5 / 62
05 大魔導師の住処
しおりを挟むリサはいつの間にか俺に身を預けてスヤスヤと寝息をたてている。ワインが効いたのか安心したのか分からないが、まぁ朝まで寝かせてやろう。
スケルトン十体が周囲を警戒してるから、何かあってもたいていは対処できるだろう。そこそこの安全が確保されているのは間違いない。
『イチロウ、知っておるか? スケルトンの脚力は左右で違うのじゃ。普通は右足が左足よりも強い。あえてそのように作るものなのだ』
『へぇ、そうなんだ。でもなんで?』
『簡単に言うと逃走抑止じゃな。何かのはずみで術者の制御が不能になったときに、スケルトンどもが遠くへ逃げないようにしておるのじゃ。あやつらはそう命令されない限りは真っすぐに歩けぬ』
『あぁそうか、右足の力が強いから、自然と左旋回してしまうと』
『そうじゃ。それゆえ、あのスケルトンどもも、拠点からはそう遠く離れておらんはずじゃ』
『拠点?』
『あやつらを作った術者の住処かもしれんし、もっと別なものなのかもしれぬ。いずれにせよ、あやつらの装備を見るにどこかを守っておったはずじゃ』
『なるほど! それが近くにあるかもしれないと……』
『推測でしかないが、可能性は高い』
日が昇り朝日が辺りを照らす。
リサが目を覚まして、う~んと伸びをした。
「やっぱり、誰かいた気がする」
「あいつらのことか?」
俺はスケルトンを指さす。
「もぅ! そうじゃなくて、女の人」
「ふ~ん」
俺は適当な返事をしてとぼけた。
朝飯は昨日と同じスープと硬いパン。味はいまいちだが、これしかないので仕方ない。
「イチロウは贅沢だよ。美味しいじゃないの」
「う~ん、そうかぁ? あぁ、そうそう、ちょっと予定変更していいか?」
俺はクロゼルと話したことを手短に説明した。
「えぇ~、そこに行くの? 」
「そうだ、何かお宝があるかもしれないぜ。まぁ、どうしても急ぐんだったら、あきらめるけど。だめか?」
「ううん、別に急いでないよ。家に帰っても誰もいないし……」
「父親はいないのか?」
「うん、私が小さい頃に死んじゃった」
「そうか……」
「うん、だから急いで帰らなくてもいい。盗られるような物も家にはないし」
「わかった。今日一杯はあいつらの拠点を探索してみよう。そんなに遠くはないはずなんだ」
「うん!」
俺たちは荷物を片付けて出発の準備をした。
墓地に散らばっているスケルトンたちを呼び戻して整列させる。
ガシャガシャ、ガシャン!
『『……セイレツカンリョウ、ますたー』』
「ひぇぇ~」
リサが少し後ずさりする。確かに間近で見ると迫力あるよなぁ。
「よし! 俺たちを拠点まで案内してくれ!」
『『……、……ジッコウフノウ、ますたー』』
「ダメかぁ……」
『あやつらは頭が良くないのだ。脳みそが入ってないからのぉ。あまり抽象的な命令は理解できぬぞ』
クロゼルが指摘する。
「そうか。どこが拠点なのか分からんのか。う~ん……、うん?」
スケルトンの甲冑に何かが刻まれているのを見つけた。
「リサ、その文字は読めるか?」
「えぇ!? これって文字なの? 全然読めないよ」
「知ってる文字のような……、ふぅむ……『大魔導師パウム所有物』、あれ? 読めたぞ」
「えぇ!? すごぉい! 何で読めるの?」
リサが目を丸くした。
なんで読めたのかわからんが、深く考えるのはよそう。どうせ考えても答えなどは出ないのだ。
「よし! お前ら、俺たちを大魔導師パウムの住処まで案内してくれ!」
『『……カシコマリマシタ、ますたー』』
「おぉ! 行けそうだぞ!」
『『……イチジョウホウノシュウシュウチュウ』』
『『……ゲンザイイチ、キュウがざカイドウゾイ、まくどボチアト』』
『『……ケイロカクニン』』
『『……ジュンビカンリョウ、ますたー』』
「よし! 出発!」
ガシャン、ガシャン、ガシャン、……。
「行くぞ、リサ」
「う、うん。イチロウっていったい何者?」
「実は大魔導師パウムの一番弟子、大賢者イチロウなのじゃ、フハハハハハ」
「えぇ!? うそばっかりぃ!」
ニヤニヤしている俺の顔を見て、リサが俺の脇腹をつねる。
「ぎゃぁ! やめんか」
「もぅ……」
『フフフ……、仲が良いようでなによりじゃな』
俺たちはスケルトンたちの後を追った。スケルトンたちの歩みは俺たちよりも少し遅いくらいだったので、ついて行くのはわけはなかった。
旧街道を少し進んだあたりで森に入った。
一見すると道なき道のようだが、地面は平らで歩きやすい。雑草が生い茂っているので分からなくなっているが、どうやらここには元々道があったと思われる。誰も歩かなくなって雑草でおおわれたのだろう。
「よし! 剣で草を払いながら進め!」
