雷のサンダー ある銀級魔法使いの冒険

珈琲党

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18 護衛の依頼

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 スカウト行脚二日目は無事に終わるはずだったのだが、予定は予定でしかないのだ。

「どうしたのかな?」

「薬があるんだろ!?」

「もちろん! 商人だからね!」

「オレの給金を前借りにさせてもらえないか!? いや、給金を薬にしてくれ!」

 アルの家から出ると、先ほどの三人が待ち伏せしていたのだ。
 北区で流行っている風邪が思ったよりも酷く、何故かニコライ系列の薬屋だけにしか薬が置いてないらしい。
 しかも奴隷になる道しかないほど高価なんだとか。

 今回の風邪は前世で言うところのインフルエンザだ。
 放っておくと死ぬし、生き残っても障害を負うことになる可能性もある。

「前借りはできない」

「じゃあどうしろって言うんだ!」

「まぁまぁ落ち着いて。前借りするってことは、その間は無給ってことでしょう? 奴隷と同じじゃん。奴隷が悪いとは言わないけど、仕事が適当になるかもしれないでしょ?」

「そんなことするかよ!」

「奴隷は働かなければ鞭で打てるけど、無給の従業員を鞭で打つことは犯罪です。働いても働かなくてもどうせ無給と考えられると面倒なんです。だから、うちは前借りはしないしさせない」

「じゃあ金を作ってくるから!」

「そんなことをしなくても大丈夫です。今日からうちで働けばいいでしょ? 契約条件に薬の配布を加えれば良いだけの話」

「……お前に得はないだろ」

「商売は自分だけ得をしても恨まれるだけで意味がないんですよ。それに得はしてます。三人の働き手が確保できるんですから」

 特に、あの体が大きい男性は有望株だな。
 彼らを並べて人型の生物で例えると、リーダーくんがホブゴブリンで、体格が良い大男くんはオーガ。最後の一人は細マッチョの人間かな。

 アルの家に訪問している間に【白毫眼】で観察していたが、子分とかではなくてソロ冒険者の友人らしい。
 パーティー組めば? と思うのだが、現状組んでいないらしい。

「さて、三人は冒険者ですよね? だったら、専属契約してくれれば大丈夫です。書類はこれから用意するので、あなたたちが信頼する人を呼んできて確認してもらって結構ですよ?」

「……分かった」

「一度帰って馬車で運んできますからね!」

 俺も量産する必要があるからね。

「……森で拾ってくるの?」

「……そうだよ」

 まさかメイベルに言われるとは……。
 いろいろ隠していることについて怒っているのかな?

「どうしたのかな?」

「……別に」

 こ、怖いよ?

「近い内に秘密の森に案内しようと思ってたんだけど、気にならないなら――案内します!」

 やめようかなって言おうとした瞬間、メイベルの目に水分が集まりだしたのだ。
 ママンにバレたら正座の上、長時間の説教コースだったことだろう。

「じゃあ副会長殿、手伝ってくれたまえ!」

「はい!」

 機嫌が直ったメイベルと足早に家に戻り、銭湯に詰めているディーノに病人食をたくさん作ってもらう。

「終わったら家に来て!」

「そんなに早く終わらん!」

「途中でいいから、食材と道具持って来て! 子どもに荷物持ちをさせる気かね!?」

「……子どもは熊を背負わない」

「グァ?」

「ごめんなさい!」

 ディーノはユミルに教育的指導をされたため、ユミルに頭が上がらないのだ。

 俺は教会からもらったお下がりの荷車を引っ張りだし、布と棒でなんちゃって幌馬車を作る。
 この中で薬を量産するのだ。
 もちろん、バレないように後部の入口は倉庫の中に突っ込んである。

「メイベル副会長。これから秘密の森に案内します! 秘密厳守でお願いします!」

「はい!」

「ユミル秘書官もお願いしますよ!?」

「グァ!」

「私はー?」

「グリム相談役は知っているでしょ?」

「……人数は少ないのにー、無駄に役職だけは多いですねー」

「無駄ではない。我が商会は少数精鋭を予定しているからね!」

「その心はー?」

「名前が覚えられん!」

 まぁ他は人型召喚獣に任せる予定だしね。

「では、行きますよ? 【打出の小槌】よ、風邪薬を召喚せよ!」

 本来は不要の呪文を唱え、それらしく詠唱しているには全て【召喚】で統一するためだ。
 異世界に行ける門も召喚のおかげということにしておけば、天禀なんだから普通の召喚とは違うのかと思ってもらえるはず。

 メイベルを信じていないわけではなく、俺と同じように【如意眼】を持っている人物と出会った場合に、天禀を複数持っている人間よりは珍しい召喚持ちの方がマシだからだ。

 予防線も張り終えたから、あとはひたすら小槌を振り続ける。
 だいたいの人数は把握しているが、北区だけとは限らないから東区以外に回るように数を用意しておこう。

 東区はニコライ系列の薬屋に任せる。
 住人もニコライ商会関係者がほとんどだし。

「よしっ! 良いでしょう!」

 薬と一緒に木箱も召喚したから、メイベルには箱詰めをしてもらっていた。
 ユミルも器用に箱詰めを手伝っており、ユミルの活躍もあって早めに終わる。この時間を使って契約書を控えも合わせて六部作った。

