18 / 62
18 伯爵の使者
しおりを挟むある日の朝。
小道の哨戒任務についてるニンジャから連絡が入った。
ここ最近は、スケルトンたちとテレパシー的なやり取りをすることが多くなった。なにせ直接口で指示を出すよりも、正確に早く伝わるからだ。距離的な隔たりも関係がない。俺はどこにどのスケルトンがいて何をしているのか、瞬時に知ることができるのだ。ネクロマンサーとしての腕が上がったんだろうな。
『……ホウモンシャアリ、ますたー』
俺はニンジャの目を借りて、訪問者を確認した。
男が一人、荷物を満載した馬を引いている。身なりが良く姿勢も良い、どこか役人のような雰囲気だ。
『クロゼルはどう思う?』
クロゼルは俺の心を透視して男を確認した。それにしても、結構高度な通信をしているのかもしれない。
『ふむ、見たところ貴族の使者じゃの。話を聞くぐらいなら構わんじゃろ』
『なるほど』
俺はニンジャの体を借りて、その訪問者に問いかけてみた。カメラ付きのインターフォンで会話してるみたいだな。
『失礼ですが、どういったご用件でしょうか?』
その男はひどく驚いた様子だったが、それでもなんとか返事を返してきた。
『わ、私はカステルハイム伯爵様の使者である! ここに住む魔導師殿にお会いしたい。お取次ぎをお願いする』
『……分かりました。ご案内いたしますのでどうぞ』
俺はそのままニンジャに案内させることにした。
『そ、そうかよろしく頼む』
それから数時間後、ニンジャに案内されて伯爵の使者が小屋にやって来た。
「これはどうも、初めまして、パウム・エンドルフェンの後継者のイチロウと申します。こちらは同じく魔導師のリサです」
「初めまして、使者様」
俺たちは愛想よく自己紹介をして、使者を小屋に案内する。
「ちょうど良い時間ですから、食事でもとりながらゆっくりお話をしましょう」
「……これは、かたじけない」
タイミングよく鹿が捕れていたので、鹿肉のステーキをふるまうことにした。付け合わせは余りに余っているニャガ芋で作ったマッシュポテトと、ナースとカブーラの塩漬け。味付けが塩だけなのが残念なところだが……。
「おぉ! これは豪勢ですな! むぐむぐ……、味もなかなかのものですぞ! ……むぐむぐ、うん、これは旨い!」
「よろしければ、自家製の酒もありますで、どうぞやってください」
「おぉ、これはこれは。ゴクリ……、ほほぉ、この酒もなかなかのものですなぁ!」
俺は味を少々心配していたが、全く問題なさそうだ。伯爵の使者は存分に食事と酒を堪能している様子だ。
食事が一段落したところで俺は話を切り出した。
「それで、使者殿は今回どのようなご用向きでおいでになったのですか?」
「そうでした。食事があまりに素晴らしくて、忘れるところでしたよ、ハハハ。伯爵様からイチロウ殿へお祝いの品をお届けに参ったのです」
「お祝い? さて、どういったお祝いなのでしょうか?」
「イチロウ殿がパウム女史の後継に就任された、そのお祝いということです。パウム女史はカステルハイム伯領随一の魔導師でしたからな」
なるほど、ここら辺りはカステルハイム伯が治めているってことなのか。
「……はぁ、そうですか。う~ん、それはありがたいのですが、やはりお祝いの品は受け取れません。お気持ちだけで結構ですから」
「いや、しかしそれでは困るのです! 私としてもイチロウ殿に受け取っていただかなければ、伯爵様に申し訳が立たないのです」
使者の顔が青くなる。
「そうは言われましてもねぇ……」
「そこをなんとか! どうか、よろしくお願いします!」
確かに、このまま帰ると子供の使いになってしまうかな。
「……それでしたら、ご提案があるのですが……」
「それは、どういったものでしょうか?」
「私どもに、この森の管理を正式に任せていただきたいのです」
「……そ、そうは言われましても……、具体的にはどのような?」
「森にまつわる面倒事は全て私どもで解決しましょう。その代わりに一定の自治を認めて頂きたいのです。まぁ、現状はすでにそうなっているわけですが、伯爵様のお墨付きということであれば、より良い働きができるかと思います」
「……なるほど。しかし私の一存では決められませんので……」
「当然、一定の税も納めるつもりです。私としましてはそうですねぇ、年に砂糖を一壺でどうかと考えているのですが……」
「さ、砂糖ですと! そんな貴重なものをどのように?」
俺はあらかじめ用意しておいた砂糖の入った壺を取り出す。
「作り方についてはお教えできませんが、こちらをご覧になってください」
「な、何と! 失礼ながら、本当にこの中に砂糖が詰まっているのですか?」
俺は壺の中の砂糖を全てテーブルに出す。
「どうぞ、ご確認ください」
「そうですか、では……、おぉ、確かに砂糖ですな! こ、この分量を毎年納めていただけると?」
「はい、とりあえずこの砂糖はお近づきの印ということで、伯爵様に差し上げます、税としては改めて別途お納めしますので」
「な! よ、よろしいので?」
「えぇ、もちろんです。私どもに森を任せるという内容の公文書さえいただければ」
「なるほど、イチロウ殿のお考えはしかと伯爵様へお伝えいたします」
「そうですか、よろしくお願いいたします。これは使者殿への個人的な贈り物です。どうぞお持ち帰りください」
と言って俺は砂糖の小袋と酒を使者へ手渡した。
「こ、これは! かたじけない」
伯爵の使者は上機嫌で帰っていったのだった。
「ふ~ぅ、疲れたぁ」
「なんか、普段のイチロウと全然違った。貴族みたいな話し方するのね」
「ハハハ、会話っていうのは相手に合わせてやった方が上手く行くんだよ。相手が貴族の部下だったから、それに合わせただけのことだよ」
「ふ~ん、それで上手く行ったの?」
「あぁ、手ごたえはあったよ。あとは、あの使者の働きしだいだけどな。まぁそのうち返事が返ってくるはずだ」
「へぇ! お祝いでもする?」
