雷のサンダー ある銀級魔法使いの冒険

珈琲党

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13 ゴミの始末

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「んが⁉ み、水……」

 目の前に水の入った器が差し出される

「はいどうぞ、サンダーさん」

「んぐんぐんぐ……、ぷはっ。
 す、すまん、洗濯の魔法と治療の魔法を頼む」

「はい」

 汗でねばついてた体がサッパリし、激しい頭痛が収まった。頭の中のモヤがさぁっと晴れていく。

「ふぅぅ、助かった……。ありがとう」

「いいえ。私はこれくらいしかできませんから」

「日が出てからどれくらいになる?」

「そうですねぇ……、もうすぐお昼近くですかね」

「他の連中は?」

 カーシャの指さす方を見ると死屍累々、皆酷い状態だ。まったくこの村はこんな有様で大丈夫なんだろうか。まあ大丈夫なんだろうな。

「そろそろおいとましよう。村長だけでも起こしてもらえるか」

「はい」

 カーシャは村長に治療の魔法をかけて揺り起こす。

「う、ぅぅぅ……。あぁ、寝過ごしてしまったか。
 これはどうもすみません。」

「村長さん。俺たちはそろそろ町に戻らないといけない。
 また何かあったら依頼を出してください」

「あ、そうですか。何から何までどうもありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそご馳走になりました。では、失礼します」

 俺たちは足早にアルゴ村を立ち去った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 田舎道を歩きながら、作り置きのサンドイッチを頬張る。あの日作ったものがまだ残っているのだった。

「しゃくしゃくむぐむぐ……、それにしてもこのサンドイッチは新鮮ですよね。
 いつの間に作ったんですか?」

「もしゃもしゃ……、魔法だよ」

「えぇ⁉ そんな魔法は聞いたことがないです」

「だろうな。ハハハ」

「もう……」

「お⁉」


 俺たちの行く手にある茂みがガサガサっと音を立てて、二人の男が飛び出してきた。そして、後ろの茂みからも男がもう一人。俺たちは男たちにはさまれてしまったようだ。
 男たちは分厚い鉄の鎧を装備し、剣を抜いている。

「うん? また、お前たちか……。一応聞くが、何の用だ?」

 俺にやられたあの三人組がまた絡んできたのだった。

「だまれ! お前には死んでもらう。
 カーシャと金は俺たちがいただく」

 これは絡んできたというレベルではなく、強盗殺人誘拐予告じゃないか。

「あなたたち!」

「へへへ、もうあの魔法は使えんだろ」

 男が鎧の腹を叩く。コォンといかにも硬そうな音がした。
 それでよく分った。この連中が魔法のことを知らないんだということを。

 衝撃の魔法は、衝撃波を飛ばす魔法、ではない。
 好きな場所に衝撃力を発生させる魔法なのだ。

「カーシャ。悪いが、こいつらはもうダメだ」

「はい。もう構いません」

 カーシャもきっぱりと言い捨てた。


「何をごちゃごちゃと――」

 俺は連中の心臓目がけて、一発ずつ衝撃の魔法をお見舞いした。これは本当の意味での必殺技だ。派手さはないが、生き物相手ならこれが一番有効だろう。心臓が止まればどんな生き物でもイチコロだ。

 ガシャガシャと騒々しい音を立てながら、三人は無言で地面に倒れた。死体を調べても外傷は出ないだろう。謎の突然死と見られるはずだ。まあわざわざ見知らぬ男たちの死因を調べる人間がいるかどうか分からないが……。

「じゃ、行くか」

「はい!」

 カーシャは地面に倒れた連中には一瞥もくれない。
 俺たちは何事もなかったかのように帰途につくのだった。

「サンダーさん」

「どうした?」

「サンドイッチまだあります?」

「まだまだあるぞ。ほら食え」

「わぁ、ありがとう!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 夕方ごろに、ニールの冒険者ギルドに帰り着いた。

「アルゴ村のゾンビ討伐の件、無事終了した」

 村長の署名が入った書類を受付に提出する。

「はい、お疲れ様です。報酬は10万ジェニーです。どうぞ」

 受付から5万ジェニー金貨を二枚受け取った。

「うん、確かに」

「またよろしくお願いします」



 ギルドを出てからカーシャに報酬を渡す。

「ほら、今回も5万ジェニーだ」

「えぇ、良いんですか?」

「構わない。もらえる時にもらっとけ」

「は、はい。ありがとうございます」


「ところで、サンダーさん。
 リッチ討伐のことは報告しなくて良かったんですか?」

「報告なんてしないよ。面倒なだけだからな」

「でも、リッチの討伐なんて偉業ですよ」

「多少名声は上がるかもしれないが、やっぱり面倒だよ。
 根掘り葉掘り聞かれて、時間を無駄にするだけだぜ。
 それに今回の件は実力じゃなくて、たまたま運が良かっただけだしな。
 リッチなんて普通にやり合って勝てる相手じゃないから」

「そういうものですか……」

「そういうものなんだよ。カーシャもいずれわかるさ。
 それより、今晩の宿の飯は何だと思う?」

「えぇ、何ですかそれ……」

「名声なんかよりも、こういうことに頭を使った方がよっぽど有益だぞ。
 俺はあれだな、肉とパンとスープだろ。それで500ジェニー」

「だったら、私はあのオムレツがもう一回食べたいですね。
 オムレツとパンとスープで500ジェニー」



 宿の食堂は休業していた。

「すまんな。手伝いが急に来れなくなってな……」


「えぇぇぇぇ……」
「大丈夫だ。まだサンドイッチが残ってる」



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