異世界ネクロマンサー

珈琲党

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39 陶器を作る

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 俺はここのところずっと、陶器の製作に夢中になっていた。
 といっても、芸術的な湯のみ茶碗などに興味があるわけではない。
 とりあえずは、ごく普通の陶器の皿やコップを安定的に作れるようになって、最終的には陶器の便器を作りたいと考えているのだった。
 陶器の便器は快適なトイレライフに必須のアイテムなのだ。


「トイレライフってなんやねん……」

「え? イチロウ、何か言った?」

「いやいや、なんでもない。どうだ、出来たか?」

 焼き加減とか、釉薬の成分とか、試さないといけないことがたくさんあるので、リサにも手伝ってもらっている。彼女はこのての工作に才能があるのだ。

「見てみて! これ可愛いでしょ?」

 リサが凝った細工をした皿を見せてきた。

「うん。良いんだけど、あんまり複雑なのは、ひびが入ったり割れたりするからなぁ」

「えぇ、でも……」

「もっと簡単な形の奴をたくさん作った方が良いぞ。二十くらい作って一つ成功するかどうかだから」

 窯の周りに散乱する失敗作を指さして言う。

「そっかぁ……。イチロウは何を作ってるの?」

 俺は木で枠を作って、十センチ四方の粘土の板を量産していた。

「これにいろんな種類の釉薬を塗ってみて、どんな感じに焼けるか実験するんだ。これだったら失敗しにくいだろうしな」

「なるほどぉ!」

 ということでリサもシンプルな皿を量産し始めた。
 ろくろなんか無くて手びねりだが、上手いもんだ。

「出来たら、あの棚に並べておいてくれ」

「うん」

 乾燥に数日。
 それから、素焼きの状態まで焼く。
 ここまではあまり失敗なくできるようになった。

 次はその素焼きの器に釉薬を塗って、また焼くわけだ。
 釉薬の原料になる石は、なんとなく透き通った感じのをより分けて集めた。
 石の知識は全然無いから、とりあえず見ためで五種類ほどに分類して、それをスケルトンたちに粉になるまで砕かせた。
 それから、それぞれの石の粉を緩く溶いた粘土に混ぜて、釉薬らしきものを作った。

「石ころもこうやって加工すると、価値のある原料って感じになるな」

「へぇ、面白いねぇ。これを塗って焼いたら、ツルツルの綺麗なお皿になるの?」

「たぶん……。正直よく分からないけど、何か変化はあるはずだ」


 それからひたすら試行錯誤の連続。
 やはり、釉薬にする石の違いによって、表面の状態が違う。
 焼く温度によっても違うし、窯の中の配置によっても違う。
 一つとして同じものができないのだった。

 俺としては、真っ白で均質な陶器を目指しているのだが、出来上がるものは形も色も風合いも何もかも違う手工芸品のような一品物ばかり。割れたりヒビが入ったりで、失敗も多い。
 失敗なく出来上がっているのは、全体の三割あるかどうかだ。

「むぅぅ、難しいなぁ……」

「でも、出来てるじゃないの」

「まぁ、出来てはいるんだけどな」

「ほら、この皿だって綺麗でしょ?」

 リサが面白がって、色々な釉薬を混ぜて塗った皿だ。
 さまざまな色が融け合って、何とも言えない味わいがある。
 確かに芸術的な出来ではあるんだけど、俺が欲しい物じゃないんだよなぁ。

『しかし、イチロウよ。この皿はなかなかに見事じゃぞ』

 クロゼルもリサが作った皿に感心している。

「確かに見事ではある」

「でしょ、でしょ!」

 行商人たちの情報ネットワークにアクセスしても、こういった陶器の皿はヒットしなかった。
 彼らが扱ってないってことはつまり、この世界では希少品ってことだろう。もちろん、得手不得手というものもあるので、たまたま彼らが扱ってないだけかもしれない。専門の商人がいるのかもしれん。
 しかし、家で使っているあの信楽焼みたいな皿やコップだって、リサが言うには高級品らしいからな。普通の庶民は木の器を使うのだという。そういえばさじなんかも木製だったな。


「ぐうたら吸血鬼はまだ寝てるのか?」

「うん、地下室にいると思う」

 贅沢好きなベロニカは、普段はただのごくつぶしだが、美術品などには目が利くのだ。
 彼女に出来上がった焼き物を見せれば、価値が分かるかもしれない。



「えぇ!? これを、あなたたちが作ったっていうの?」

 ベロニカが目を丸くして言った。

「そうだよ。良いでしょ?」

 フフン、とリサは誇らしげだ。

「ふ、ふぅん、なかなかやるじゃないの。まぁまぁね……」

 とか言いながらも、リサが作った皿を物欲しげに見つめるのだった。
 なるほど、ベロニカの目つきからすると、それなりに価値はありそうだな。
 しかしなぁ……。

「これ売れるかなぁ?」

「うん、売れるのは間違いない。でも行商人たちに見せたらダメだぞ」

「えぇ! なんでダメなの?」

「仕事が忙しくなりすぎるから」

「えぇ~」

「俺たちは今のままでも、十二分に悠々と暮らしていけるんだぜ。これ以上仕事を増やして、金なんか儲けてどうしようって言うんだよ」

 珍しい皿を作ったとか言って、行商人たちに見せた日には大変なことになるだろう。
 奪い合いの取っ組み合いが始まって、それからもっと作ってくれと泣きつかれるのだ。
 それで俺たちは皿作りに忙殺されるというわけだ。
 仕事中毒気味のリサはそうでもないのかもしれないが、俺はそんな生活は嫌だ。

「俺は豊かで快適な暮らしがしたいの! 金は十分に儲けているんだから、あとは生活の快適さを追求したい。リサも快適な暮らしがしたいだろうが」

「それはそうだけど、今だって十分に快適じゃない」

「いやいや、まだまだ改善の余地がある。そのための第一歩として、俺は焼き物を始めたんだ」

「う~ん。良く分からないんだけど……」

 現代の水洗トイレの利点を言葉で説明しても、それを見たことがないリサには納得できないだろう。
 現物を見て一度使えば目から鱗が落ちると思うが。

「説明しても分からんだろうが、いずれ分る時がくる。まぁ、家で使う食器が綺麗なものになって行くんだから、今はそれで良いじゃないか」

「ふ~ん、まぁそうだね」

「とりあえずはだ、失敗を少なくして安定して作れるようにしないとな」

「わかった!」



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