異世界ネクロマンサー

珈琲党

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15 ゾンビ村

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 小屋から真っすぐ東に半日歩くと、森の端にたどり着いた。そこには魔法的な結界を作るための、魔法陣の一つがあったのだった。森を抜けたはるか東には町があるようだ。

 俺たち二人はまだ手配されているはずなので、気軽に町へ行くわけにはいかない。ほとぼりが冷めるまでは森の中で大人しく暮らさないとな。
 東側の境界が分かったので、俺たちはそこから南へ進むことにした。何もなければ旧ガザ街道へ突き当たるはずだ。
 

「そろそろ日が暮れるから、今日はこの辺で野宿だな」

「うん」

 焚き木を集めて、石を積んで簡単なかまどを作って、火をおこす。
 リサは着火の魔法も習得しているので、ライターを使うよりも気軽に火をおこせるのだった。

「本当に魔法使いみたいだな。いや、魔導師だったか……」

「私もついこの間までは、こんなことができるとは思ってもみなかったよ」

「魔導師って珍しいんだよな?」

「うん、私の村にはいなかった。魔導師はだいたい貴族に仕えているんだって」

「パウム師匠みたいなのは少数派ってことか」

「たぶんそうだと思うよ」

 優秀だが宮仕えが出来ない奴って、俺の世界にもいたなぁ。そういう奴はだいたいが会社をおこして社長になるか、個人事業主になるかだな。
 パウム師匠は何をやって食ってたのかな。自給自足? まぁ、魔法を使えば何とでもなったのかもしれないが。


「外で寝るのは久しぶりね」

「あの墓場以来か……。今日もいい天気で良かったな」

 焚火の番をスケルトンに命令して、俺たちは朝までぐっすり眠った。


 翌朝。

 簡単な朝食を済ませた俺たちは、また探索を始めた。
 今日はあの魔法陣から真っすぐ南へ移動している。予想では、半日ほど歩けば旧ガザ街道に突き当たるはずだ。

 歩き始めて三時間くらいのところで、少し開けた場所に出た。今は草が生い茂っているが、元々は広場だったと思われる。よくよく見渡してみると、ボロボロに朽ちた民家があちこちに点在している。

「ここって……」

「廃村だろうな。しかし森の中にも村があったのか。ほら、あそこに元村人がいるぜ」

 草をかき分けて、緩慢な動きで黒っぽい人物が歩いてくる。黒っぽく見えるのは、全身ドロドロに腐ってるからだろう。目玉はすでに腐り落ち、かわりに青白い炎がポッと灯っている。そいつがこっちを見ながらゆっくりと歩いてくる。

「きゃっ! ゾ、ゾ、ゾ、ゾンビ!」

「だな。結構いっぱいいるな」

 草むらのあちこちからゾンビどもが顔を出す。ぱっと見で五十体はいるだろうか。もしかしたら、村人全員いるのかもしれない。

「ちょ、ちょっと、早く逃げよう! ゾンビだらけなのよ!」

「おいリサ、俺の肩書を忘れたのか?」

 ざっと見まわしたが、彼らからは敵意を感じない。
 ステータスを確認するとやっぱり、術者の名前が俺になっている。最初に会ったスケルトンたちと同じで、パウム師匠から俺に所有権が切り替わっているようだ。どうやっているのかは不明だが……。

「ここにいるゾンビどもは俺のしもべなんだよ」

「ひぇぇ~。でも、やっぱり気持ちが悪いよ~」

 リサは青い顔で俺の袖につかまっている。

「確かにそれはそうだな……」

 歩く腐乱死体というのはビジュアル的にインパクトがありすぎる。ステータスの表示設定をいじればなんとかなるかと思ったが、何ともならんかった。
 見た目の変更はできるが、結局どれに変更しても、趣向の違う気持ち悪い見た目になるだけだったのだ。スケルトンの時には上手く行ったのになぁ……。

 クラスチェンジできるかと思ったが、熟練が極でもできないらしい。ゾンビはどこまでもゾンビのままだった。なんだろう、この罰ゲームのような存在は。

「こいつらは、もうどうしようもないみたいだ」

「えぇ~、何よそれぇ……」

 仕方がないので、今まで通り村の中を徘徊させておくことにした。小屋に連れて帰るのはリサが絶対に嫌がるからなぁ。使い道を思いつくまでは、かわいそうだがこのままだな。


『おかしいなぁ、ゾンビもスケルトンも原理的には同じだと思うんだけど、なんでこんなに違うんだろう』

『ふむ、確かにそうじゃのぉ。人間の死体に偽りの魂を宿らせたもの、という点では同じものなんじゃがの。ひょっとしたら、そのゾンビどもにだけ、何かしらの魔法がかけられておるのかもしれぬ』

『ここにいるゾンビだけ特殊ってことか……』

 
 俺たちは村の中を散策して、二つ目の魔法陣を発見した。

「ふ~ん、こいつらはこれを守っていたのかな……」

「やっぱり、これも結界をはるための魔法陣の一つね。あ、あそこが村の出入り口みたいだよ」

 村の正面入り口と思われる場所に、簡素なアーチが作られている。外側に回ってみると、アーチの真ん中あたりに村の名前が彫り込まれてあった。
 なんとかマクド村と読めた。しかし村の名前は真っ黒い文字で塗りつぶされていたのだった。

 愚劣で無礼な者どもよ、
 醜い姿で未来永劫彷徨みらいえいごうさまよい続けるがよい!


「こ、これって……」

「あぁ、パウム師匠の文字だと思う。この村の人たちと、何かいざこざがあったのかもしれないな」

『ふむ、あのゾンビどもには強烈な呪いがかかっておるようじゃの。あの文字から漂う恐ろしいまでの気配からして、この呪いは千年は解けんぞ』


 彼らと何があったのかは知らないけど、それにしても徹底しているなぁ。パウム師匠の恐ろしい一面を見てしまった。怒らせてはいけない人物の最上位だろうな。村人たちも喧嘩を売る相手が悪すぎた。ご愁傷様でしたとしか言いようがない。


「う~ん、俺にはどうすることもできないな」

「私もこれは無理だと思う……」


 結局、俺たちは何をすることも出来ずマクド村を出た。
 村の正面出入り口から、西に向かって真っすぐ道が続いている。雑草だらけなのでスケルトンに刈らせつつ進んだ。このまま進めば、小屋に続くあの小道に突き当たるはずだ。

 食欲をなくした俺たちは昼飯も食わずに、ただ歩き続けた。村から歩いて四時間ほどでいつもの小道へでた。
 侵入者の警戒のために配置していたニンジャとアーチャーが顔を出した。

「「……、ますたー」」

「おぉ、ご苦労!」

 それから俺たちは小道をたどって小屋に帰ってきた。もうすぐ日が落ちようとしていた。

「はぁ~疲れた~」

「小屋に帰るとホッとするね」

 リサが俺に洗濯の魔法をかけてくれる。汗や砂ぼこりがきれいさっぱり落ちて、服からは洗いたてのいい匂いまでしてくる。本当に生活魔法は便利だなぁ。

「少し休んでから飯の支度をしよう」

「うん!」


 俺たちは二日かけて、森の南東エリアをぐるっと時計回りに踏破したことになる。今回の小旅行はそれなりに収穫があった。森を抜けた東の方に町があることも確認できたし、魔法陣二つとゾンビだらけの廃村一つを見つけたし、パウム師匠の恐ろしい一面を知ることも出来たし……。
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