雷のサンダー ある銀級魔法使いの冒険

珈琲党

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27 組織の依頼

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 俺とカーシャは街中の宿で一泊して、久しぶりにベッドで熟睡することができた。やはり野営続きでは疲れが蓄積する。たまにはしっかり眠らないとな。
 朝食をとってから冒険者ギルドに出向く。元黒百合の三人と落ち合う約束をしているのだ。


「よぉ、おはよう!」「おはようございます」

 約束通り三人はギルドに来ていた。

「オッス……」「おはっす!」「おはよう」

「皆ゆっくり休めたか?
 ……うん? お前、眠れなかったのか?」

 アマンダは目の下にクマを作って、眠そうにしている。

「あの後ちょっとな、ふあぁぁ」

「えぇ? ちょっとって何だよ」

「アマンダは朝まで娼館にいたんだ」

 ケイトが呆れた顔で話す。

「いい娘がいたからな、朝まで頑張ちまったぜ、ヘヘヘ」

 彼女は小指を立てて、ニヤッと笑う。

「ヒェッ‼」

 カーシャの二の腕にさあっと鳥肌が立った。

「しょ、娼館って……。
 つまり『黒百合』ってそういうことか?
 まあ、お前達の趣味につべこべ言う気はないが――」

「ちょっと、サンダー。『達』って何よ!
 言っとくけど、私とメルキアはノーマルだからね!」

「そうなのかぁ? どっちでもいいけど、ほどほどにな。
 アマンダ、カーシャには手を出すなよ」

「出さねぇよ! あたしはもっとこう、熟れた女が好きなんだよ。
 それより、サンダーとカーシャはどうなんだよ?」

 アマンダは、握った拳の人差し指と中指の間から親指を出すという、この世界でも通じる卑猥なジェスチャーを見せつけてニッと笑うのだった。

「お前! ほんとはチンコ付いてるんじゃないのか?」

「付いてねぇよ! ここで確かめるか?」

「馬鹿か。こんなところで脱ぐなよ」

 俺たちの低俗なやり取りに、カーシャだけじゃなく、ケイトやメルキアまでもが顔を赤くしている。

「もう良いよ。カーシャ、頼む」

「は、はい」

 カーシャはアマンダに向かってワンドを振った。治療の魔法だけじゃなく、洗濯の魔法を念入りにかけているようだ。

「ふぅぅぅっ! 助かるぜ」

 目の下のクマがなくなり、アマンダはすっかり元気になった。

「それでサンダー、これからどうするんだ?」

「この町に少し留まって、難易度の高い依頼をいくつか受けようと思う。
 チームワークというか、連携を高めるための訓練がしたいんだ」

「なかなか慎重だな」

「それに、お前たちはもうとっくに鉄級を超えている。
 銀級レベルの依頼も問題なくこなせるだろう」

「なるほど、昇格のための実績作りってことか」

「まあな。
 いくつか依頼を片付ければ、お前たちはすぐに銀級に昇格だ。
 銀級になればいろいろと融通が利くし、なめられることも少なくなるぞ」

「わかった! それで行こうぜ」
「賛成!」
「異議なし」

「さてと。
 ちょうど良いのがあるかどうか……」

 俺は掲示板の前を通り過ぎて、受付カウンターに向かった。

「すまない。
 銀級レベルの依頼は何かないかな?」

 冒険者証を見せながら職員に尋ねる。

「これはサンダー様。実は、例の組織の件で――」

 受付職員は周りに声が漏れないように、俺に耳打ちした。


 例の組織とか、あの組織とか呼ばれる、本当の名前では決して呼ばれない組織がある。それは大金持ちや貴族を対象にした秘密結社だ。人間の不老不死を研究しているらしいが、真相は知られていない。
 ある程度実態を把握している冒険者ギルドですら、組織のトップが誰かは知らない。大貴族がからんでいると噂されている程度だ。

 その組織は、重犯罪者や奴隷を使って非人道的な人体実験を行なっているし、違法な薬草の栽培も行うが、それを取り締まることができる機関は存在しない。国の治安維持組織も冒険者ギルドも基本的には不干渉を保っている。


「あの組織からの正式な依頼とは珍しいな」

「ええ、あちらさんもよほど困っているようでして……」

 人体実験の果てにできた改造人間が逃げ出して、スラム街で人を殺しまくっているということだ。その改造人間は、死刑が執行されたはずの快楽殺人鬼がベースになっているらしい。強大な力を得て、それを自分の趣味に生かしているのだろう。

 今は政治の力で抑え込んでいるが、そんなものではいつまでも人の口はふさげない。いずれ庶民の間にも、改造人間の存在が知れ渡ることだろう。下手をするとパニックが起きる。めぐり巡って組織の存在が公になるかもしれない。

「大っぴらには動きにくいってことか」

「そうです。
 内密かつ迅速な対応が求められています」

「それで依頼の達成条件は?」

「逃げた改造人間の討伐です。その際、頭部を回収してください。
 期限は本日より十日。報酬は500万ジェニーとなっています」

 知らず知らずのうちに眉間にしわがよってしまう。

「それはなかなか難しいぞ。
 ちょっとメンバーと相談してみる」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――ということなんだが、どう思う?」

 俺たちはギルドの酒場の隅の席で、ひそひそと話しをする。

「あたしら向きの仕事じゃないか」
「だね」

 アマンダとケイトが不敵な笑みを浮かべる。
 彼女たちは以前は暗殺組織にいた。潜伏しているターゲットを見つけ出すことも、静かにとどめを刺すことも得意中の得意なのだった。
 さすがというか当然と言うか、彼女たちはあの組織ことをすでに知っていた。

「でも、あそこはあそこで、結構な手練れを抱えてるはずなんだがな」
「そういえばそうか……」

 組織の手の者と接触をしたこともあるらしい。

「あいつらが手こずるってことは、それなりかもな」
「普通の相手じゃないってことだね」

 カーシャとメルキアは初耳だったらしく素直に驚いていた。

「そんな組織があったんですね」
「改造人間……。ちょっとカッコイイかも」

「念のために言っておくが、他言無用だからな。
 まあギルドの人間なら知ってる奴も多いが、それでも基本は秘密だ」

「はい」「わかった」

 もうすでにやる気になっているアマンダとケイトに話す。

「俺はこういう仕事は素人だから、お前たち任せになると思うが……」

「あたし達に任せておきな」「そうよ。大船に乗った気持ちでいて」

 相当に難しい仕事だと思うが、彼女たちに気負いはない様子だ。いつも通りの自然体で、自信に満ちた目で見返してくる。

「よし分かった! あの依頼、引き受けることにしよう」




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