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05 大魔導師の住処
しおりを挟むリサはいつの間にか俺に身を預けてスヤスヤと寝息をたてている。ワインが効いたのか安心したのか分からないが、まぁ朝まで寝かせてやろう。
スケルトン十体が周囲を警戒してるから、何かあってもたいていは対処できるだろう。そこそこの安全が確保されているのは間違いない。
『イチロウ、知っておるか? スケルトンの脚力は左右で違うのじゃ。普通は右足が左足よりも強い。あえてそのように作るものなのだ』
『へぇ、そうなんだ。でもなんで?』
『簡単に言うと逃走抑止じゃな。何かのはずみで術者の制御が不能になったときに、スケルトンどもが遠くへ逃げないようにしておるのじゃ。あやつらはそう命令されない限りは真っすぐに歩けぬ』
『あぁそうか、右足の力が強いから、自然と左旋回してしまうと』
『そうじゃ。それゆえ、あのスケルトンどもも、拠点からはそう遠く離れておらんはずじゃ』
『拠点?』
『あやつらを作った術者の住処かもしれんし、もっと別なものなのかもしれぬ。いずれにせよ、あやつらの装備を見るにどこかを守っておったはずじゃ』
『なるほど! それが近くにあるかもしれないと……』
『推測でしかないが、可能性は高い』
日が昇り朝日が辺りを照らす。
リサが目を覚まして、う~んと伸びをした。
「やっぱり、誰かいた気がする」
「あいつらのことか?」
俺はスケルトンを指さす。
「もぅ! そうじゃなくて、女の人」
「ふ~ん」
俺は適当な返事をしてとぼけた。
朝飯は昨日と同じスープと硬いパン。味はいまいちだが、これしかないので仕方ない。
「イチロウは贅沢だよ。美味しいじゃないの」
「う~ん、そうかぁ? あぁ、そうそう、ちょっと予定変更していいか?」
俺はクロゼルと話したことを手短に説明した。
「えぇ~、そこに行くの? 」
「そうだ、何かお宝があるかもしれないぜ。まぁ、どうしても急ぐんだったら、あきらめるけど。だめか?」
「ううん、別に急いでないよ。家に帰っても誰もいないし……」
「父親はいないのか?」
「うん、私が小さい頃に死んじゃった」
「そうか……」
「うん、だから急いで帰らなくてもいい。盗られるような物も家にはないし」
「わかった。今日一杯はあいつらの拠点を探索してみよう。そんなに遠くはないはずなんだ」
「うん!」
俺たちは荷物を片付けて出発の準備をした。
墓地に散らばっているスケルトンたちを呼び戻して整列させる。
ガシャガシャ、ガシャン!
『『……セイレツカンリョウ、ますたー』』
「ひぇぇ~」
リサが少し後ずさりする。確かに間近で見ると迫力あるよなぁ。
「よし! 俺たちを拠点まで案内してくれ!」
『『……、……ジッコウフノウ、ますたー』』
「ダメかぁ……」
『あやつらは頭が良くないのだ。脳みそが入ってないからのぉ。あまり抽象的な命令は理解できぬぞ』
クロゼルが指摘する。
「そうか。どこが拠点なのか分からんのか。う~ん……、うん?」
スケルトンの甲冑に何かが刻まれているのを見つけた。
「リサ、その文字は読めるか?」
「えぇ!? これって文字なの? 全然読めないよ」
「知ってる文字のような……、ふぅむ……『大魔導師パウム所有物』、あれ? 読めたぞ」
「えぇ!? すごぉい! 何で読めるの?」
リサが目を丸くした。
なんで読めたのかわからんが、深く考えるのはよそう。どうせ考えても答えなどは出ないのだ。
「よし! お前ら、俺たちを大魔導師パウムの住処まで案内してくれ!」
『『……カシコマリマシタ、ますたー』』
「おぉ! 行けそうだぞ!」
『『……イチジョウホウノシュウシュウチュウ』』
