に流されたウンコは、この配管の中を通って、こっち側の便槽に溜まるわけだ」

 便槽に見立てた容器の中に、水と粘土が流れ込んで来た。

「なるほどぉ!」

「とりあえず実験は上手く行ったな」

「あとは、これの大きいのを作れば良いのね?」

「そういうことだ」

「私も手伝うから、早く作りましょう!」

 リサにも水洗トイレの良さが理解できたらしい。
 俺たちは早速、新しい便所作りに取りかかった。

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