25 / 29
25 バイファの町に到着
しおりを挟むヨルデノールを出発した俺たちは、六日かけて荒野を横断しバイファの町にたどり着いた。あのゴブリン軍団以外はたいした魔物にも遭遇せず、思いの外楽な行程だった。俺たちはまだ日が高い街中を、ギルドに向かって歩く。
「拍子抜けだな」
アマンダがため息をつく。
「もっとヒリヒリした戦いを……」「魔法撃ちまくりたい」
戦闘狂達が何か言ってるが、相手にしていられない。
「いやいや、何もないのが一番だから。
運が良かったと喜ぶべきだろ?」
「そうですよ。あのゴブリン軍団だって危なかったじゃないですか!
まったくもう……」
常識的なことを言うのはカーシャ一人だけだった。
バイファの町の冒険者ギルドもすぐに見つかった。
建物に入ると、冒険者たちの鋭い視線が俺たちに集中するが、アマンダが凶悪な目で辺りをひと睨みすると、そんなものはあっという間に霧散するのだった。
「アマンダねぇさん、強えぇ。女にモテモテだね」
「やかましいわ!」
ケイトとアマンダが定番のやり取りをしている。
俺たちは受付カウンターまですんなりと到着できた。
「ヨルデノールのギルドから届け物だよ」
預かっていた封筒と書類を職員に手渡す。
「ありがとうございます。
報酬の10万ジェニーです」
「確かに。
それと、ここに来るまでに荒野でゴブリンの群を討伐したんだが――」
詳細を話すと職員はビックリしていた。
「もしかして……。あ、これですね。
ちょうどこれから出そうと思っていたものです」
依頼書の束から一枚を抜き出して見せる。ギルド直々の依頼だ。
「ふむ……西の荒野、50匹ほどのゴブリンの軍団、魔法使い……。
そうだな、たぶんこれだと思う。耳を提出すればいいんだな?」
俺はカウンターの上にゴブリンの耳をドサッと置いた。
「ヒェッ!」
奥から別な職員も応援に出てきて数え始める。
「55匹ですね。中にゴブリンメイジがいたと思うのですが……」
「たしかに一匹だけ魔法を使う奴がいた」
メルキアに渡していた杖を職員に見せる。
「この杖で強化した魔法を撃ってきてまいったよ」
「た、たしかにこれはイェンダーの魔法の杖!」
職員はルーペに似た魔道具で杖を鑑定して、ひっくり返りそうになった。
「な、なんでしたらこちらで買い取りますが」
「ダメ!」
メルキアが職員の手から杖をかっさらった。
「すまない。うちの魔法使いが欲しいみたいだから」
「はぁ、それは残念です……。
では、完了手続きをしますので冒険者証を――」
討伐報酬とゴブリンの装備の買い取りで、合わせて50万ジェニーを受け取った。
「ちょっと安くねぇか?」
アマンダは少々不満気だ。
「まあ、軍団といっても所詮はゴブリンだしな。
ともかく、報酬を山分けするぞ」
皆に10万ジェニーずつ配る。届け物の報酬10万ジェニーは、経費として俺が預かることにした。
「よっしゃ!」「やったね」「どうも」
「私もいいのですか?」
「当たり前だろうが。カーシャもパーティーのメンバーなんだからな」
「ありがとうございます!」
「今日はこれで解散だ。明日ギルドで落ち合うってことで。
俺は市場に行ってくるから」
「「「おつかれ」」」
「あ、私もいっしょに行きます」
いつもと同じく、カーシャと二人で買い物をすることになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「荷車は結局使わなかったな。邪魔だから売るか?」
カーシャがずっと空のリヤカーを引いている。街中を歩くにはちょっと邪魔だ。
「そうですね。
せっかく持ってきたのに、もったいない気もしますが……」
そういえば、アマンダから聞くのを忘れていたが、実際いくらで買ったのだろうか。この手の物の相場が今一つ分からない。
食料やありふれた日用品は安いが、ちょっと手の込んだものになると途端に高くなるからな。このリヤカーだって手作りの一品物だから安くはないはずだが……。
とりあえず目に付いた古道具屋に入ってみる。
「こんちわ!」
「いらっしゃい」
「買い取ってもらいたい物があるんだが」
「はい。何をお売りになりたいので?」
「外に停めてるあの荷車だけど、いくらぐらいになるかな」
「あぁ、なるほど。拝見しますよ」
店主はリヤカーをあちこち眺めまわし、作りや材質を確かめている。
「そうですな、20万ジェニーってとこでしょうかね」
「よし、売った!」
「え⁉ よろしいので?」
値上げ交渉を予想していたのか、あっさり決まったことに驚いている様子だ。
「まぁ、だいたいそんなものだろう。
俺は商人じゃないから、細かい交渉は苦手だ。それで良いよ」
「分かりました。それでは――」
なぜか店主は5万ジェニー上乗せして、25万ジェニーで買ってくれた。
「私も時間と手間が節約できましたので」
「そうか、ありがとう。また何かのときには頼む」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お~い! サンダーの旦那!」
身軽になったカーシャと一緒に市場を買い物しながらウロウロしていると、アマンダが慌てた様子で走ってきた。
「ずいぶん慌ててどうした? 財布でも落としたのかよ」
「違うって! 返すの忘れてたんだ。これだよ」
アマンダは金貨を7枚渡してきた。
「35万ジェニーか。あぁ、こないだの釣りだな?
そんなに慌てなくても明日も会うだろうに」
「ここは街だぜ? あたしが持ってると、うっかり全部使っちまうだろうが」
どういう金銭感覚をしているのやら。
「そうか、あの荷車は15万ジェニーだったのか。
さっき古道具屋に持っていったら、25万ジェニーで売れたぞ」
「良かったじゃん。10万ジェニーの儲けってことだな」
ニカッと笑ったアマンダに5万ジェニー金貨を放ってやる。
「ほら、儲けの取り分だよ。あんまり無駄遣いするなよ」
「お、おぅ……。あんた人が良すぎるぜ」
アマンダは少々呆れた顔をする。
「別にそんなことはないぞ。なぁ、カーシャ?」
「はい。恩には恩を、仇には仇をですね」
「そういうこと。
心配しなくても、俺だって人を見る目はあるんだ」
納得したのかそうでないのか、アマンダはしばし無言で俺を見ていた。
「……なるほどなぁ。じゃ、また明日な」
アマンダはあっという間に人ごみに消えていった。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件
桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。
神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。
しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。
ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。
ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!
八神 凪
ファンタジー
勇者パーティに属するルーナ(17)は悩んでいた。
補助魔法が使える前衛としてスカウトされたものの、勇者はドスケベ、取り巻く女の子達は勇者大好きという辟易するパーティだった。
しかも勇者はルーナにモーションをかけるため、パーティ内の女の子からは嫉妬の雨・・・。
そんな中「貴女は役に立たないから出て行け」と一方的に女の子達から追放を言い渡されたルーナはいい笑顔で答えるのだった。
「ホントに!? 今までお世話しました! それじゃあ!」
ルーナの旅は始まったばかり!
第11回ファンタジー大賞エントリーしてました!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
巻き込まれた薬師の日常
白髭
ファンタジー
商人見習いの少年に憑依した薬師の研究・開発日誌です。自分の居場所を見つけたい、認められたい。その心が原動力となり、工夫を凝らしながら商品開発をしていきます。巻き込まれた薬師は、いつの間にか周りを巻き込み、人脈と産業の輪を広げていく。現在3章継続中です。【カクヨムでも掲載しています】レイティングは念の為です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる