異世界ネクロマンサー

珈琲党

文字の大きさ
上 下
33 / 62

33 新しい酒ができた

しおりを挟む

 俺はスケルトンたちを手伝わせて、家の裏に工場こうばを作った。これで砂糖や酒作りの効率が上がるはずだ。今までは屋外で作業したりしていたが、これからは雨風のしのげる屋内で作業できる。俺としては、リサに多少は楽をしてもらいたいという気持ちがあった。あらゆる場面でリサの生活魔法に頼りっぱなしだからな。

 しかし、リサとしてはむしろ、何か作業をしていた方が楽しいらしいのだ。確かに、娯楽らしい娯楽もなく、もともと行商の手伝いをずっとしてたわけだから、暇が突然できても時間を持て余して困ってしまうようなのだ。まぁ、本人が仕事が好きなら仕方ない。リサにとっては仕事が趣味みたいなものなんだろう。俺は「もう好きにしろ」と言うほかなかった。
 ということで、新しい仕事場を得たリサは、今まで以上にガンガン働き、砂糖や酒が今まで以上にドンドン出来上がって行くのだった。


「好きにしろとは言ったものの、これでは元の木阿弥じゃないか…」

「エへへ、ついつい作りすぎちゃった。干し肉の置き場がなくなったから持って来た」

「まったく、しょうがねぇな……。あ!そうだ。ちょっと試しに酒に乾燥の魔法をかけて見てくれ」

 乾燥の魔法は、リサが使える生活魔法の一つで、対象の水分をあっと言う間に飛ばすことができる。干し肉や乾燥野菜作りにもってこいの魔法なのだ。

「え、お酒に? 分かった、やってみる」

 リサがすっと手をかざすと、コップに入れた酒のかさが見る間に減って行く。

「よし、そんなもんでいいぞ。どれどれ……」

 コップからは鼻を刺すアルコール臭が漂ってくる。一口飲んでみる。

「ゴクリ。 ぐっ!? ゲホゲホ……」

「イチロウ!? 大丈夫?」

「ア、アァ問題ない。期待通り……というか、期待以上だ」

 乾燥の魔法によって、酒の水分だけが飛んでアルコール分が凝縮したのだ。蒸留装置を使わないで蒸留酒が出来てしまったぞ。すごいなぁ。

「おいリサ、これは使えるぞ! とりあず作り置きしてある酒に乾燥の魔法をかけてみろ。水気を飛ばせばかさを減らせるし、酒も強く出来る」

「そうか! 確かに!」

 リサは工場に飛んで行き、酒樽に向かって乾燥の魔法をかけて行く。

「ほどほどでいいからな。あんまりやると強くなりすぎるから」

「分かってるって。半分ほどにするから」

 俺たちがワイワイいいながら作業していると、酒の匂いに誘われてベロニカがのっそりやって来た。

「ちょっとぉ! 私を差し置いて、新作のお酒飲むとかズルいわ!」

「いや、そういうわけじゃないんだが……」

「ふん、いくら隠しても私の鼻は誤魔化せないわよ」

「……お前本当に吸血鬼なんだろうな? 本当は妖怪うわばみ娘とかじゃないのか?」

「うぅぅ、うるさいわね! さっさとお酒をよこしなさいよ!」

「しょうがないなぁ……。リサ、こいつに新しい酒を飲ませてやれ」

「はい。気を付けて飲んでね」

 ベロニカはコップになみなみと注がれた酒を見て舌なめずりをする。

「ふ~ん、これが新しいお酒ね。頂くわ。
 ぐびり。ンンン!? ンゴゴゴゴ……。ぷはぁぁぁぁ。も、もう一杯」

「オイオイ、大丈夫かよ……」

 立て続けに五杯ほど飲んだベロニカが、突然パタッと仰向けにひっくり返った。いくらなんでも無茶苦茶だろ。バカだなぁ……。

「きゃぁ! ベロニカ!」

 リサが白目をむいて痙攣しているベロニカに駆け寄る。

「こいつは大丈夫だから、放って置け。
 それよりもリサ、この酒にさらに実りの魔法をかけて熟成させるんだ」

「あ、うん。わかった」

 出来上がった酒は見た目も香りもウイスキーだった。それも年代物の。刺すようなアルコール臭が丸められて、芳醇な香りが漂っている。俺は十分に香りを楽しんでから、慎重に口に含む。

「美味い!」

 味もやはり、上等のウイスキーだった。

「かはぁぁぁ、これはスゴイわ。私は一口で十分だよ」


 工場の建設に勢いづいた俺は、次に小道の整備にのりだした。
 それなりに平坦で硬く踏みしめられてはいるが、しょせんは土の道なので、雨の日はぬかるむし荷車が通ると轍もできてしまう。出入りの行商人たちは文句も言わずにこの道を行き来しているが、やはり道は良いにこしたことはないだろう。

 まずは道をきれいにならしてやることにした。凹んだところには砕石を詰め、路面から飛び出た大石は掘り起して撤去してゆくのだ。ゲートから家までは十五キロ以上の道のりがあるのだが、スケルトンたちを日夜フル稼働させることで、一週間程度で完了させることができた。

 次に、均した路面をウィザードの火球であぶらせる。強烈な熱によって、良い感じに土が融け固まって、路面がアスファルト舗装したようになった。
 以前に、侵入した二百の兵を火球で殲滅したときに、道の表面が融けていることに気が付いて、この方法を思いついたのだった。


「予想以上に上手く行ったぞ」

「すごい綺麗になったねぇ。イチロウ、家の周りもこれで固めたら?」

「いや、家が燃えるかも知れんからダメだ。家の周りは石畳にしよう」

 道の整備や、畑仕事で、大量の石が掘り出されていて、敷地の隅にちょっとした小山が出来ているのだった。

「そうね。じゃぁ、家の周りは私がやる!」

 ということで、家の周りの石畳はリサと、手下のスケルトンたちに任せることにした。砂糖や酒は作りすぎて、まだまだダブついているからな。しばらくそっちは休んでもらおう。

「よし! じゃあ任せたぞ」



 出入りの行商人たちは、新しくなった小道の様子に目を丸くしていた。

「こんな見事な道は王都でも見たことがないです。実に滑らかで美しい。いったいどうやって……」

 彼らはしきりに工法を知りたがったが、もちろん企業秘密だから教えない。
 新しい酒を試飲してもらったが、それにもビックリしていた。

「ぷはぁ~。こ、こ、これはスゴイ。是非うちに売ってください!」
「いやいや、うちに扱わせていただきたい。うちは酒場との取引が多いから」
「ちょ、ちょっと待て。うちは貴族とも付き合いがあるんだ!買う権利はあるはずだ!」
「おいおい、がっつくなよ! 酒の扱いならうちが一番老舗なんだぞ!」
「だまれ! そんなの関係ねぇだろ!」

「待て待てまて! 大丈夫。量はそれなりにあるから、均等に卸すよ。問題は値段だな……」

 侃々諤々かんかんがくがくの大論争のすえに、取っ組み合いまではじまって、なんとか従来の酒の三倍の値段というところに落ち着いた。
 とりあえずはお試しということで、新しい酒を少量ずつだけ卸し、その日は解散となった。


 その後にやって来た御用聞きに建材を大量に注文した。大工道具もあれこれと注文。

「同じ道具がいくつも被ってますが、これでよろしいので?」

「いいから気にするな」

 卸所をもっと大きくてしっかりとした建物に建て替えてたいし、小道の奥へうっかり商人たちが入って行かないように、ここにも入口と同等のゲートも作るつもりだ。
 ちょっとした建物なら、スケルトンたちに任せればあっという間にできる。部外者に作業させるよりもずっとリスクが低いのだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎
ファンタジー
 死後、神様に頼まれて転生したが特にチートな加護も無く、魔王を倒すのに十年掛かった。 英雄の一人ではあったので第二の人生を愉しもうかと思ったが、『狡兎死して走狗煮らる』とも言う。 そこで地方で内政に励む事にして、トロフィー代わりに砂漠の緑化を目標に定めた男の物語である。

異世界起動兵器ゴーレム

ヒカリ
ファンタジー
高校生鬼島良太郎はある日トラックに 撥ねられてしまった。そして良太郎 が目覚めると、そこは異世界だった。 さらに良太郎の肉体は鋼の兵器、 ゴーレムと化していたのだ。良太郎が 目覚めた時、彼の目の前にいたのは 魔術師で2級冒険者のマリーネ。彼女は 未知の世界で右も左も分からない状態 の良太郎と共に冒険者生活を営んで いく事を決めた。だがこの世界の裏 では凶悪な影が……良太郎の異世界 でのゴーレムライフが始まる……。 ファンタジーバトル作品、開幕!

死霊術士が暴れたり建国したりするお話 第1巻

白斎
ファンタジー
 多くの日本人が色々な能力を与えられて異世界に送りこまれ、死霊術士の能力を与えられた主人公が、魔物と戦ったり、冒険者と戦ったり、貴族と戦ったり、聖女と戦ったり、ドラゴンと戦ったり、勇者と戦ったり、魔王と戦ったり、建国したりしながらファンタジー異世界を生き抜いていくお話です。  ライバルは錬金術師です。  ヒロイン登場は遅めです。  少しでも面白いと思ってくださった方は、いいねいただけると嬉しいです。

スローライフは仲間と森の中で(仮)

武蔵@龍
ファンタジー
神様の間違えで、殺された主人公は、異世界に転生し、仲間たちと共に開拓していく。 書くの初心者なので、温かく見守っていただければ幸いです(≧▽≦) よろしくお願いしますm(_ _)m

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...