『『……ゲンザイイチ、キュウがざカイドウゾイ、まくどボチアト』』
『『……ケイロカクニン』』
『『……ジュンビカンリョウ、ますたー』』
「よし! 出発!」
ガシャン、ガシャン、ガシャン、……。
「行くぞ、リサ」
「う、うん。イチロウっていったい何者?」
「実は大魔導師パウムの一番弟子、大賢者イチロウなのじゃ、フハハハハハ」
「えぇ!? うそばっかりぃ!」
ニヤニヤしている俺の顔を見て、リサが俺の脇腹をつねる。
「ぎゃぁ! やめんか」
「もぅ……」
『フフフ……、仲が良いようでなによりじゃな』
俺たちはスケルトンたちの後を追った。スケルトンたちの歩みは俺たちよりも少し遅いくらいだったので、ついて行くのはわけはなかった。
旧街道を少し進んだあたりで森に入った。
一見すると道なき道のようだが、地面は平らで歩きやすい。雑草が生い茂っているので分からなくなっているが、どうやらここには元々道があったと思われる。誰も歩かなくなって雑草でおおわれたのだろう。
「よし! 剣で草を払いながら進め!」
『『……カシコマリマシタ、ますたー』』
ザンッ、ガシャン、ザンッ、ガシャン、……。
スケルトンたちは迷わずズンズン道を進んでゆく。見た目はあまり良くないが
、結構頼もしい奴らじゃないか。
『なぁ、クロゼル。スケルトンは何を食って生きてるんだ?』
『フフフ……、厳密には生きてはおらんが、あえていえば魔素じゃな』
『魔素?』
『ふむ、魔力の源になるものじゃ。そこらの空気に薄く含まれておる。魔導師たちはその魔素を凝縮して、不可能事を可能にしておるのじゃ。スケルトンに与えられた仮の魂は、魔素を集める働きをしておる』
『へぇ、つまりスケルトンたちはそこらの空気を食って動いてるのか?』
『端的に言えばそうじゃな』
リサが裾を引っぱっている。
「ん?」
「そろそろお昼にしない? お腹減ったよ」
「そうだな、じゃぁこの辺で休憩するか。よし! 全体止まれ!」
ガシャガシャ、ガシャン!
「お前たちは周辺を警戒してくれ」
『『……カシコマリマシタ、ますたー』』
スケルトンたちが周辺に散らばる。
昼飯の支度、と言っても硬いパンと干し肉、それに水代わりのワインだけで済ますことにした。そろそろ水が乏しくなってきたのだ。水場があれば助かるんだが。
「ねぇ、イチロウ。大魔導師パウムの住処ってどんなとこだと思う?」
「そうだなぁ、たぶん地下室がダンジョンになってて、スケルトンやゾンビーがいっぱいいるんじゃね? それでダンジョン最深部に、お宝と一緒に大魔導師パウムがミイラ化して眠ってるんだ。夢があるなぁ……」
「何よそれぇ! 夢も希望もないじゃない! もっと綺麗なところが良い」
「そんなの行ってみないとわからんだろうが。あんまり期待しすぎるとガッカリするかもしれんぞ。まぁ家なら井戸くらいはあってほしいよな」
「そうねぇ」
昼飯を済ませた俺たちはまた行進を開始した。
それから数時間が経過して、野営をするかどうか考え始めた時に、スケルトンたちの足が止まった。
ガシャ、ガシャ……、ガシャン!
『『……モクテキチニ、トウチャクシマシタ、ますたー』』
「うむ、ご苦労! 周囲の警戒に当たってくれ」
『『……カシコマリマシタ、ますたー』』
スケルトンたちが周辺に散らばった。
開けた場所に小綺麗な小屋がぽつんと建っている。周囲の木々は綺麗に伐採されており、小屋の周辺は森の中なのに明るい。ありがたいことに井戸もあるようすだ。
「なんというか、普通の山小屋だな」
「思ってたのとちょっと違うかも……」
「とりあえず、小屋の中を調べてみよう」
「うん」
俺たちは小屋の入口に向かった。
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