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09 ステータスオープン
しおりを挟む生活の魔法という、生活に便利な魔法をリサは教わっている。魔法を教えているのは多分、大魔導師パウムの霊だと思うが、確かではない。夢から覚めると、その辺りがかなりおぼろげになるのだ。
リサは魔法の腕を少しずつ上げてきているようで、頼もしい限りだ。俺もリサには負けないように、ネクロマンサーとしての腕を上げなければ……。
あるとき、スケルトンの一体を何気なく見ると、妙なものがダブって見えた。
「んん?……、ナニコレ」
目がおかしくなったのかと思ったが、どうも違う。
目で見ているのでははなく、脳内に直接イメージが投影されているようなのだ。
『イチロウ、どうしたのだ?』
『何か変なものが、スケルトンにダブって見えるんだ。表のような何かが』
『……見えないが。ふむ……、イチロウの心の中に何かが浮かんでおるようだな。もう少しそれに精神を集中できるか?』
『やってみる。ぬぬぬ……』
ぼんやりしていたイメージにだんだんピントが合ってくる。
「おぉ! これってステータス画面じゃないか?」
術者:イチロウ・トオヤマ
名前:なし
種類:スケルトン
用途:汎用
状態:良好
熟練:極
特記:用途変更可能
『なるほど。こやつのことが手に取るように分かるわけじゃな。私は初めて見るが、これは分かりやすいの』
『スケルトンの用途変更って何だろ』
なんとなく意識を集中すると、メニューがするすると開く。どうやらスケルトンの用途を専門化させることができるらしい。
近接戦闘、中距離戦闘、遠距離戦闘、索敵、攻撃魔法、防御魔法
見たところ、変更できる用途は六種類あるらしい。
『ふ~む、じゃあ試しに近接戦闘に変更してみるか』
目の前のスケルトンに光の粒がふわぁっと集まり、強い光を発した。
光が収まると、スケルトンの外形が少し変化していた。ボロボロだった甲冑や剣が、ちゃんとしたものに変わり、左手には小ぶりの盾まで装備している。
どれどれと、ステータス画面を見る。
術者:イチロウ・トオヤマ
名前:なし
種類:スケルトン・ファイター
用途:近接戦闘
状態:良好
熟練:小
特記:なし
『なるほど、こうなるのか。あぁっ! 用途変更は一回きりかよ……』
『ほぉ、これは面白いのぉ。こういう使い方があるのかぇ』
「じゃぁお前、剣を振ってみろ」
俺はスケルトン・ファイターに命じる。
『……カシコマリマシタ、ますたー』
スケルトン・ファイターが、ヒュンヒュンと歯切れの良い音を立て剣を振る。
汎用のスケルトンよりも身のこなしが滑らかで、動きがはやい。剣のあつかいも様になっている。
「なんかちょっと格好いいな。よし、終了。休め」
『……カシコマリマシタ、ますたー』
「さてさて、どうしたものかね……」
「イチロウ、どうしたの?」
やって来たリサに事の次第を説明した。
「面白そう! 一種類ずつ変更しようよ。それでも汎用は四体残るんでしょ?」
「そうだな、それでいくか」
槍使いのスケルトン・ランサー
弓使いのスケルトン・アーチャー
索敵や追跡などができるスケルトン・レンジャー
衝撃の魔法が使えるスケルトン・メイジ
防御の魔法が使えるスケルトン・プリースト
アーチャーの矢は空気中の魔素から合成されるので、無限に撃てる。これは地味だがちょっと凄いと思った。あとは字面通りのようだな。
彼らは戦闘に特化されているらしく、汎用のスケルトンよりも動きが良い。なかなか頼もしいが、残念ながら雑用や農作業はできないのだった。
用途変更したスケルトン六体を横一列に並ばせる。
「お前たち六体はチームを組んで、森の野生動物を狩ってきてくれ。何も捕れなくても、日暮れ前までにはここへ戻ってくること!」
とりあえず、彼らの実力を見ておきたいので、成果の分かる簡単な任務を与えてみた。まぁ、簡単といっても俺にはこなせないがな。
『『……カシコマリマシタ、ますたー』』
ザッザッザッザッザッ……
スケルトンパーティーは隊列を組み、森の中へ入っていった。
「いってらっしゃーい」
リサが彼らに手を振っている。スケルトンたちのいる生活にもう慣れたようだ。
それから数時間後。
ドォンという衝撃音が辺りに響く。メイジの衝撃の魔法だ。音のしたあたりが少し騒がしくなったが、すぐに静かになった。
それからしばらくして。
ザッザッザッザッザッ……
スケルトンたちが獲物を担いで帰って来た。見たところメスの鹿だ。
『『……ニンムカンリョウシマシタ、ますたー』』
俺の足元に捕ってきた鹿をドサッと置いた。首に致命傷を負っている。
「お、おぅ、ご苦労!」
ふ~む、こいつをどうしたものか……。そうだ!
「スケルトン・レンジャー、こいつを解体して、食えるようにしてくれ」
『……カシコマリマシタ、ますたー』
スケルトン・レンジャーはナイフを取り出して、鹿の解体に取り掛かった。
腹を裂いて内臓を取り出し、毛皮をはぎ、部位ごとに肉を分けて行く。実に手際が良くて見とれてしまう。
スケルトン・レンジャーは万能タイプで、ナイフを使った近接戦闘や格闘もこなせるし、こういったサバイバル技術も持っているのだった。スケルトンにサバイバル技術は要らないと思うが、俺には役に立っている。
「こいつだけでも結構な戦力だよなぁ」
『……カイタイシュウリョウシマシタ、ますたー』
「うむ、ご苦労! じゃぁ、お前たちは小屋周辺の警戒にあたってくれ」
『『……カシコマリマシタ、ますたー』』
ザッザッザッザッザッ……
「すごぉい! 肉だわ!」
「当分は肉が食い放題だぞ」
「やったー!」
「でもこんなには食いきれんから、干し肉にでもしないとな」
「そうねぇ……」
「とりあえず、肉を切り分けておいてくれ」
「うん!」
俺は小屋に戻って入れ物を探す。大きめの壺があったのでそこに砕いた岩塩と井戸水を入れて濃い目の塩水を作った。
「調味料が塩しかないからなぁ……。ちょっとワインも加えとくかな」
リサが持ってきた肉をさらに薄く切って、壺の中にどんどん入れていった。肉が多すぎて入れ物が足りない。小屋の中にある深皿などを全部使って肉の塩水漬けを作った。
「これをどうするの?」
「しばらく漬けておいてから、水気を切って外に干すんだよ」
「へぇー、イチロウって物知りね」
よう〇べで観た干し肉の作り方を覚えているだけだがなぁ。
「ははは、問題はどこにどう干すかだな」
干し網なんてないだろうし……
「まぁとりあえず、これは置いておいて腹ごしらえだ。肉はまだあるんだろ?」
「うん、これでも半分も減ってないからね」
俺たちは分厚いステーキと肉のたっぷり入ったスープを堪能した。脂身が少なくしっかりとした歯ごたえの赤身の肉は、噛めば噛むほど旨味がしみ出してくる。
「旨いなぁ」
「むぐむぐ……、おいひぃ!」
食事が終わって、肉の干し場を作ることにした。
小屋の中にムシロが何枚かあったのでそれを使うことにする。
少し太めの真っすぐな木の枝を何本も集めて枠を組む。ネジや釘などはないので、適当な紐で縛って作った。出来上がった枠にムシロを敷いて、それを小屋の軒先に紐でつるす。
作った干場に、塩水に漬けておいた肉を並べる。
キッチンペーパーなどはないので、肉をぶんぶん振って水気を飛ばした。
「へぇ、面白いねぇ」
「あとは二、三日干しておくだけだが……、ハエがよってくるなぁ。そうだ!」
俺は汎用スケルトンを二体連れてきて、葉の付いた木の枝を持たせる。
「お前ら、肉に虫とかが寄ってきたら、それで追い払え。肉は落とすなよ!」
『『……カシコマリマシタ、ますたー』』
それからしばらくは肉三昧の日々だった。
干し肉作りも並行して行い、干し肉も山ほど出来た。
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