雷のサンダー ある銀級魔法使いの冒険

珈琲党

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 デサントスを出発してから約六日、途中魔物の襲撃はあったものの、無事にヨルデノールに到着することができた。引き受けた護衛の任務は、さらに荒野を抜けた先にあるバイファまでなので、ここでようやく行程の半分といったところだ。


 依頼主であるポポスは、ヨルデノールの冒険者ギルドの前で突然俺に言い放った。

いかずちのお二人は、この任務に不適当なのでここで解雇します。
 これまでの仕事内容にも不満がありますので、報酬はお支払い出来ません」

「はあぁぁぁ⁉」

 俺よりも先に、アマンダが抗議の声を上げた。

「いやいやいや。ポポスさん、不適当ってそりゃないでしょ」
「さすがに無茶苦茶では?」
「……」

 ケイトとメルキアも不満を口にする。カーシャはあまりのことに唖然としている。

「依頼主がそう思うなら仕方ないですね。
 では、冒険者ギルドに正式に解雇届を出してください」

 ポポスの浅ましさにほとほと嫌気がさしていたので、俺は肩をすくめるだけであえて反論はしなかった。この男と議論しても、どうせ堂々巡りするだけだし。

「もちろん、そうさせてもらうよ」


 俺たちはポポスの後についてギルドの受付に向かった。

「この依頼の件なんだが――」

 ポポスは受付職員に向かって自分に都合の良い話だけをして、俺が自己都合で仕事を降りたので報酬は払えないと言い捨てた。職員はその話を能面のような顔で聞き終えて、それから俺に向き直った。

「間違いはありませんか?」

「話にいろいろとくいちがいがあるようだ。
 魔物の撃退と、ここまでの道中の警戒という、
 護衛としての役割は間違いなく果たしたつもりだ」

 自分の署名入りの報告書を取り出して、冒険者証と共に受付職員に手渡した。

「詳細はこれに書いてある通りだ。
 内容について嘘偽りがないことを誓う」

 職員は俺とカーシャの冒険者証の情報を読み取って確認する。

「はい。あ、いかずちのお二方でしたか。
 今回の件については、ギルドの正式な記録として残されます。
 この報告書はギルドの運営のために活用されますが、よろしいですか?」

 ギルドにおいては、銀級冒険者の書いた報告書は、信用度の高い資料として扱われる。一見さんのクレームとは重みがだいぶ違うのだった。俺の報告書は、悪質依頼主の事例として、新米冒険者向けの対策テキストに利用されるだろう。

「もちろん構わないよ」

「ご報告ありがとうございました」

 ポポスは職員が俺に頭を下げる様子を不満気に見ていたが、フンと鼻を鳴らして、俺を押しのけるように職員の前に出た。

「それじゃあ、別な冒険者を追加で雇いたい――」

「悪いけど、あたし達もこの依頼、降りさせてもらうわ」

 黒百合のアマンダがポポスを遮るように声を上げた。

「な! 勝手に辞めるつもりか? だったら報酬は払わんぞ!」

 ポポスはやや慌てた様子だが、それでも高圧的な態度は変えない。

「ああ、それで構わないよ。
 さっきから聞いていたが、あんたはウソばかりで信用できん。
 サンダーがいなけりゃ、あたし達はあそこでやられてただろう。
 その一番の功労者を難癖付けて追い出すつもりかよ。
 だいたい、飯だって毎回パン一個だけってのはひどすぎるぜ。
 サンダーが恵んでくれたから何とかやってこれたが、
 そうじゃなきゃ、あんたに有り金全部むしられるところだった」

 アマンダが良く通る大きな声で不満を爆発させた。
 俺たちの様子を後ろからうかがっていた冒険者たちがざわつき出した。この手のトラブルについて、冒険者は凄く敏感なのだ。なにしろ死活問題だからな。
 職員のポポスを見る目が、氷のように冷たくなっていく。

「ま、まて! 人聞きの悪いことを言うな!」

「本当のことだし、仕方ないよね」
「そうね。あれはあこぎな商売だと思う」

 ケイトとメルキアもアマンダに加勢する。

「そういえば、あたし達が倒した大サソリの分け前をもらってないけど?」

「な、何を言う! あれは依頼主である私のものだ!」

 ポポスはあくまでもがめついのだった。

「ふ~ん。そういうことなら、もういいや。いらないよ。
 ところで、サンダー。あたし達と組まないか?」

 アマンダはポポスを意識の外へ追い出して、やぶから棒に話を持ちかけた。

「俺たちとパーティーを組むってことか?」

「そうだ。あたし達が組めば無敵だと思うんだよ」

「あ! それ良いねぇ。私も大賛成!」
「悪くないと思う」

 黒百合のメンバー主導で勝手に話が進んでいく。

「待てまて! カーシャは構わないか?」

「はい、私もその方が良いと思います。
 でも、サンダーさんの目的はどうします?」

「そうだな……。
 俺たちは東を目指しているんだ。
 最終的にはワラキア大公国に行くつもりなんだが……」

「良いねぇ、それ!」
「壮大な目標!」
「私もかねがね行きたいと思っていた」

 黒百合のメンバーが即座に乗ってきた。これは断れない状況だな。

「分かった、組もう。アマンダが代表な」

「馬鹿か、銀級のあんたが代表に決まってるだろうが!」

「じゃあパーティー名はいかずちだぞ」

「よし決まった!」

 ということで、俺たちのパーティーに黒百合の三人が加わることになった。
 パーティーの手続きをしていると、職員から依頼を受ける。

「この封筒をバイファのギルドへ届けていただきたいのですが」

「期日は?」

「できれば一週間以内で。報酬は10万ジェニーです」

「よし、受けよう」

「ありがとうございます。
 この依頼書を一緒に出せば、あちらで報酬が出ますので。
 それと、ポポス氏の依頼未達成については、不問といたします」

「そうか、ありがとう」

 俺たちは冒険者ギルドを後にした。


 ギルドに置き去りにされたポポスは、もう誰からも相手にされなかった。
 悪質依頼者として知れ渡ったので、彼の依頼を引き受ける者は誰もいないのだ。






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