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16 盗賊を討伐
しおりを挟む先に出発していたデサントス行きの馬車が盗賊に襲われたらしい。その情報をいち早く入手した乗合馬車組合は、俺に盗賊の討伐を依頼。俺はその依頼を引き受けることにした。
「私はどうすれば良いですか?」
カーシャが不安そうな顔でたずねる。
「今回は特にやることはないよ。危ないから馬車の中で待機だ」
「そうですか……」
カーシャは少し残念そうにうつむく。
「得手不得手があるから、仕方ないだろ。
誰かが怪我をするかもしれないから、そのときは治療の魔法を頼む」
「はい!」
俺たちを乗せた馬車は、予定通り中継基地を出発、デサントスへ向けて走り出した。他の乗客には、盗賊の件は知らされていない。無用な混乱が起きるからだ。
しばらくすると馬車のスピードが落ちた。前方に止まっている乗合馬車を見つけたのだ。事前の打ち合わせ通り、馬車は十分な距離を取って停車した。
前方の乗合馬車の陰に二人、進行方向右手の岩陰に四人、左手の茂みに四人。あれが例の盗賊だろう。上空にいる俺からは手に取るように良く見えた。浮遊の魔法書はなかなか手強かったが、習得しておいて正解だった。このような偵察にはもってこいの魔法だな。
連中は前から来る馬車に注目しているだろうから、上空の俺はまず見つからないだろう。俺はなるべく死角になるような角度で、まずは右手の岩陰に降下した。
弓を構えた薄汚いのが四人いた。
「ぐへへ、また獲物が来たぜ」
「だな」
「ふへへ」
「合図はまだか?」
「よお! 何やってんの?」
俺は明るく声をかけた。
連中がギョッとして振り返る。
「な! なんだテメェ!」
「俺か? お金の亡者、南無サンダー! いざっ!」
ドドドドッ! 俺の得意技である衝撃の魔法の正確な連射。名付けて「マシンガンブロー」が炸裂し、無言のまま四人は昏倒した。
すぐにそこを飛び立った俺は、今度は左手の茂みにそっと降り立つ。
ここにもやはり薄汚いのが四人いた。
「まだか?」
「待てまて」
「くそぉ、いい女でもいねぇかな」
「へへへ、そうだな」
後から声をかける。
「元気が良いねぇ?」
「は⁉ な、何者だ!」
「不条理の権化、南無サンダー! いくぞ!」
ドドドドッ! またもマシンガンブローが唸り、四人はすぐさま地面に倒れた。
そこを飛び立った俺は、最後に乗合馬車の裏に静かに降り立った。
ひときわ上背のある薄汚いのと、それより背の低い薄汚いのがいた。
「ん? 奴ら何やっていやがる!」
「どうした?」
「合図をしても出てこねぇ」
「なにぃ!」
「今は8人とも、ぐっすり眠ってるからねぇ」
「な! な、何だテメェ!」
「そっちの大きい方がマッドドッグのタネンかい?」
「その呼び名は気に入らねぇな。良い度胸だ、叩き斬ってやる!」
タネンらしい奴が腰の剣を抜き、ダッと踏み出したところへ、ドン!
さらについでのように、ぼさっと見ているもう一人にも、ドン!
衝撃の魔法二発で片が付いた。
これで盗賊十人全員の捕獲が出来た。
合図の火球の魔法を空へ一発放つと、はるか後方に待機していた馬車がすぐにやって来た。中から屈強な兵士たちが降りてくる。中継基地を守る兵士たちだ。
「そこの茂みと岩陰に四人ずつ、こっちに二人だ」
「わかった!」
気絶している盗賊たちは、兵士たちによって手早く縛り上げられてしまった。
最初に襲われた乗合馬車の乗客は、猿ぐつわを噛ませられて、席に縛られていたが特に大きな怪我もなく無事だった。人質にするつもりだったのだろうか。
馬車の御者とその助手は、重傷を負いながらも生きていた。
「カーシャ、怪我人だ!」
「はい!」
カーシャが馬車から飛び出してきた。
俺は一本の短く細い棒を取り出すと、カーシャに手渡す。
「そいつを片手で構えて魔法を使ってみろ」
「わ、わかりました!」
御者と助手の体が青白い光に包まれると、苦痛に歪んでいた彼らの表情が、スゥっと穏やかになり目を開けた。
「助かった……」
「魔法使いか?」
「お、意識が戻ったか。お前たちは運が良いぜ」
「サンダーさん、これはマジカルワンドですか?」
「俺が昔使ってたやつだ。
それを使うと、魔法の効果と成功率が少しだけ上がるんだよ。
俺には杖があるから、それはもういらない。カーシャにやるよ」
「高価な品ではないですか?
私などにはもったいないものです」
「いいって。お前が持っていた方が役に立つから」
「ありがとうございます!」
カーシャはマジカルワンドを大事そうにカバンにしまった。
兵士と一緒にやって来た組合職員は、この状況をこまごまと記録している。
「サンダー様。こちらが署名済みの依頼書になります。
このまま冒険者ギルドに提出していただければ、報酬が受け取れます」
「そうか、ありがとう」
「いいえ、こちらこそありがとうございました。
また何かのときにはよろしくお願いいたします」
「まあ、何もない方が良いけどな。ハハハ」
こまごまとした後始末は兵士たちと職員が引きつぎ、俺たちは乗合馬車でデサントスへ向けて出発した。町に到着したときには、もう日が暮れていた。
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