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28 ギルドの酒場で
しおりを挟む俺たちは例の組織の依頼を受けることにした。
街中に潜伏している改造人間を見つけ出し、討伐するのだ。
アマンダとケイトが情報集めをすることになった。元もと暗殺組織にいた彼女たちはその種の仕事を得意としているのだった。残った俺たち三人は、そういうことには全く役に立たないので、ギルドの酒場の隅の方で待機していた。
今日で依頼を受けてから三日目となるが、なんら進展はなかった。
「次はサンダーの番」
「ああ、すまん。はいよ」
「うわっ、そうきますか……」
待機といっても、ただ待つだけでは暇なので三人でトランプをしている。
ゲームの内容はウノにそっくりなやつ。たぶんどの国にもこういうのはあるんだろうな。ともかくこの手のゲームは疲れないし、時間を潰すにはもってこいだ。
昼間から酒は飲めないので、ルートビアに似たノンアルコールの炭酸飲料を飲んで、適当なつまみを適宜追加しながらゲームを楽しむのだった。真面目に働いている二人に怒られそうだな。
「おい、てめぇ!」
ふと目を上げると5人ほどの男たちが、俺たちのテーブルを半包囲している。俺の真後ろは壁なので誰もいない。全員鉄級の普通の冒険者だな。
「もしかして俺のこと?」
男たちの中でひときわ体の大きな男が吠える。
「昼間から良いご身分じゃねぇか。酒を食らいながら女とカードゲームかよ」
「うん? それがどうしたんだ?」
「そこは俺の席だ。失せな」
男が俺を睨みながら、テーブルを指さす。
「えぇ⁉ ここは別に予約席じゃないし。
座りたいなら他の空いたテーブルに行けよ」
「よそ者が! 大きな顔してんじゃねぇ、失せろ!」
「嫌なこったい。お前こそ大きな顔してんじゃねぇよ、ゴロツキが」
煽り気味の俺のセリフを聞いて、カーシャは渋い顔、メルキアは呆れたような顔でため息をついた。この後のことが予想できるのだろう。
男は怒りのためか顔面が赤黒くなり、プルプル小刻みに震えだした。
「て、てめぇ。いい加減にしねぇと、叩きのめすぞ!
いくらてめぇが手練れの魔法使いでも、詠唱よりも拳の方が速ぇんだ!」
「そうかぁ?」
「くそがぁ!!」
男が拳を振り上げたと同時に、衝撃の魔法を発動させ、男のみぞおちに叩きこんでやった。
「はうっ……」
白目をむいてうつ伏せに倒れる男を、男の仲間たちが信じられない様子で見る。
「それで、まだやるのか?」
「よ、4対1じゃ敵わんだろ? てめぇら同時に行くぞ!」
「「「おぅ!!」」」
男たちがダッと距離を詰めようとした瞬間、衝撃の魔法の連続発動、マシンガンブローを炸裂させる。四人は目を見開いてしばらく悶絶すると床に沈んだ。
「まったく、こんな雑魚相手に……」
メルキアは口の中でぶつくさ文句を呟く。
「ど、どうします?」
カーシャは泡を吹いている連中を見て、慌てている様子だ。
「死にはしないから放っておけ。連中には良い薬になる」
ギルドの入口の方から影がサッと入ってきた。
ケイトだ。足音も立てずにテーブルまでやって来て、ストンと椅子に座った。普段から気配が薄くて本当に忍者っぽい。
「ただいま」
「やあ、ご苦労。どうだった?」
「うん、だいたいの場所は分かったよ」
「そうか、おつかれさま」
アマンダが少し遅れて帰ってきた。
彼女はドスドスと足音を立てて堂々とした様子で歩いて来る。うっかり彼女と目を合わせてしまった冒険者が、鋭すぎる眼で睨み返されて小さくなってしまった。
アマンダはテーブルの周りに倒れている連中を見て顔をしかめる。
「なんだこいつら?」
「ハエがたかって来たから、落としてやったんだ」
「はははは、なるほどなぁ。
あたし達がいないうちに、サンダーをへこまそうとか考えたんだろうな」
「馬鹿だよね。一番手を出したらダメな人でしょ。
私たちならあっさり首を刎ねちゃうけど、サンダーのあれはキツイよね」
「だな。あたしも死ぬかと思ったよ。あれは地獄だ」
前に一度、試しに撃ってくれとアマンダに頼まれたことがあるのだ。あたしには分厚い筋肉があるから大丈夫だからとか言ってしつこいので、撃ったのだが……。
「あれは見ものだったねぇ。はっはっは」
「アマンダは一度死なないと直らないと思う」
「あんな馬鹿なことはやめてくださいね」
「もう二度とやらねぇよ。今思い出しても漏らしそうだぜ」
アマンダは倒れている連中に若干の同情的な視線を送った。
「メルキアも衝撃の魔法が使えるだろ?
練習すればできるようになるぞ」
「そうか! アマンダ、練習台になって」
「なるわけないだろうが、馬鹿か!」
「ともかく、二人ともお疲れ様。
飯でも食いながら打ち合わせをしようぜ。
俺のおごりだから、皆好きなの頼んでいいぞ」
「そいつはありがたいねぇ」「うひょー、太っ腹!」
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