雷のサンダー ある銀級魔法使いの冒険

珈琲党

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17 デサントスの冒険者ギルド

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 俺たちがデサントスに到着したときには、すでに日が暮れていた。


「ここからさらに東に行くにはどうすれば良いんだ?」

 御者に尋ねる。

「本数は少ないが、ヨルデノール行きの乗合馬車があるはずだ」

「そうか、ありがとう」

「いいってことよ。気をつけてな」


 街灯で明るく照らされた大通りを歩く。

「疲れたな」

 盗賊の捕縛は意外とあっさり片付いたが、習得したばかりの浮遊の魔法をそれなりに使ったので体力と精神力の消耗が大きい。

「お腹がすきました……」

「だな。魔法を使うとその分だけ腹が減る。
 宿の飯が美味いと良いんだがな」

「そうですね。ニールの宿は快適でご飯も美味しかったですが、
 この町の宿はどうでしょうね?」

「とりあえず一旦ギルドに寄ってからだ。
 職員に聞けば良い宿を教えてもらえるだろう」

「はい」


 冒険者ギルドは、このデサントスの町でもすぐに見つかった。その周辺だけひときわ明るく賑やかで人通りもそこそこ多い。まぁそのほとんどが冒険者だろうが。

 大きな両開き扉の入口から入ってすぐ右手は酒場兼食堂になっており、冒険者たちが飲み食いしている。
 入ってきた者に鋭い視線が集中するのは、どこのギルドでも同じだ。

 真っすぐ受付カウンターに向かう。カーシャはこのギルドの雰囲気が苦手らしく、俺の背にピッタリ隠れるようにして歩く。
 俺たちの様子が気に食わないのか、聞こえるように舌打ちする奴もいた。

「こんばんは。
 乗合馬車組合の依頼を片付けた。完了の手続きを頼む」

 受付の職員に書類と俺とカーシャの冒険者証を渡す。

「はい、かしこまりました」

 職員は書類を確認し、冒険者証の情報を読み取る。

いかずちのサンダー様とカーシャ様ですね。
 盗賊全員の捕縛ということで、60万ジェニーの報酬です」

 受付カウンターに金貨が積まれた。

「確かに。
 あと、宿を探してるんだが」

「はい――」

 職員に宿の名前と場所を聞いて、カウンターを後にした。


 出口に向かう俺たちの前に、大柄な男が突然立ちはだかった。

「待ちな」

 男は鉄級の冒険者のようだ。
 元々は良い体をしていたんだろうが、長年の不摂生によるのだろう、あごの下や腹回りにこってりと脂が巻き付いた、だらしない体つきをしている。
 それでも、狂暴な目つきや使い古された短剣の状態からして、暴力を行使するのには慣れている様子だ。典型的なゴロツキ化した冒険者だな。

「なんだ?」

「俺たちに挨拶がねぇようだが、どういうつもりだ?」

 後ろを振り返ると、その男の仲間が二人、ニヤニヤと嫌な笑いを顔に貼り付けて受付の視線を遮るように立っていた。

「あ、すまんすまん。
 俺は雷のサンダー、こっちの娘がカーシャだ。よろしくな!」

 立ち去ろうとする俺たちを体で制して、男が吠える。

「そうじゃねぇ! 他に挨拶のしようがあるだろうが!」

「えぇ? 意味が良く分からないが、どういうこと?
 悪いがそこをどいてくれないか? 疲れてるんだよ」

「ここから出たいなら、力づくで通りな。
 それなりの誠意を見せれば、黙って通してやらんでもないがな」

 男がニヤッと顔の片側をつり上げて笑う。

「ようは金を出せってことか? 追い剥ぎみたいなもんだな」

「うるせぇ! 痛い目みないと分からないのか?」

 男が拳を振り上げ、殴りかかってきた。その瞬間、俺は守りの魔法を展開した。
 金色の半透明のドームがサッと出現し、俺とカーシャを包み込む。

 ぐしゃぁ! ゴンガン!

「うぐっ……」

 男の拳はドームに激突して砕けたようだ。右手をおさえてしゃがみ込んだ。
 後ろの仲間も同様に拳を押さえて、顔を歪めている。

「さて、次は俺の番ってことだな?」

 俺はニヘラとあえて下種な笑顔を浮かべる。

「雷って二つ名のとおり、俺は稲妻の魔法が得意なんだよ。
 お前たちは見せしめとして、丸焦げになってもらうとしよう」

「「「ひぃぃ」」」

 小さくなっている男たちに、威力を抑えた極小サイズの雷を落としてやった。
 ちなみに稲妻の魔法はピンポイントで当てるのが難しく、実はあまり得意じゃない。とはいえこの距離ならどうやっても外しようがないのだ。

 バチン!、バチン!、バチン!

「ぎゃぁ!」「うわぁぁ!」「やめ――ひゃぁ!」

 男たちは泡を吹いて失神した。
 スタンガンと同じような高電圧小電流の雷だから、衝撃は受けるが死にはしない。音と光だけは非常に目立つので、威嚇にはなるがな。

 俺はシンと静まり返った酒場の方を見渡す。冒険者たちはあっけにとられたように目を真ん丸にして俺たちを見ていた。

「他にも挨拶が必要な人はいるかぃ?」

 皆、プルプルと首を横に振っている。

「じゃ、おやすみ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 職員に教えてもらった宿に到着した。
 この宿も食堂とフロントが兼ねられているようだ。

「泊まりたいんだが、二部屋用意できるか?」

「ああ、一泊2千ジェニー。二部屋だから4千ジェニー」

 宿の親父に金を支払う。

「あと、晩飯も食いたいんだが、何が食える?」

「パンと肉入りシチューで400ジェニー」

「じゃあそれを二つくれ」

 親父に金を払って空いた席に着いた。

「おまち」

 間髪入れずに飯が出てきた。
 パンはこの世界でよく見る硬くて丸いパンだ。肉入りシチューはパッと見た感じビーフシチューによく似ている。匂いもそんな感じだ。

 さっそくカーシャがシチューを口にした。

「美味しい!」

「確かに美味いな」

 俺の知っているビーフシチューにそっくりの味だ。入っている肉も良く火が通っており、口の中でホロホロと崩れていく。
 腹が減っていた俺たちは、あっという間にシチューを平らげてしまった。

「親父、シチューおかわり!」

「シチューのおかわりは200ジェニーだよ」

 結局、俺たちはシチューを二杯ずつおかわりした。

「げふぅ……、食った食った」

「ふぅぅ、お腹いっぱいです」


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