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22 女吸血鬼がやって来た
しおりを挟むある日の夜のこと。
「ん!? 何か妙な胸騒ぎがするような……」
「そうね……。私も何か感じる」
頭の中でキィンという嫌な音が響いている。
警告音のような……。結界が作動したのかもしれない。
「あ! ニンジャが何かを捕まえたらしいぞ」
「こんな夜中に……、侵入者?」
リサはちょっと心配そうな顔をしている。
俺はニンジャの目を通して侵入者を確認した。
「若い女に見えるが……。何かが違うな」
『ふむ、その女は人ではない。吸血鬼じゃ』
クロゼルは俺の心を読んで女を確認した。それにしても器用なことしてるなぁ。
スケルトンは暗視能力があるので、夜中でも問題なく物が見える。といっても暗視カメラ映像のように色がない。
俺は近くに控えていたビショップに灯りの魔法を使わせた。モノクロだった光景がたちまちカラー映像になった。
捕らえらている女吸血鬼が、まぶしさに目を細めた。
「吸血鬼らしいぜ。初めて見たけど、確かに目が赤いなぁ」
「吸血鬼!? 大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ。問題ない。」
その女吸血鬼はニンジャに完全に抑え込まれている。
周りには他のスケルトンたちも控えているし、問題はないだろう。
俺はニンジャの体を借りて女吸血鬼に問いかけた。
『おい、お前は何者だ? 何しにここへ来た?』
『放しなさいよ! たかがスケルトンの分際で偉そうに!』
『このスケルトンはただのスケルトンじゃないぞ。それにお前、この状況でそのセリフはおかしいだろ? もう一回聞いてやる。お前は何者だ? 何しに来た?』
『フン! そんなこと喋るもんですか! ベロベロベロ……』
女吸血鬼は舌を出して、思いっきり憎らしい顔をした。
『なるほど、よぉく分かった』
俺の土地に侵入しておいてその態度とは。タップリお仕置きをしてやる。
俺は女吸血鬼のステータスを確認する。
吸血鬼もアンデッドだから俺の術が使えるのだ。
主人:エリザベート・フォン・インゲルシュタイン
名前:ベロニカ・アンデルセン
種族:ヴァンパイア
分類:後天種
状態:ダメージ小・飢餓
熟練:小
特記:なし
スケルトンたちのステータスとはちょっと細部が違うが、俺がやることは同じだ。
主人の項目を俺の名前に変えてやる。
『おぉ! 何だこれ』
若干の抵抗というか、軽い電撃のようなものが精神に走った。
しばらく何かしらの抵抗が続いたのち、名前の書き換えにようやく成功した。
スケルトンほどは簡単にいかなかったのは、意思のある存在だからかな。
主人:イチロウ・トオヤマ
名前:ベロニカ・アンデルセン
種族:ヴァンパイア
分類:後天種
状態:ダメージ小・飢餓
熟練:小
特記:なし
『よし!』
俺はベロニカの拘束を解いてやる。
『フン! 初めからそうすればいいのよ! あんたネクロマンサーね? 今からお礼参りに伺うわ。覚悟なさい!』
ベロニカが赤い目を光らせて、ニタリと笑った。
『いや、それには及ばんよ。じゃぁベロニカちゃんよ、そこで裸踊りをしろ』
『はぁ!? 何バカなこと言ってんのよ! それに何で私の名を――、あぅ……かしこまりました、マスター』
ベロニカがスルスルと服を脱いで、あっけなく素っ裸になった。
輝くような銀髪と整った顔立ち、真っ白い肌にすらりと均整のとれた体つき。外見だけは名工が作った彫刻ように見事だ。久々に見た女の裸に、俺の鼻の下が伸びる。
『おぉぅ! 眼福眼福。ほらほら、もっと乳を揺すれ。尻もこっちに向けて振ってみろ』
『ちょ、ちょっと! ……かしこまりました、マスター』
ベロニカは屈辱に歪んだ顔で、裸踊りをするのだった。
『ムフフ……。たまらんなぁ』
『まったく……。しようのない奴よ』
クロゼルはちょっと呆れている。
「イチロウ! ちょっと何やってるのよ!」
俺のニヤケ顔から何かを察したリサが、怒気を含んだ視線を俺に向けている。
「あぅ……。いやいや、ヴァンパイアを捕まえてしもべにしたとこだよ」
「ほんとにぃ? 何か悪いこと考えてたでしょ?」
「まさかぁ、ははははは!」
『さてさて、ベロニカ。もう一回同じ質問をするぞ。ここへ何しに来たんだ?』
『絶対に言わな――! はい、腹を空かせて空を飛んでおりましたら、美味しそうな血の匂いがしたもので、ついフラフラっと……』
『なんだ、そんなことかよ。ほらほら、裸踊りは続けるんだよよ、ムフフ』
『うぅぅ……』
『腹が減ってると言っても、俺たちの血を吸わせてやるわけにはいかんからなぁ。お前に血を吸われたら、俺たちがヴァンパイアになるんだろ?』
『フン、そうに決まっ――! いいえ、私は低級なヴァンパイアですので、そんな能力はございません。血が無理でしたら、お酒でも代用がききます』
『え? 酒?』
『ヴァンパイアは人間の血の中の精気を吸って生きておるのじゃ。酒にも酒精が含まれておるからの』
『ふ~ん。大人しく俺のしもべになるなら、酒くらい飲ましてやるぞ?』
『誰があんた――! ありがとうございます。この御恩、一生忘れません。……ぐぅぅ、もう踊りはいいでしょ?』
『うん? お前は生意気だから、もう少し。いや、もっと面白い恰好してみろよ、ムフゥ』
『うぅ……』
しばらく後。
「吸血鬼のベロニカだ」
俺はリサに紹介してやる。当然服は着ている。
もちろん安全のために、他のスケルトンたちと同様に、リサの言うことも聞くように命令してある。
「ベロニカ・アンデルセンです。初めまして」
ちゃんとしないとお仕置きをするぞと脅してあるので、行儀が良いのだ。
「リサよ。よろしく」
「こいつに酒を飲ませてやってくれ」
「お酒でいいの?」
「もちろん、あなたの血でも――」
「酒でいいから」
「はぁい」
ベロニカは目の前に出された酒に不満顔だったが、背に腹は代えられないのだった。
「では、いただきます。ぐびり……。ん! んごごごごご……。ぷはぁ」
主人:イチロウ・トオヤマ
名前:ベロニカ・アンデルセン
種族:ヴァンパイア
分類:後天種
状態:良好
熟練:小
特記:なし
ステータスを確認すると、ダメージも飢餓状態も回復したようだ。
酒一杯で解決するとは、なかなか便利な体だな。
「も、もう一杯」
「おぉ! いける口だねぇ」
リサがおどけて言う。
「よぉし! 朝まで宴会だ!」
夜明けまで三人で酒を飲んだのだった。
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