27 / 29
27 組織の依頼
しおりを挟む俺とカーシャは街中の宿で一泊して、久しぶりにベッドで熟睡することができた。やはり野営続きでは疲れが蓄積する。たまにはしっかり眠らないとな。
朝食をとってから冒険者ギルドに出向く。元黒百合の三人と落ち合う約束をしているのだ。
「よぉ、おはよう!」「おはようございます」
約束通り三人はギルドに来ていた。
「オッス……」「おはっす!」「おはよう」
「皆ゆっくり休めたか?
……うん? お前、眠れなかったのか?」
アマンダは目の下にクマを作って、眠そうにしている。
「あの後ちょっとな、ふあぁぁ」
「えぇ? ちょっとって何だよ」
「アマンダは朝まで娼館にいたんだ」
ケイトが呆れた顔で話す。
「いい娘がいたからな、朝まで頑張ちまったぜ、ヘヘヘ」
彼女は小指を立てて、ニヤッと笑う。
「ヒェッ‼」
カーシャの二の腕にさあっと鳥肌が立った。
「しょ、娼館って……。
つまり『黒百合』ってそういうことか?
まあ、お前達の趣味につべこべ言う気はないが――」
「ちょっと、サンダー。『達』って何よ!
言っとくけど、私とメルキアはノーマルだからね!」
「そうなのかぁ? どっちでもいいけど、ほどほどにな。
アマンダ、カーシャには手を出すなよ」
「出さねぇよ! あたしはもっとこう、熟れた女が好きなんだよ。
それより、サンダーとカーシャはどうなんだよ?」
アマンダは、握った拳の人差し指と中指の間から親指を出すという、この世界でも通じる卑猥なジェスチャーを見せつけてニッと笑うのだった。
「お前! ほんとはチンコ付いてるんじゃないのか?」
「付いてねぇよ! ここで確かめるか?」
「馬鹿か。こんなところで脱ぐなよ」
俺たちの低俗なやり取りに、カーシャだけじゃなく、ケイトやメルキアまでもが顔を赤くしている。
「もう良いよ。カーシャ、頼む」
「は、はい」
カーシャはアマンダに向かってワンドを振った。治療の魔法だけじゃなく、洗濯の魔法を念入りにかけているようだ。
「ふぅぅぅっ! 助かるぜ」
目の下のクマがなくなり、アマンダはすっかり元気になった。
「それでサンダー、これからどうするんだ?」
「この町に少し留まって、難易度の高い依頼をいくつか受けようと思う。
チームワークというか、連携を高めるための訓練がしたいんだ」
「なかなか慎重だな」
「それに、お前たちはもうとっくに鉄級を超えている。
銀級レベルの依頼も問題なくこなせるだろう」
「なるほど、昇格のための実績作りってことか」
「まあな。
いくつか依頼を片付ければ、お前たちはすぐに銀級に昇格だ。
銀級になればいろいろと融通が利くし、なめられることも少なくなるぞ」
「わかった! それで行こうぜ」
「賛成!」
「異議なし」
「さてと。
ちょうど良いのがあるかどうか……」
俺は掲示板の前を通り過ぎて、受付カウンターに向かった。
「すまない。
銀級レベルの依頼は何かないかな?」
冒険者証を見せながら職員に尋ねる。
「これはサンダー様。実は、例の組織の件で――」
受付職員は周りに声が漏れないように、俺に耳打ちした。
例の組織とか、あの組織とか呼ばれる、本当の名前では決して呼ばれない組織がある。それは大金持ちや貴族を対象にした秘密結社だ。人間の不老不死を研究しているらしいが、真相は知られていない。
ある程度実態を把握している冒険者ギルドですら、組織のトップが誰かは知らない。大貴族がからんでいると噂されている程度だ。
その組織は、重犯罪者や奴隷を使って非人道的な人体実験を行なっているし、違法な薬草の栽培も行うが、それを取り締まることができる機関は存在しない。国の治安維持組織も冒険者ギルドも基本的には不干渉を保っている。
「あの組織からの正式な依頼とは珍しいな」
「ええ、あちらさんもよほど困っているようでして……」
人体実験の果てにできた改造人間が逃げ出して、スラム街で人を殺しまくっているということだ。その改造人間は、死刑が執行されたはずの快楽殺人鬼がベースになっているらしい。強大な力を得て、それを自分の趣味に生かしているのだろう。
今は政治の力で抑え込んでいるが、そんなものではいつまでも人の口はふさげない。いずれ庶民の間にも、改造人間の存在が知れ渡ることだろう。下手をするとパニックが起きる。めぐり巡って組織の存在が公になるかもしれない。
「大っぴらには動きにくいってことか」
「そうです。
内密かつ迅速な対応が求められています」
「それで依頼の達成条件は?」
「逃げた改造人間の討伐です。その際、頭部を回収してください。
期限は本日より十日。報酬は500万ジェニーとなっています」
知らず知らずのうちに眉間にしわがよってしまう。
「それはなかなか難しいぞ。
ちょっとメンバーと相談してみる」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「――ということなんだが、どう思う?」
俺たちはギルドの酒場の隅の席で、ひそひそと話しをする。
「あたしら向きの仕事じゃないか」
「だね」
アマンダとケイトが不敵な笑みを浮かべる。
彼女たちは以前は暗殺組織にいた。潜伏しているターゲットを見つけ出すことも、静かにとどめを刺すことも得意中の得意なのだった。
さすがというか当然と言うか、彼女たちはあの組織ことをすでに知っていた。
「でも、あそこはあそこで、結構な手練れを抱えてるはずなんだがな」
「そういえばそうか……」
組織の手の者と接触をしたこともあるらしい。
「あいつらが手こずるってことは、それなりかもな」
「普通の相手じゃないってことだね」
カーシャとメルキアは初耳だったらしく素直に驚いていた。
「そんな組織があったんですね」
「改造人間……。ちょっとカッコイイかも」
「念のために言っておくが、他言無用だからな。
まあギルドの人間なら知ってる奴も多いが、それでも基本は秘密だ」
「はい」「わかった」
もうすでにやる気になっているアマンダとケイトに話す。
「俺はこういう仕事は素人だから、お前たち任せになると思うが……」
「あたし達に任せておきな」「そうよ。大船に乗った気持ちでいて」
相当に難しい仕事だと思うが、彼女たちに気負いはない様子だ。いつも通りの自然体で、自信に満ちた目で見返してくる。
「よし分かった! あの依頼、引き受けることにしよう」
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件
桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。
神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。
しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。
ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。
ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!
八神 凪
ファンタジー
勇者パーティに属するルーナ(17)は悩んでいた。
補助魔法が使える前衛としてスカウトされたものの、勇者はドスケベ、取り巻く女の子達は勇者大好きという辟易するパーティだった。
しかも勇者はルーナにモーションをかけるため、パーティ内の女の子からは嫉妬の雨・・・。
そんな中「貴女は役に立たないから出て行け」と一方的に女の子達から追放を言い渡されたルーナはいい笑顔で答えるのだった。
「ホントに!? 今までお世話しました! それじゃあ!」
ルーナの旅は始まったばかり!
第11回ファンタジー大賞エントリーしてました!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる