雷のサンダー ある銀級魔法使いの冒険

珈琲党

文字の大きさ
上 下
16 / 29

16 盗賊を討伐

しおりを挟む

 先に出発していたデサントス行きの馬車が盗賊に襲われたらしい。その情報をいち早く入手した乗合馬車組合は、俺に盗賊の討伐を依頼。俺はその依頼を引き受けることにした。


「私はどうすれば良いですか?」

 カーシャが不安そうな顔でたずねる。

「今回は特にやることはないよ。危ないから馬車の中で待機だ」

「そうですか……」

 カーシャは少し残念そうにうつむく。

「得手不得手があるから、仕方ないだろ。
 誰かが怪我をするかもしれないから、そのときは治療の魔法を頼む」

「はい!」


 俺たちを乗せた馬車は、予定通り中継基地を出発、デサントスへ向けて走り出した。他の乗客には、盗賊の件は知らされていない。無用な混乱が起きるからだ。

 しばらくすると馬車のスピードが落ちた。前方に止まっている乗合馬車を見つけたのだ。事前の打ち合わせ通り、馬車は十分な距離を取って停車した。

 前方の乗合馬車の陰に二人、進行方向右手の岩陰に四人、左手の茂みに四人。あれが例の盗賊だろう。上空にいる俺からは手に取るように良く見えた。浮遊の魔法書はなかなか手強かったが、習得しておいて正解だった。このような偵察にはもってこいの魔法だな。

 連中は前から来る馬車に注目しているだろうから、上空の俺はまず見つからないだろう。俺はなるべく死角になるような角度で、まずは右手の岩陰に降下した。
 弓を構えた薄汚いのが四人いた。

「ぐへへ、また獲物が来たぜ」
「だな」
「ふへへ」
「合図はまだか?」

「よお! 何やってんの?」

 俺は明るく声をかけた。
 連中がギョッとして振り返る。

「な! なんだテメェ!」

「俺か? お金の亡者、南無サンダー! いざっ!」

 ドドドドッ! 俺の得意技である衝撃の魔法の正確な連射。名付けて「マシンガンブロー」が炸裂し、無言のまま四人は昏倒した。

 すぐにそこを飛び立った俺は、今度は左手の茂みにそっと降り立つ。
 ここにもやはり薄汚いのが四人いた。

「まだか?」
「待てまて」
「くそぉ、いい女でもいねぇかな」
「へへへ、そうだな」

 後から声をかける。

「元気が良いねぇ?」

「は⁉ な、何者だ!」

「不条理の権化、南無サンダー! いくぞ!」

 ドドドドッ! またもマシンガンブローが唸り、四人はすぐさま地面に倒れた。

 そこを飛び立った俺は、最後に乗合馬車の裏に静かに降り立った。
 ひときわ上背のある薄汚いのと、それより背の低い薄汚いのがいた。

「ん? 奴ら何やっていやがる!」
「どうした?」

「合図をしても出てこねぇ」
「なにぃ!」

「今は8人とも、ぐっすり眠ってるからねぇ」

「な! な、何だテメェ!」

「そっちの大きい方がマッドドッグのタネンかい?」

「その呼び名は気に入らねぇな。良い度胸だ、叩き斬ってやる!」

 タネンらしい奴が腰の剣を抜き、ダッと踏み出したところへ、ドン!
 さらについでのように、ぼさっと見ているもう一人にも、ドン!
 衝撃の魔法二発で片が付いた。

 これで盗賊十人全員の捕獲が出来た。
 合図の火球の魔法を空へ一発放つと、はるか後方に待機していた馬車がすぐにやって来た。中から屈強な兵士たちが降りてくる。中継基地を守る兵士たちだ。

「そこの茂みと岩陰に四人ずつ、こっちに二人だ」

「わかった!」

 気絶している盗賊たちは、兵士たちによって手早く縛り上げられてしまった。
 最初に襲われた乗合馬車の乗客は、猿ぐつわを噛ませられて、席に縛られていたが特に大きな怪我もなく無事だった。人質にするつもりだったのだろうか。
 馬車の御者とその助手は、重傷を負いながらも生きていた。

「カーシャ、怪我人だ!」

「はい!」

 カーシャが馬車から飛び出してきた。
 俺は一本の短く細い棒を取り出すと、カーシャに手渡す。

「そいつを片手で構えて魔法を使ってみろ」

「わ、わかりました!」

 御者と助手の体が青白い光に包まれると、苦痛に歪んでいた彼らの表情が、スゥっと穏やかになり目を開けた。

「助かった……」
「魔法使いか?」

「お、意識が戻ったか。お前たちは運が良いぜ」

「サンダーさん、これはマジカルワンドですか?」

「俺が昔使ってたやつだ。
 それを使うと、魔法の効果と成功率が少しだけ上がるんだよ。
 俺には杖があるから、それはもういらない。カーシャにやるよ」

「高価な品ではないですか?
 私などにはもったいないものです」

「いいって。お前が持っていた方が役に立つから」

「ありがとうございます!」

 カーシャはマジカルワンドを大事そうにカバンにしまった。


 兵士と一緒にやって来た組合職員は、この状況をこまごまと記録している。

「サンダー様。こちらが署名済みの依頼書になります。
 このまま冒険者ギルドに提出していただければ、報酬が受け取れます」

「そうか、ありがとう」

「いいえ、こちらこそありがとうございました。
 また何かのときにはよろしくお願いいたします」

「まあ、何もない方が良いけどな。ハハハ」


 こまごまとした後始末は兵士たちと職員が引きつぎ、俺たちは乗合馬車でデサントスへ向けて出発した。町に到着したときには、もう日が暮れていた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

転生して貴族になったけど、与えられたのは瑕疵物件で有名な領地だった件

桜月雪兎
ファンタジー
神様のドジによって人生を終幕してしまった七瀬結希。 神様からお詫びとしていくつかのスキルを貰い、転生したのはなんと貴族の三男坊ユキルディス・フォン・アルフレッドだった。 しかし、家族とはあまり折り合いが良くなく、成人したらさっさと追い出された。 ユキルディスが唯一信頼している従者アルフォンス・グレイルのみを連れて、追い出された先は国内で有名な瑕疵物件であるユンゲート領だった。 ユキルディスはユキルディス・フォン・ユンゲートとして開拓から始まる物語だ。

辺境に住む元Cランク冒険者である俺の義理の娘達は、剣聖、大魔導師、聖女という特別な称号を持っているのに何歳になっても甘えてくる

マーラッシュ
ファンタジー
俺はユクト29歳元Cランクの冒険者だ。 魔物によって滅ぼされた村から拾い育てた娘達は15歳になり女神様から剣聖、大魔導師、聖女という特別な称号を頂いたが⋯⋯しかしどこを間違えたのか皆父親の俺を溺愛するようになり好きあらばスキンシップを取ってくる。 どうしてこうなった? 朝食時三女トアの場合 「今日もパパの為に愛情を込めてご飯を作ったから⋯⋯ダメダメ自分で食べないで。トアが食べさせてあげるね⋯⋯あ~ん」 浴室にて次女ミリアの場合 「今日もお仕事お疲れ様。 別に娘なんだから一緒にお風呂に入るのおかしくないよね? ボクがパパの背中を流してあげるよ」 就寝時ベットにて長女セレナの場合 「パパ⋯⋯今日一緒に寝てもいい? 嫌だなんて言わないですよね⋯⋯パパと寝るのは娘の特権ですから。これからもよろしくお願いします」 何故こうなってしまったのか!?  これは15歳のユクトが3人の乳幼児を拾い育て、大きくなっても娘達から甘えられ、戸惑いながらも暮らしていく物語です。 ☆第15回ファンタジー小説大賞に参加しています!【投票する】から応援いただけると更新の励みになります。 *他サイトにも掲載しています。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪
ファンタジー
勇者パーティに属するルーナ(17)は悩んでいた。 補助魔法が使える前衛としてスカウトされたものの、勇者はドスケベ、取り巻く女の子達は勇者大好きという辟易するパーティだった。 しかも勇者はルーナにモーションをかけるため、パーティ内の女の子からは嫉妬の雨・・・。 そんな中「貴女は役に立たないから出て行け」と一方的に女の子達から追放を言い渡されたルーナはいい笑顔で答えるのだった。 「ホントに!? 今までお世話しました! それじゃあ!」  ルーナの旅は始まったばかり!  第11回ファンタジー大賞エントリーしてました!

処理中です...