 メイベルにはママンに事情を話してもらい、ついでに予防の効果もある風邪薬を配達してもらう。

「ディーノ、出番!」

「……何が?」

「うちには馬はいないのだ! 分かるだろ!?」

「く……熊が……」

「グァ?」

「喜んでやらせていただきます!」

「頼んだ!」

 俺は念動で荷崩れしないように動きを止め、浮遊で荷車を軽く浮かせる。
 そのためディーノだけが荷車を引き、俺とメイベルは荷車に乗っている。

「……軽くないか?」

「北区に向かって走れ!」

「北区? 何で?」

「君の同僚がいるからだ!」

「おぉーー! やっと仲間ができるのかーー!」

 あまり歓迎されない北区に行くことを躊躇っていたが、同僚ができると知って喜んで走ってくれた。

「はぁーー……はぁーー……! キツいっ!」

「やれやれ。運動不足だぞ? これからの訓練に耐えられるのか不安だな」

「――訓練?」

「あぁ……こっちの話」

「いやいやいや! 俺も当事者なんだろ!?」

「……気のせいだよ。さぁ、契約の時間だ!」

「おい!」

「グァ?」

「いえ、何も!」

 ユミル、よくやった!

 ◇

 北区で雑貨屋を営んでいるおじさんを連れてきた三人組とは無事に契約を済ませ、今は各家庭を回っての治療行脚だ。

 途中「治療費は?」という声が何回も上がったが、冒険者三人組が専属契約を結んでくれるための条件だったと伝える。
 それでも納得できなかったら、元気になってから銭湯の仕事を手伝ってくれればいいと伝えた。

 「掃除が特に大変なんですよ」と伝えると、自分にもできるから掃除しに行くと言っていた。

 ちなみに現在は、俺が生活魔法で綺麗にしている。吸収した属性の一つらしく、持っている人は貴族に雇ってもらえるんだとか。

 そんな権利はいらないけどね。

「さて、従業員の皆さん、もう一踏ん張りですよ。これから目を覚ました方には病人食を食べて体力をつけてもらいましょう! 元気な人には体力を落とさないように、しっかりと食事をしてもらいます!」

「……そんなことは頼んでないぞ」

「おいっ! 新人! 反抗的な態度だと、恐ろしい教育的指導を喰らうぞ!」

「いや、それは重いって言ったからじゃん」

「グァ!」

「それに頼んだことしかしないというのは二流の商人ですよ。ここにいるのは顧客予備軍です。将来お客さんになるかもしれないのに、薬渡してサヨナラなんてもったいないことするわけないでしょ?」

「お前のところの商品は?」

「今のところお風呂だけです」

 エリクサーを売るって手もあるが、まだ秘匿しておきたい。
 他の製作物を売るって手もあるけど、職人ギルドと薬師ギルドの登録は七歳からだ。特許の登録をする場所が、横取り大好きな商人ギルドしかないとか……。

「西区の? アレって男爵家が経営しているんじゃ?」

「商人ギルドが流したデマです! アレは僕の所有物です! 十歳以上は四〇〇スピラで、九歳以下は無料ですので寒い日は御利用ください!」

「オレたちも使っていいのか?」

「問題を起こさないなら歓迎しますよ。というか、専属護衛の仕事場です!」

「そうだったのか」

「それにまかないつきです!」

「「「まかない!!!」」」

「たくさん働きたまえ! さて、みんなにご飯を食べさせるために、動けない者の補助をお願いします!」

「「「おうっ!」」」

 俺とディーノは料理担当で、メイベルは盛り付け担当だ。
 グリムは浄化して回り、ユミルはメイベルの護衛をしているはず。……寝てるけど。

「何を作ってるんだ?」

「お粥だよ。病人食の定番だよ?」

「どこの国の?」

「この国の」

「ホントかよ」

「本を読め! 本を!」

「……副会長! お粥って知ってます?」

「病人食の定番だよね?」

「……孤立無援」

「おっ! 難しい言葉を知ってるじゃん!」

 ジト目を向けられるも、無視してお粥を大量に作っていく。
 少し味が濃いめのおかずがあると最高なんだけど、病み上がりには塩分控えめで胃に優しいものがいいだろう。

 作り置きのピクルスと卵スープでいいかな。
 元気な人たちには昨日と同様、肉串とお好み焼きでいいだろう。
 鉄板はないけど、ホットプレートみたいなものはある。自作したからね。

「よしっ! 頑張ろう!」

「「「「「おぉーーー!」」」」」

 そこからは銭湯のように匂いに引き寄せられた人が集まりだし、人が人を呼んで徐々に列をなしていく。

 ついでに宣伝をしようと思い、簡易的に作ったシボラ商会の看板と銭湯の料金を設置する。
 特に大きく書いたのは、『銭湯は男爵家のものではなく、シボラ商会のもの』という部分だ。

 手柄の横取りはさせん。

「美味っ! 全部美味い!」

「これ……食欲なくても食べやすい」

 うんうん。善きかな善きかな。

「アル! コソコソしてないで堂々と持っていかれよ!」

「――いつまで王様でいるの!?」

「臣下が反省するまでである!」

「反省?」

「ニコライ商会の奴隷になって薬をもらうという、無駄なことをしようとしたであろう?」

「無駄って……!」

「他人に縋るよりも、友人に助けを請うた方が安全確実ではなかったかのう?」

「それは……。ごめん」

「うむうむ。分かればよろしい」

 これ以上詰めると泣いてしまうかもしれないからやめておこう。

「じゃあ僕らはもう帰るけど、従業員は明日の朝銭湯に来ること! では、発進!」

「……出発進行ーー!」

 ディーノは俺たちを乗せた荷車を発進させたのだが、去り際に一言だけ従業員に告げた。

「お前たちも同じ事やらされるんだからな」

 ――と。

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