雷のサンダー ある銀級魔法使いの冒険

珈琲党

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15 ニールを出発

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 サンドワームがようやく北の砂漠へ戻って行ったらしく、デサントス行きの乗合馬車の運行が再開された。一カ月待って、ようやく東へ進める。俺たちはさっそくデサントスへ向けて出発することにした。


「いろいろと世話になったな」

 一カ月近く滞在していた宿の親父に挨拶をした。

「ああ、用があったらまた泊って行ってくれ。
 あんたはお得意さんだから、そのときは少しはまけてやるよ」

 親父はニッと笑った。

「なんだ少しかよ、ハハハ。じゃぁまたな」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 デサントス行きの待合所は馬車で一杯だった。

「どの馬車に乗るんですか?」

 カーシャは馬車の多さに困惑している。

「まぁ待て」

 ギルドの職員に聞いた話では、組合に属している馬車の屋根には特定のマークが入れてあるらしい。しかしどんなマークなのかは公表していない。公表してもらえれば利用者としては助かるが、それをしないのは、悪質業者などがマークだけ真似ることがあるからだとか。

 中継基地の兵士たちは、マークのない馬車が近づけば問答無用で攻撃する。逆にマークがあれば、門の手前までは近づけるわけだ。もちろんそこで御者の身分証などが検査されるので、偽物が簡単に入場できるわけではない。とはいえ中継基地を狙う盗賊などは、その辺りを突いてくるかもしれない。
 ということで、組合のマークは公表されていないし、ときどき図案が変更されているようだ。

 たしかニールへ来るときに乗った馬車の屋根にも何か描かれていたな。そういえば車輪のマークだったかな……。
 俺は覚えたばかりの浮遊の魔法を使って、二メートルほどの高さにスイッと浮かび上がる。その場でくるっと見回して、何台かの馬車に目星をつけた。

「こっちだ」

「はい」


 屋根にマークがあって、まともなサスペンションが付いている馬車を探すと、結局一台だけが残った。
 念のために御者にたずねてみる。

「この馬車は組合に入ってるんだな?」

「そうだよ、旦那。よく知ってるねぇ」

「デサントス行きで間違いないな?」

「ああ、間違いない。運賃は3万ジェニーだが、どうするね」

「よし、乗ろう。この娘も乗るから、二人で6万ジェニーだな」

 御者に運賃を支払って、俺たちは馬車に乗り込んだ。

「はぁ、フカフカで座り心地が良いですね」

 カーシャは久々の馬車の旅にウキウキしている。

「馬車に乗るときは、作りをよく確認しないと酷い目に遭う。
 この馬車は他のと比べると作りがかなり良い。まぁその分運賃も高いけどな」

「なるほどぉ。
 デサントスにはいつ頃着くんですか?」

「中継基地で一旦休憩して、町に着くのは夕方ごろだろうな。
 しばらくは乗りっぱなしになるから、ゆっくりしていろ」

「はい」

 程よい振動の中でうつらうつらしていると、何ごともなく中継基地に着いた。

「さて、昼飯にしようか」

 俺たちはベンチに座ってサンドイッチを頬張る。

「むぐむぐ……。これって作りたてですよね。本当にいつ作ってるんです?」

「魔法だよ」

 俺は慣れないウインクをしてごまかす。
 もう一カ月ぐらい前に作ったものが、まだ残っていたのだった。マジックポケットに入れておけば、全く鮮度も落ちないし潰れたりばらけたりもしない。

「えぇ……」

 カーシャは疑わしげな眼差しで俺を見る。

「ふふふ」

「もう」


 カーシャをからかっていると、組合の職員が小走りにやって来た。

「あの、失礼ですが、いかずちのサンダー様ですか?」

「そうだが」

「良かった! あの、それで突然なんですが――」


 職員が言うには、先に立ったデサントス行きの馬車が、盗賊に襲われたのだという。おそらく俺たちの乗る馬車も盗賊に襲われるだろうから、その時に撃退、できれば討伐してもらいたいとのことだった。盗賊はこの辺りでは有名な連中でメンバーは10人。首領の名前はタネンというらしい。
 携帯も無線もないこの世界で、どうやってそんな情報を入手しているのか、俺としてはそっちの方が気になるところだが、聞いたところで教えてはもらえないだろうな。まあ、そういう魔法があると言われたらそれまでだが……。


「なるほど、状況は分かった。
 それで、正式な依頼ということで良いのかな?
 ギルド経由でないと、後でめんどくさいことになるぞ」

「それも問題ありません。ギルドの承認は得ております。
 あとはサンダー様の意思しだいということです」

「報酬は?」

「撃退で10万ジェニー、殲滅で40万ジェニー、
 一味を生きて捕らえた場合は60万ジェニーとなっております」

 命がけの仕事にしては少々安い気がするが、ここで俺が引き受けないとしばらく足止めを食らうことになる。さすがにそれは困るからな。

「よし。引き受けた」

「ありがとうございます!」



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