異世界ネクロマンサー

珈琲党

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20 店を畳む

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 俺たちは旧ガザ街道から少し入った小道のわきで砂糖を売ることにした。
 一般の庶民に売るのではなく、主には行商人相手に細々とやって行こうと考えていた。
 しかし、あっという間に評判になってしまい、連日行列ができるありさまだった。


「はい、並んで並んでぇ! 一人五杯までだからね! 一杯銀貨十枚だよ!」

 リサの呼び込みも堂に入ってきた。
 スケルトンたちを使いこなして客をさばくのも慣れたものだ。
 客たちも初めはスケルトンを恐れていたが、すぐに慣れてしまった。
 むしろ悪質な横入りなどがなくなったおかげで、かえって店の評判が上がったのだ。
 実際、この店の常連になった行商人も数多い。

「品物も確かだし、量もごまかされないし、むしろ安心だよ。変な連中はすぐに追い払ってくれるしね」

 何度か、恐らくは他の大商人の手下と思われる連中が嫌がらせに来た。
 しかし、全て完膚なきまでにボコボコにして追い返している。
 行商人たちからすると胸のすく光景だったのだろう、その時はヤンヤの喝采かっさいを浴びたのだった。

「すまない。今日はここで売り切れだ! もう店じまいだよ!」

 買えなかった客からため息が漏れる。
 まだ昼前だというのに、ここのところずっとこんな調子で砂糖がはけて行くのだった。

「お金が儲かるのは嬉しいんだけど、これじゃぁ使う暇もないね」

 リサが愚痴をこぼす。

「お前なぁ、それは贅沢ってもんだろうが」

「分かってるけどさぁ……」

「まぁ、もうしばらく待ってくれ。俺に考えがあるから」


 それから一月ほどは、そのまま砂糖の小売りを続けた。
 店は繁盛していた。というか予想以上に繁盛しすぎたのだ。
 常連客から惜しまれはしたが、結局、店を畳むことにした。

 旧道沿いに立てていた店の看板は全て撤去。
 間違って客が入ってこない様、旧ガザ街道からの小道の入口には頑丈なゲートを設置。ゲートにはスケルトンを配置して、出入り管理を徹底することにした。

 元あった店は小道のもう少し奥まった場所へ移動させた。
 もはや店としてではなく、別な用途で使うつもりだ。
 場所的には、ちょうど俺たちの家と新しく作ったゲートとの中間地点辺りになる。
 小道をもう少し奥に入ると、マクド村への枝道があるが、それは今回は関係ない。

 移動させた店に、かつての常連だった行商人たちがやって来た。
 俺は信用できそうな行商人を選んで、彼らに直接砂糖を卸すことにしたのだった。
 移動させた店は、砂糖の卸所として使うわけだ。
 行商人たちからすると、今までよりも移動の手間が増えてしまうが、それでもここに来れば割安で砂糖が手に入るのだ。それに、せっかく並んだのに売り切れ、ということもなくなった。商魂逞しい行商人たちからすれば、ちょっと遠くなったくらい、たいしたことではないのだ。

 行商人たちは首から札をぶら下げている。
 その札をゲートにいるスケルトンに見せると入場できる仕組みだ。
 行商人たちには一壺単位で砂糖を卸すことにした。荷車を引いてきて何壺分もまとめて買って行く者もいる。
 全員見知った者たちなので要領は分かっている。
 騒ぎも混乱もなく、淡々と取引が終わった。

「じゃあ、次の取引は来月だな」

「あぁ、よろしく頼む」

 行商人たちが満足げな顔をして帰って行く。ここで仕入れた砂糖を町で売れば、確実に大儲けができるのだ。
 入れ違いに別な行商人たちがやって来た。

「頼まれてた品を持って来たぜ」

「そうか、どれどれ……」

 幾人かの行商人には、出入りの御用聞きのようなことをしてもらっている。生活必需品や保存用の容器などを頼んで持ってきてもらっているのだ。

「支払いはどっちにする?」

「砂糖にしてくれ」

 現金よりも砂糖を欲しがる行商人が多い。
 ここで受け取った砂糖を町で売れば、さらに儲けることができる。売る手間が増えるが、彼らは商人、儲けが出るなら多少の手間はいとわないのだった。

「よし、じゃあ砂糖一壺分だな」

 手間賃込みでかなり多めに支払ってやる。
 砂糖は俺らからするとタダみたいなものだから、惜しむ必要はないのだ。むしろこの機会に彼らに恩を売っておけば、何かの時に頼りにできるだろうし。

「おぉ、これはありがたい。他に欲しいものはあるか?」

「そうだなぁ……。岩塩と小麦粉と……この板切れに書いてある奴を頼む。それと樽や壺はまだまだ欲しいから、どんどん持ってきてくれ」

「わかった! じゃまた来週」

「あぁ、頼むよ」

 砂糖の卸は一月ごと、それ以外の取引は週一回と決めている。
 卸所での取引が午前中に終わったので、早々に小屋に戻った。

「品物が届いたぞ」

「わぁ、助かるぅ。すごい便利になったよね」

「だろ? 俺には一寸先の少し先を読み通す力があるのだ。褒めても良いよ」

「何よそれぇ……」

「しかし、金が儲かるのは良いが、もはや使い道があまりないな」

「そうねぇ、今欲しいものはだいたいあるし……」

 それこそ、掃いて捨てるほど銀貨が貯まった。もう数えるのも面倒になり、置き場所にも困るしで、今は地下の物置に雑に放り込んであるのだ。
 こんな世界だから、金を積んだところで大したものは手に入らない。俺もリサも現実的な性格なせいか、宝石や貴金属にはあまり興味がないし。結局欲しいものは金では買えないものなのだ。

 俺が商人を相手にまだ商売をしているのは、便利な通販システムを手放したくないのもあるが、やはり彼らが持ってくる情報が貴重だからだ。
 ちょっとしたニュースでも噂でも、それが役に立つかどうかはともかく、知っておくだけで一定の価値がある。なにせこの世界にはマスコミもネットもないんだから。


「俺としては、スケルトンをもう少し増やしておきたいんだけど。人間の全身の骨って売ってないよね?」

「売ってるわけないじゃない! 怖いんだけど……」

「怖いも何もなぁ」


『骨なら墓場にいくらでも埋まっておるぞ』

『あ! 確かにそうだ! この世界は土葬だったな』

『お主のいた世界は違うのかぇ?』

『俺のいた国だと火葬が主だな。墓の中には骨の一部しか入れない』

『骨の一部は残すのじゃな。燃やすのなら全部灰にした方が楽じゃろうに』

『まぁあれだ、宗教的なこだわりみたいなものだと思う』

『……なるほどの』

『ともかく、うまいこと理由を付けて墓荒らしだな』

『……まったく、呆れていいのか怒っていいのか分からんわぃ』
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