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33 新しい酒ができた
しおりを挟む俺はスケルトンたちを手伝わせて、家の裏に工場を作った。これで砂糖や酒作りの効率が上がるはずだ。今までは屋外で作業したりしていたが、これからは雨風のしのげる屋内で作業できる。俺としては、リサに多少は楽をしてもらいたいという気持ちがあった。あらゆる場面でリサの生活魔法に頼りっぱなしだからな。
しかし、リサとしてはむしろ、何か作業をしていた方が楽しいらしいのだ。確かに、娯楽らしい娯楽もなく、もともと行商の手伝いをずっとしてたわけだから、暇が突然できても時間を持て余して困ってしまうようなのだ。まぁ、本人が仕事が好きなら仕方ない。リサにとっては仕事が趣味みたいなものなんだろう。俺は「もう好きにしろ」と言うほかなかった。
ということで、新しい仕事場を得たリサは、今まで以上にガンガン働き、砂糖や酒が今まで以上にドンドン出来上がって行くのだった。
「好きにしろとは言ったものの、これでは元の木阿弥じゃないか…」
「エへへ、ついつい作りすぎちゃった。干し肉の置き場がなくなったから持って来た」
「まったく、しょうがねぇな……。あ!そうだ。ちょっと試しに酒に乾燥の魔法をかけて見てくれ」
乾燥の魔法は、リサが使える生活魔法の一つで、対象の水分をあっと言う間に飛ばすことができる。干し肉や乾燥野菜作りにもってこいの魔法なのだ。
「え、お酒に? 分かった、やってみる」
リサがすっと手をかざすと、コップに入れた酒のかさが見る間に減って行く。
「よし、そんなもんでいいぞ。どれどれ……」
コップからは鼻を刺すアルコール臭が漂ってくる。一口飲んでみる。
「ゴクリ。 ぐっ!? ゲホゲホ……」
「イチロウ!? 大丈夫?」
「ア、アァ問題ない。期待通り……というか、期待以上だ」
乾燥の魔法によって、酒の水分だけが飛んでアルコール分が凝縮したのだ。蒸留装置を使わないで蒸留酒が出来てしまったぞ。すごいなぁ。
「おいリサ、これは使えるぞ! とりあず作り置きしてある酒に乾燥の魔法をかけてみろ。水気を飛ばせばかさを減らせるし、酒も強く出来る」
「そうか! 確かに!」
リサは工場に飛んで行き、酒樽に向かって乾燥の魔法をかけて行く。
「ほどほどでいいからな。あんまりやると強くなりすぎるから」
「分かってるって。半分ほどにするから」
俺たちがワイワイいいながら作業していると、酒の匂いに誘われてベロニカがのっそりやって来た。
「ちょっとぉ! 私を差し置いて、新作のお酒飲むとかズルいわ!」
「いや、そういうわけじゃないんだが……」
「ふん、いくら隠しても私の鼻は誤魔化せないわよ」
「……お前本当に吸血鬼なんだろうな? 本当は妖怪うわばみ娘とかじゃないのか?」
「うぅぅ、うるさいわね! さっさとお酒をよこしなさいよ!」
「しょうがないなぁ……。リサ、こいつに新しい酒を飲ませてやれ」
「はい。気を付けて飲んでね」
ベロニカはコップになみなみと注がれた酒を見て舌なめずりをする。
「ふ~ん、これが新しいお酒ね。頂くわ。
ぐびり。ンンン!? ンゴゴゴゴ……。ぷはぁぁぁぁ。も、もう一杯」
「オイオイ、大丈夫かよ……」
立て続けに五杯ほど飲んだベロニカが、突然パタッと仰向けにひっくり返った。いくらなんでも無茶苦茶だろ。バカだなぁ……。
「きゃぁ! ベロニカ!」
リサが白目をむいて痙攣しているベロニカに駆け寄る。
「こいつは大丈夫だから、放って置け。
それよりもリサ、この酒にさらに実りの魔法をかけて熟成させるんだ」
「あ、うん。わかった」
出来上がった酒は見た目も香りもウイスキーだった。それも年代物の。刺すようなアルコール臭が丸められて、芳醇な香りが漂っている。俺は十分に香りを楽しんでから、慎重に口に含む。
「美味い!」
味もやはり、上等のウイスキーだった。
「かはぁぁぁ、これはスゴイわ。私は一口で十分だよ」
工場の建設に勢いづいた俺は、次に小道の整備にのりだした。
それなりに平坦で硬く踏みしめられてはいるが、しょせんは土の道なので、雨の日はぬかるむし荷車が通ると轍もできてしまう。出入りの行商人たちは文句も言わずにこの道を行き来しているが、やはり道は良いにこしたことはないだろう。
まずは道をきれいに均してやることにした。凹んだところには砕石を詰め、路面から飛び出た大石は掘り起して撤去してゆくのだ。ゲートから家までは十五キロ以上の道のりがあるのだが、スケルトンたちを日夜フル稼働させることで、一週間程度で完了させることができた。
次に、均した路面をウィザードの火球であぶらせる。強烈な熱によって、良い感じに土が融け固まって、路面がアスファルト舗装したようになった。
以前に、侵入した二百の兵を火球で殲滅したときに、道の表面が融けていることに気が付いて、この方法を思いついたのだった。
「予想以上に上手く行ったぞ」
「すごい綺麗になったねぇ。イチロウ、家の周りもこれで固めたら?」
「いや、家が燃えるかも知れんからダメだ。家の周りは石畳にしよう」
道の整備や、畑仕事で、大量の石が掘り出されていて、敷地の隅にちょっとした小山が出来ているのだった。
「そうね。じゃぁ、家の周りは私がやる!」
ということで、家の周りの石畳はリサと、手下のスケルトンたちに任せることにした。砂糖や酒は作りすぎて、まだまだダブついているからな。しばらくそっちは休んでもらおう。
「よし! じゃあ任せたぞ」
出入りの行商人たちは、新しくなった小道の様子に目を丸くしていた。
「こんな見事な道は王都でも見たことがないです。実に滑らかで美しい。いったいどうやって……」
彼らはしきりに工法を知りたがったが、もちろん企業秘密だから教えない。
新しい酒を試飲してもらったが、それにもビックリしていた。
「ぷはぁ~。こ、こ、これはスゴイ。是非うちに売ってください!」
「いやいや、うちに扱わせていただきたい。うちは酒場との取引が多いから」
「ちょ、ちょっと待て。うちは貴族とも付き合いがあるんだ!買う権利はあるはずだ!」
「おいおい、がっつくなよ! 酒の扱いならうちが一番老舗なんだぞ!」
「だまれ! そんなの関係ねぇだろ!」
「待て待てまて! 大丈夫。量はそれなりにあるから、均等に卸すよ。問題は値段だな……」
侃々諤々の大論争のすえに、取っ組み合いまではじまって、なんとか従来の酒の三倍の値段というところに落ち着いた。
とりあえずはお試しということで、新しい酒を少量ずつだけ卸し、その日は解散となった。
その後にやって来た御用聞きに建材を大量に注文した。大工道具もあれこれと注文。
「同じ道具がいくつも被ってますが、これでよろしいので?」
「いいから気にするな」
卸所をもっと大きくてしっかりとした建物に建て替えてたいし、小道の奥へうっかり商人たちが入って行かないように、ここにも入口と同等のゲートも作るつもりだ。
ちょっとした建物なら、スケルトンたちに任せればあっという間にできる。部外者に作業させるよりもずっとリスクが低いのだ。
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