「まぁ、それは良い返事が返って来てからだな」
――――――――――――――――――――――――――
数日後。
カステルハイム城。
カステルハイム伯と執事が話をしている。
「祝いの品がそのまま返ってきたときには肝が冷えたものじゃが、なるほど、森をよこせということじゃったか。しかし、これは悪くない取り決めかも知れんな」
「確かにあの森の扱いは、私どもとしても少々持て余していたところでございます。その管理を全て押し付けた上で、税までとれるということですから、使者殿の交渉はなかなか上手く行ったようですな」
「うむ。それに名目上、あの魔導師どもはわしの配下ということになるのじゃ。まぁ、実際いうことを聞くかどうかは別にして、こちらが攻撃される心配は減ったのじゃからな」
「それにしても、あの砂糖はなかなのものです。どこから持ってきているのかは存じませんが、この辺りで簡単に手に入るような物ではありません」
「ふむ、我が領としては不利益がないと思われる。あやつらの気が変わらぬうちに決めてしまおうぞ! さっそく使者に返事を持たせるのじゃ」
「ははっ!」
「これでようやく肩の荷を降ろせるわぃ」
カステルハイム伯爵はグイっと伸びをした。久しく味わうことがなかった清々しさを感じたのだった。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
異世界から帰ってきたら終末を迎えていた ~終末は異世界アイテムでのんびり過ごす~
十本スイ
ファンタジー
高校生の時に異世界に召喚された主人公――四河日門。文化レベルが低過ぎる異世界に我慢ならず、元の世界へと戻ってきたのはいいのだが、地球は自分が知っている世界とはかけ離れた環境へと変貌していた。文明は崩壊し、人々はゾンビとなり世界は終末を迎えてしまっていたのだ。大きなショックを受ける日門だが、それでも持ち前のポジティブさを発揮し、せっかくだからと終末世界を異世界アイテムなどを使ってのんびり暮らすことにしたのである。
土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~
にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。
「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。
主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。
[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました
mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。
ーーーーーーーーーーーーー
エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。
そんなところにある老人が助け舟を出す。
そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。
努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。
エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。
【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】
スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。
帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。
しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。
自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。
※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。
※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。
〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜
・クリス(男・エルフ・570歳)
チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
後宮小説家、佐野伝達
秋月真鳥
恋愛
月の帝国の支配下にある日の国から、月の帝国の後宮に行く途中、海賊に襲われて溺れかけて佐野(さの)伝達(でんたつ)は前世、小説家だったことを思い出す。
この世界は、男性の出生率が低く、病気で死にやすい、男女逆転の世界だった。
皇帝陛下の正室、同郷の千里(せんり)に頼まれて、伝達は後宮で起きた自殺未遂事件を調べる。
そのために前世の能力を発揮して、皇帝陛下の気を引く小説を書こうとするが、皇帝陛下は全く興味を示さず、伝達が前世で書きたくないのに売れるから書いていたボーイズラブ小説を読むと、感動して伝達を皇帝陛下直属の吟遊詩人にしてくれる。
皇帝陛下直属の吟遊詩人になった伝達は、皇帝陛下の乳姉妹の女騎士、シャムスと共に後宮の闇を暴き出す。
※主人公がボーイズラブ小説を書いて、それを皇帝陛下や女騎士が萌えながら読む描写があります。
※後宮ものですが、皇帝陛下は正室一筋で、ハーレムものではありません。
※雰囲気アラビアンです。
本編完結まで書き上げて予約投稿してあります。
小説家になろう様、ノベルアップ+様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる