異世界ネクロマンサー

珈琲党

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28 褒美をもらった

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 ヘッセルバッハ伯の使者を追い払った日の翌々日。
 今度は、カステルハイム伯の使者がやって来た。

 使者は、ちょうど出入りの行商人たちとすれ違う格好になった。
 内心、数が明らかに増えているスケルトンたちに怯え、出入りの商人たちの多さに仰天していたが、職務上慌てふためくわけには行かず、無表情無関心の仮面を被って静々と道をたどった。

 行商人たちは、使者が掲げている伯爵家の紋章を見て、やはりここの魔導師との取引は間違いがないと確信した。伯爵家御用達というのは過剰な宣伝文句ではなかったのだと。俺たちはすげぇ奴とコネがあるのだと、晴れ晴れとした顔で帰って行くのだった。


 俺はまた面倒事かと内心ウンザリしつつ使者をもてなす。
 前回、前々回にもやって来た使者なので信用はできるだろうが。

「それで、今回はどういった御用で?」

「はい、領主様よりの感謝のお品をお届けに参りました」

「……感謝ですと? 先日のヘッセルバッハ伯の件でしょうか?」

「さようです。イチロウ殿お働き、まことに見事だとおっしゃっておられました」

「そうですか、それはどうも」

 伯爵の署名入りの感謝状と、いくつかの宝飾品を受け取った。

「ほぉ! これは見事ですなぁ!」

 俺は宝石のたぐいには全く興味がないが、社交辞令で世辞を言う。

「おぉ、お分かりになりますか。さすが魔導師殿はお目が高い!
 このネックレスの宝石はですな――」
 
 石がどこで見つかったのか、どこで加工されたのか、加工した職人は……。
 使者はこういった話が好きらしく、それこそ立て板に水のごとくとめどなく話し続けるのだった。

『クロゼルは分かるか?』

『分かることはわかるが、もはやこんな石ころには興味ないわ』

『俺もだ』

『フフフ……』

 俺は使者に適当な相槌を打ちながら聞き流す。
 同席しているリサも眠そうにしている。

「リサ、こないだ作った酒とつまみを持ってきてくれ」

「うん」

「さあさあ、使者殿、新作の酒です。どうぞやって下さい」

「これはかたじけない。グビリ。――ほぉぉぉぉ! これは素晴らしい!
 以前に頂いた酒も良いものでしたが、これはさらにまろやかな味ですな。
 むむ! この干し肉も非常に風味が良いですな……」

 俺はどんどん酒をすすめて、使者も酒好きなようでぐびぐびやる。
 使者はあっという間に出来上がってしまった。

「いちろうどの、このたびのもてなし、たいへんかんしゃでございました」

「いえいえ、とんでもない。またいつでもいらして下さい」

 使者に、伯爵へのお返しとして新作の酒を一樽、さらに使者の個人的なお土産として酒や干し肉などを少量持たせて見送った。
 使者は赤い顔をして上機嫌で帰って行ったのだった。

「ふぅ~、やっぱりこういうのは疲れるなぁ……」

「ほんと、いつものイチロウじゃないみたいだよね」

「まぁ、これだけやっとけば、当分はうるさいことも言ってこないだろう。
 そうだ、ベロニカ。この中から一つ好きなのをとっていいぞ」

 宝飾品の入った箱を開けて、ベロニカに差し出す。
 居候の身ではあるが、今回の功労者ではあるからな。

「ふぅん、珍しいこともあるわね……」

 気のない返事に見合わず、ベロニカの目が輝く。
 俺たちの中では一番こういうのが好きらしいからな。
 じっくりと品定めをして、大きなルビーがはまった銀のネックレスを選んだ。

「じゃあ、残りは全部リサが持っとけ」

「ありがとう!」

「えぇ!? 今回は私が一番役に立ったのよ! なんでリサの方が多いのよ!」

「なんでって。そんなの当たり前だろ。 
 普段お前ががぶ飲みしてる酒も、金を生む砂糖も保存食も、
 全部リサが作ってるんだぞ。
 この生活が成り立っているのはリサのおかげなんだぜ?」

 俺は話しながらリサの髪をわしゃわしゃする。

「何よ急にぃ、エヘヘ……」

「お前は今回は役に立ったが、普段はまだまだだからな。
 今回の報酬から賃料と酒代をさっぴけば、そのネックレスで十分釣りがくる」

「……むぅ」

 ベロニカはぶつくさ文句を言いながらも、ネックレスは気に入ったらしく、鏡の前でポーズをとったりしているのだった。

 リサは着飾ることにあまり関心がなく、売ればいくらになるかを換算していた。結構な金額になることが分かって、箱を抱えてニンマリしている。

「せっかく伯爵がくれたんだから、売ったりするなよ。金ならあるんだし」

「わかってるって。ちょっと計算しただけだよ」

「ああそれと、冬用の外套が届いていたな。まだ少し早いが、ほれ」

 行商人から受け取った荷物をごそごそやって取り出した。
 俺とリサは魔導師っぽいフード付きの外套だ。リサの外套にはフードのフチにフワフワとした毛皮が縫い付けてある。手袋やマフラーも用意してある。

「わあ! これイイネ。ありがとう!」

 そしてベロニカはというと、どこの貴族様が着るのか、というような毛皮のコート。実際はどういう動物の毛皮か知らんが。見た目はミンクのコートそのものだ。この世界でもこのようなコートは値が張る。
 好きなものを買ってやると言ったら、これだからなぁ。

「ふぅん、まあまあね」

「お前なぁ、そのコートはお前みたいな文無しが着るものじゃないんだぞ。
 もっと感謝して受け取れよ」

「文無しって何よ!」

「だいたい、ベロニカはアンデッドなんだから、寒さとか関係ないだろ」

「はぁ? 冬は寒いに決まってるでしょ、バカじゃないの!」

「……お前、ちょっと踊りでも踊って体を温めたくなったんじゃないか?」

「んあ!? わ、わかったわよ……。ありがとうございましたぁ!」

「うむ、よろしい」


「さてさて、面倒事も片付いたし飯にするか。
 リサ、飯と酒を用意してくれ」

「うん、わかった!」

 ベロニカは家事の類が一切できないので、飲み食いするだけだ。
 ちなみにベロニカは吸血鬼だが普通に飯を食うこともできる。さすがに血の代用にはならないようだが。酒をカパカパ飲みながら、飯もガッツリ食うのだ。

 リサとベロニカは趣味も性格も全然違うが、話だけは合うようで、飲み食いしながら楽しそうに談笑している。
 リサはいわゆる狸顔で体つきも丸っこい。ベロニカは涼しげな切れ長の目の美人で体型もスラっとしている。二人は見た目も全然違うのだった。

「まぁ、中身は置いておいて目の保養にはなるな」

 俺は酒を味わいながら、ぼそりとつぶやいた。

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