『『……カシコマリマシタ、ますたー』』
ザンッ、ガシャン、ザンッ、ガシャン、……。
スケルトンたちは迷わずズンズン道を進んでゆく。見た目はあまり良くないが
、結構頼もしい奴らじゃないか。
『なぁ、クロゼル。スケルトンは何を食って生きてるんだ?』
『フフフ……、厳密には生きてはおらんが、あえていえば魔素じゃな』
『魔素?』
『ふむ、魔力の源になるものじゃ。そこらの空気に薄く含まれておる。魔導師たちはその魔素を凝縮して、不可能事を可能にしておるのじゃ。スケルトンに与えられた仮の魂は、魔素を集める働きをしておる』
『へぇ、つまりスケルトンたちはそこらの空気を食って動いてるのか?』
『端的に言えばそうじゃな』
リサが裾を引っぱっている。
「ん?」
「そろそろお昼にしない? お腹減ったよ」
「そうだな、じゃぁこの辺で休憩するか。よし! 全体止まれ!」
ガシャガシャ、ガシャン!
「お前たちは周辺を警戒してくれ」
『『……カシコマリマシタ、ますたー』』
スケルトンたちが周辺に散らばる。
昼飯の支度、と言っても硬いパンと干し肉、それに水代わりのワインだけで済ますことにした。そろそろ水が乏しくなってきたのだ。水場があれば助かるんだが。
「ねぇ、イチロウ。大魔導師パウムの住処ってどんなとこだと思う?」
「そうだなぁ、たぶん地下室がダンジョンになってて、スケルトンやゾンビーがいっぱいいるんじゃね? それでダンジョン最深部に、お宝と一緒に大魔導師パウムがミイラ化して眠ってるんだ。夢があるなぁ……」
「何よそれぇ! 夢も希望もないじゃない! もっと綺麗なところが良い」
「そんなの行ってみないとわからんだろうが。あんまり期待しすぎるとガッカリするかもしれんぞ。まぁ家なら井戸くらいはあってほしいよな」
「そうねぇ」
昼飯を済ませた俺たちはまた行進を開始した。
それから数時間が経過して、野営をするかどうか考え始めた時に、スケルトンたちの足が止まった。
ガシャ、ガシャ……、ガシャン!
『『……モクテキチニ、トウチャクシマシタ、ますたー』』
「うむ、ご苦労! 周囲の警戒に当たってくれ」
『『……カシコマリマシタ、ますたー』』
スケルトンたちが周辺に散らばった。
開けた場所に小綺麗な小屋がぽつんと建っている。周囲の木々は綺麗に伐採されており、小屋の周辺は森の中なのに明るい。ありがたいことに井戸もあるようすだ。
「なんというか、普通の山小屋だな」
「思ってたのとちょっと違うかも……」
「とりあえず、小屋の中を調べてみよう」
「うん」
俺たちは小屋の入口に向かった。
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
死霊術士が暴れたり建国したりするお話
白斎
ファンタジー
おっさんが異世界にとばされてネクロマンサーになり、聖女と戦ったり、勇者と戦ったり、魔王と戦ったり、建国したりするお話です。
ヒロイン登場は遅めです。
ライバルは錬金術師です。
少しでも面白いと思ってくださった方は、いいねいただけると嬉しいです。
料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~
斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている
酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚
異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。
長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍3巻発売中ですのでよろしくお願いします。
女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。
お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。
のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。
ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。
拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。
中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。
旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる