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25 バイファの町に到着
しおりを挟むヨルデノールを出発した俺たちは、六日かけて荒野を横断しバイファの町にたどり着いた。あのゴブリン軍団以外はたいした魔物にも遭遇せず、思いの外楽な行程だった。俺たちはまだ日が高い街中を、ギルドに向かって歩く。
「拍子抜けだな」
アマンダがため息をつく。
「もっとヒリヒリした戦いを……」「魔法撃ちまくりたい」
戦闘狂達が何か言ってるが、相手にしていられない。
「いやいや、何もないのが一番だから。
運が良かったと喜ぶべきだろ?」
「そうですよ。あのゴブリン軍団だって危なかったじゃないですか!
まったくもう……」
常識的なことを言うのはカーシャ一人だけだった。
バイファの町の冒険者ギルドもすぐに見つかった。
建物に入ると、冒険者たちの鋭い視線が俺たちに集中するが、アマンダが凶悪な目で辺りをひと睨みすると、そんなものはあっという間に霧散するのだった。
「アマンダねぇさん、強えぇ。女にモテモテだね」
「やかましいわ!」
ケイトとアマンダが定番のやり取りをしている。
俺たちは受付カウンターまですんなりと到着できた。
「ヨルデノールのギルドから届け物だよ」
預かっていた封筒と書類を職員に手渡す。
「ありがとうございます。
報酬の10万ジェニーです」
「確かに。
それと、ここに来るまでに荒野でゴブリンの群を討伐したんだが――」
詳細を話すと職員はビックリしていた。
「もしかして……。あ、これですね。
ちょうどこれから出そうと思っていたものです」
依頼書の束から一枚を抜き出して見せる。ギルド直々の依頼だ。
「ふむ……西の荒野、50匹ほどのゴブリンの軍団、魔法使い……。
そうだな、たぶんこれだと思う。耳を提出すればいいんだな?」
俺はカウンターの上にゴブリンの耳をドサッと置いた。
「ヒェッ!」
奥から別な職員も応援に出てきて数え始める。
「55匹ですね。中にゴブリンメイジがいたと思うのですが……」
「たしかに一匹だけ魔法を使う奴がいた」
メルキアに渡していた杖を職員に見せる。
「この杖で強化した魔法を撃ってきてまいったよ」
「た、たしかにこれはイェンダーの魔法の杖!」
職員はルーペに似た魔道具で杖を鑑定して、ひっくり返りそうになった。
「な、なんでしたらこちらで買い取りますが」
「ダメ!」
メルキアが職員の手から杖をかっさらった。
「すまない。うちの魔法使いが欲しいみたいだから」
「はぁ、それは残念です……。
では、完了手続きをしますので冒険者証を――」
討伐報酬とゴブリンの装備の買い取りで、合わせて50万ジェニーを受け取った。
「ちょっと安くねぇか?」
アマンダは少々不満気だ。
「まあ、軍団といっても所詮はゴブリンだしな。
ともかく、報酬を山分けするぞ」
皆に10万ジェニーずつ配る。届け物の報酬10万ジェニーは、経費として俺が預かることにした。
「よっしゃ!」「やったね」「どうも」
「私もいいのですか?」
「当たり前だろうが。カーシャもパーティーのメンバーなんだからな」
「ありがとうございます!」
「今日はこれで解散だ。明日ギルドで落ち合うってことで。
俺は市場に行ってくるから」
「「「おつかれ」」」
「あ、私もいっしょに行きます」
いつもと同じく、カーシャと二人で買い物をすることになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「荷車は結局使わなかったな。邪魔だから売るか?」
カーシャがずっと空のリヤカーを引いている。街中を歩くにはちょっと邪魔だ。
「そうですね。
せっかく持ってきたのに、もったいない気もしますが……」
そういえば、アマンダから聞くのを忘れていたが、実際いくらで買ったのだろうか。この手の物の相場が今一つ分からない。
食料やありふれた日用品は安いが、ちょっと手の込んだものになると途端に高くなるからな。このリヤカーだって手作りの一品物だから安くはないはずだが……。
とりあえず目に付いた古道具屋に入ってみる。
「こんちわ!」
「いらっしゃい」
「買い取ってもらいたい物があるんだが」
「はい。何をお売りになりたいので?」
「外に停めてるあの荷車だけど、いくらぐらいになるかな」
「あぁ、なるほど。拝見しますよ」
店主はリヤカーをあちこち眺めまわし、作りや材質を確かめている。
「そうですな、20万ジェニーってとこでしょうかね」
「よし、売った!」
「え⁉ よろしいので?」
値上げ交渉を予想していたのか、あっさり決まったことに驚いている様子だ。
「まぁ、だいたいそんなものだろう。
俺は商人じゃないから、細かい交渉は苦手だ。それで良いよ」
「分かりました。それでは――」
なぜか店主は5万ジェニー上乗せして、25万ジェニーで買ってくれた。
「私も時間と手間が節約できましたので」
「そうか、ありがとう。また何かのときには頼む」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お~い! サンダーの旦那!」
身軽になったカーシャと一緒に市場を買い物しながらウロウロしていると、アマンダが慌てた様子で走ってきた。
「ずいぶん慌ててどうした? 財布でも落としたのかよ」
「違うって! 返すの忘れてたんだ。これだよ」
アマンダは金貨を7枚渡してきた。
「35万ジェニーか。あぁ、こないだの釣りだな?
そんなに慌てなくても明日も会うだろうに」
「ここは街だぜ? あたしが持ってると、うっかり全部使っちまうだろうが」
どういう金銭感覚をしているのやら。
「そうか、あの荷車は15万ジェニーだったのか。
さっき古道具屋に持っていったら、25万ジェニーで売れたぞ」
「良かったじゃん。10万ジェニーの儲けってことだな」
ニカッと笑ったアマンダに5万ジェニー金貨を放ってやる。
「ほら、儲けの取り分だよ。あんまり無駄遣いするなよ」
「お、おぅ……。あんた人が良すぎるぜ」
アマンダは少々呆れた顔をする。
「別にそんなことはないぞ。なぁ、カーシャ?」
「はい。恩には恩を、仇には仇をですね」
「そういうこと。
心配しなくても、俺だって人を見る目はあるんだ」
納得したのかそうでないのか、アマンダはしばし無言で俺を見ていた。
「……なるほどなぁ。じゃ、また明日な」
アマンダはあっという間に人ごみに消えていった。
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