異世界ネクロマンサー

珈琲党

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12 賊が侵入したらしい

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 ヘクターという男はゴロツキどもの間では、それなりに名が知られていた。といっても、名声ではなく悪名がだが……。彼をしたうものは皆無であり、陰で嫌う者は数多い。

 剣の腕前は達者で、頭もそこそこきれる。しかし、どちらにも上には上がいる。彼には貴族を襲えるほどの武力はなく、大商人をだませるほどの知恵はなかった。せいぜいが、小金を持った庶民にたいして粗暴な強盗をはたらいている程度のケチな犯罪者だった。
 彼のような者はゴロツキ連中には大勢いたが、なぜ彼がひどく嫌われているのか。それは、彼の冷酷さと残忍さが際立っていたからだ。

 強盗のついでに被害者をなぶり殺しにする、ということをごく日常的に行っていた。被害者が若い娘などであった場合は、さんざんなぐさみ物にした上で、なぶり殺しにするのだ。彼はそういったことを楽しんで行っていた。場合によってはそちらが主な目的になることすらあった。そういう異常な趣味趣向の持ち主だったのだ。
 さらには、それを隠すどころか誇らしげに吹聴ふいちょうするようなところがあったので、彼の悪行は裏社会では周知の事実だった。

 犯罪者といえども、自身の腕に一定のプライドを持つ者もいる。ビジネスの一つとして淡々と平和的に活動している者たちも多い。彼らの基準からすると、ヘクターのやり口は下の下であり、彼のような異常者が大きな顔をすることを苦々しく思っていたのだった。
 

「なぁヘクター、お前も大魔導師パウムは知ってるだろ?」

「あぁ、マクドーマンの森に住んでるやべぇババアだな」

「そうだ。そのババアがな、そろそろくたばりかけてるらしいんだよ」

「ふん、それで?」

「魔導師っていうのはよぉ、たいがいが貴重な素材やら宝石やらをたんまり貯めこんでるっていうじゃねぇか」

「……なるほど。それで、くたばりかけっていうのは本当なんだろうな?」

「それがなぁ、あの辺りをウロウロしてたスケルトンが姿を見せなくなったんだよ」

「あのスケルトンどもはババアの手駒だったな」 

「あぁ、そういうのを操る力もなくなったんだろう。今は子供だか孫だかが、ババアの面倒を見てるらしいが、なぁに、ものの数じゃねぇよ」

「その子供だか孫だかってのは、どんな奴らだ?」

「若けぇ男一人と女のガキが一人だけだ」

「ふん、そうか……」


 ヘクターは情報屋との会話を思い出して、薄ら笑いを浮かべた。
 
「これは楽勝だな。死にぞこないのババアと可哀そうな男はさっさと片付けて、女のガキはしばらく生かしてたっぷり可愛がってやるぜ。ヒヒヒ……、あいつらもこういうのが好きだしなぁ」
  
 その日の夜、ヘクターはいつもの仲間を連れてマクドーマンの森へ向かったのだった。



「ヘクター、ここか?」

「そうだ、地面を見ろ、この辺りだけ妙に平らだろ? ここには枝道があるんだ」

「それにしても草がすげぇな……。お、確かにこの先に道があるぞ」

「この杭は何だ? 何か書いてある」

「そんなもの気にするな。ただの脅し文句だ。行くぞ!」



 そのとき、木陰から黒い影がスッと出てきて言った。

「……ココハシユウチダ、タダチニヒキカエセ……」



「はぁ? なんだてめぇは!」

「へへっ、お前一人で、俺たちとやり合うつもりか」

「見られたからには、生かしちゃおけねぇな」

 ヘクターたちは剣を抜いて、黒い影を半円形に包囲する。

「……ケイコクハシタ」

 と言い終わると同時に、黒い疾風がフワッと駆け抜けた。

「そ――」

「な――」

「え?」

 ヘクターの左右にいた仲間の首がポロっと落ちる。
 ドスドスッと音が響いて地面に転がるのを見ても、自分の目が信じられない。
 仲間の体が首から血を噴出させながら、数歩歩いて横倒しになった。
 ドサッドサッ

「何ぃ!?」

 なぜか地面が傾きながら、上にせり上がってくる。いや――
 
 ヘクターは自分の首が地面に到着する前に絶命した。




「ねぇ、イチロウ。起きて」

 俺はリサに叩き起こされた。

「む……。何だよ、まだ夜中じゃないか」

「ニンジャが来てるの」

「忍者!? ……あぁお前か、どうした?」

 旧道から小屋につながる小道には、各種のスケルトンたちを配置してあった。スケルトン・ニンジャは哨戒任務を担当しているのだ。

「……シンニュウシャアリ、タイショシマシタ、ますたー」

「そうか、ご苦労。明朝確認するからそのままにしておいてくれ。お前は持ち場に戻れ」

「……カシコマリマシタ、ますたー」



 翌朝。

 スケルトン・ニンジャが昨夜、侵入者を処分したらしいので状況を確認に行った。案の定、そこには首と胴体が離れた死体があった。数は三体。
 小悪党が何か悪さをしにやって来たんだろうな。マヌケな奴らだ……。こういう連中に殺されそうになったことがあるので、まったく同情する気になれない。

「うわぁ……、朝からキッツイなぁ。食欲が一気になくなったぜ。リサは家にいればよかったのに」

「うん……、でも気になったんだもん」
 
 リサは吐きそうな顔をしている。

「後片付けは、スケルトンたちに任せよう」

 俺は汎用スケルトンたちに死体の処分を命じた。死体でゾンビを作ってみようかとも思ったが、気持ちが悪いのでやっぱりやめた。

「この人たち、道に迷って間違って入って来たってことはないよね」

「ないない。夜中に草をかき分けて、わざわざ脇道に入って来るっておかしいだろ? なんで街道を進まないんだよ。旧道って言ってもこっちの道よりはマシなんだから。それに私有地の看板も出してるし、スケルトンたちにも最初は警告するように言ってあるし。こういう連中はどうせろくなもんじゃないよ」

「……そうねぇ、旅人の恰好じゃないし、イチロウの言う通りね」

「それにしても、さすが忍者って感じで、鮮やかな手際だな」

「イチロウ、気になってたけどニンジャって何なの?」

「えぇっと、俺の国では間諜のことをニンジャって呼ぶんだよ。特殊な暗殺術が使えるんだ」

 少し違うかもしれないが、大間違いじゃないはずだ。

「何それ、怖い……」

「侵入者にとっては脅威だろうな。でも俺たちにとっては心強い味方だぜ」


『フフフ……、今回はイチロウの慎重さが功を奏したというところじゃな』

『まぁな。予想はしてたけど、やっぱりああいう連中はいるんだよなぁ。警戒は常にしておかないと』




 一週間後。王都のどこか。

「リッキー、例の話はヘクターに伝えたんだな?」

「あぁ、一週間ぐらい前かな。あの野郎、俺の話を聞いてニタニタしてやがったぜ」

「ここ最近は奴らの顔を見ねぇし、上手く行ったようだな」

「そうだな。あそこへ強盗タタキをしに行ったんなら、もうこの世にはいねぇだろうさ」

「ところで、魔導師のばあさんはまだ生きてるのか?」

「まさか。ばあさんはもうとっくに死んでるぜ。今は別の魔導師が後を継いでいるらしい」

「何!? どんな――」

 情報屋のリッキーは青い顔をして話をさえぎる。

「もうあそこのことは口に出すな。命が惜しいならもう忘れろ。俺の知り合いの魔導師も、ちょっと調査しようとしただけで死にかけてるんだ。魔法的な結界やら罠やらがテンコ盛りらしいからな。ヤベェなんてもんじゃねぇよ。あの野郎をまんまとハメてやったんだ、もうそれで満足だろ?」
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