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12 アルゴ村
しおりを挟む俺たちは日暮れ前にはアルゴ村に到着した。
完全に日が落ちる前に今晩の宿を探さないといけない。
たまたま通りかかった村人に話しかける。
「すまない。宿を探してるんだが……」
「この村には宿なんかねぇです。旅の途中でお寄りになったんですかぃ?」
「いや、ゾンビ討伐の依頼を受けてニールからやって来たんだ」
「ああ、冒険者の方々ですかい!
んだったら、村長さとこへ行くがいい。この先のでかい家だわ」
「そうか、ありがとう」
村長の家はすぐに見つかった。
家のまばらな集落の中に、でかい家がドカンと建っていた。
「こんばんは!」
「はぁい、何かね?」
扉越しに返事が返ってきた。
「ゾンビ討伐の依頼を受けて来た者ですが」
「少々お待ちを!」
扉が開いて初老の男が顔を出した。
「これは失礼しました。村長のグリファです」
「俺は冒険者のサンダー、この娘は助手のカーシャといいます」
首の冒険者証と依頼書を村長に見せる。
「なんと! 銀級魔法使いのお方ですか。これは心強い!
遠いところよくお越しくださいました。
もう日が暮れますので、今晩はこちらにお泊りになって下さい。
なにぶん貧しい村ゆえ、たいした物は用意できませんが……」
「泊めてもらえるだけで十分ですよ。よろしく頼みます」
「よろしくお願いします」
その晩はそこそこ盛大な歓待を受けた。
夜遅くまで飲めや歌えの大宴会。カーシャは早々に撃沈して寝床に引っ込んでしまった。大変ありがたいことではあったが、早めに眠って明日に備えたかった俺としては、なかなか微妙な気分だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「んが⁉ あ、朝か……」
途端にのどの渇きと頭の痛みが襲ってきた。
水で割ったワインを取り出してゴクゴクとのどを鳴らして飲む。
「ふぅぅぅ……」
「おはようございます。お目覚めですね」
よく眠れたらしいカーシャは朝から元気だ。
「ああ、おはよう。
すまないが、洗濯の魔法と治療の魔法をかけてくれないか」
「はい、わかりました」
とたんに体がさっぱりして、頭がスッキリ冴えてくる。やはり彼女を雇っておいて正解だった。
「はぁ、助かった。ありがとう」
早々に依頼を果たして引き上げないと体を壊しそうだ。
歓迎してもらえるのはありがたいんだがな……。
朝食の後、村長に現場に案内してもらった。
「あの先の墓場なんですが、かなりの数になります」
「今いるゾンビは全部、以前に埋葬された元村人なんですか?」
「ええ、おそらくはそうでしょう。見知った顔が多いです。
まぁ、見分けがつかなくなった者もそれなりにいますが……」
「なるほどねぇ。
ところで、この依頼は以前にも出してませんでしたか?」
「そうです、よくご存じで。
ゾンビ討伐の依頼を出すのは、実はこれで4回目なんです。
前回までは鉄級魔法使いの方にお願いして、祓ってもらっていたんです。
儀式をして墓場を清めてから、もう一度埋葬し直すということをしていました。
しかし3回もやってもらってこの通りですからね……。
ほとほと困っているところですよ」
祓ったということは、浄化の魔法だろうな。たしかに浄化の魔法はアンデッドに効果がある。しかし、その効果は永続的なものではない。
「それで、そのゾンビたちは墓場から出て人を襲ったりは?」
「いいえ。不思議なことに墓場の中をグルグル回るだけでして……」
「なるほど。良く分かりました」
俺たちは墓場が良く見える位置まで移動した。
確かに村長の言う通り墓場の中をゾンビたちが整列してグルグル回っている。これは明らかに悪霊によるものではないな。術者がどこかにいて操っているに違いない。しかし術者はどこだろう。
墓場の外れから怪しく嫌なオーラが噴出している。これはもしかしたら……。
「カーシャ、何か感じるか?」
「はい。すごく嫌な雰囲気です」
「どの辺りが一番強い?」
カーシャが指をさす。墓場ではなく、そこから少し離れた祠のようなものを。
なるほど、カーシャはやはり魔法の才能がありそうだな。
「村長さん。あの祠には何がまつられているんです?」
「ああ、あれは行き倒れの旅人を弔うためのものですよ。
この辺りでは、数年に一人くらいはそういうことがありますからね」
「その中に魔法使いふうの仏さんはいませんでしたか?」
「そうですな……。確かにいたかもしれません」
これは少々厄介なことになるかもしれない。この依頼を断るべきか少し迷ったが、カーシャにとって良い経験になるだろうし、やってみるか。
愛用の杖を取り出して、半目になってしばし精神を集中すると、カッと目を見開き守りの魔法を展開する。即座に金色に光る半透明のドームが俺たちを包んだ。
「おぉ!」
「こ、これは⁉」
「ちょっとばかり危険かもしれないので、防御用の魔法を使いました。
なるべくこの中でジッとしていてください」
「「はい!」」
「村長さん。申し訳ありませんが、あの祠を破壊します」
「……分かりました。この怪異が収まるのであれば構いません」
「では、いきますよ」
ドォン!
祠に衝撃の魔法をぶつけて吹き飛ばす。祠の下は空洞になっていた。空洞の中に無縁仏が放り込まれているのだった。
しばらく見ていると、穴から何かがするっと出てきた。そいつは空中にふわりと
とどまり周りを見まわしていたが、すぐに俺たちを見つけた。
ボロボロのローブを身にまとったミイラ。目玉のあるべき場所には紅い光がぼぉっと灯っている。恨みを抱えたまま死んだ魔法使いのなれの果てだ。
「うわっ!」
「あ、あれは……」
「あれはリッチだ」
リッチは炎の両目に憎しみをたたえて、俺たちを指さす。
「はねあぅのえうぇぁぁえい!!」
何を言っているのかは分からなかったが、明るい挨拶ではなさそうだ。
奴の指先に小さな炎が灯ったと思ったら、瞬時にサッカーボールほどになった。
「火球の魔法だ! 伏せろ!」
リッチの放った火球はゴゥっと音を立ててあっという間に俺たちに迫る。俺たちに衝突する数メートル手前のところで、火球は守りの魔法に弾かれて、明後日の方向へ飛んで行った。
「た、助かった……」
「はぁぁ……」
「安心するのはまだ早いぞ」
リッチは炎の両目にさらなる憎しみをたたえて俺たちを指さした。
「がおうえおうおぺえあえじぇ!!」
ガガン! ドゴォン!
瞬時に稲光がドーム状に広がり、轟音が鳴り響く。
「うわぁぁぁ!」
「きゃぁぁ!」
念入りに練り上げて展開した守りの魔法だが、いつまでもつかは分からない。
今まで意味もなくグルグル回っていたゾンビたちも、隊列を組んで俺たち目がけて行進を始めた。このままでは非常にマズい。
リッチには魔法も効かないし、通常の攻撃もほぼ弾かれてしまう。ありとあらゆる魔法を駆使して冒険者を追い詰める、最強にして最悪の魔物。ダンジョン内でばったり遭遇でもしたら、熟練冒険者でも死を覚悟するしかないと言われている。
生者に対して無限の恨みを抱き、相手が息絶えるまでどこまでも追いかけてくるのだ。それこそ瞬間移動にさえ追従してくるらしい。
そんなリッチにも弱点はある。どこかに隠されている本体を破壊すればいいのだ。普通はそんなもの簡単に分かるわけがないのだが、今回だけは分かる。
俺は制限を解除した最大級の衝撃の魔法を、祠の下の空洞の内部で発動させた。
ズドム!
体が一瞬宙に浮くほどの衝撃が地面を伝わる。
「ぎゃっ!」
「きゃぁ!」
「ぶっぽぺえいんぅ⁉」
リッチの両目から炎が消えて、宙に浮いていた体がぱさっと地面に落下した。
行進していたゾンビたちも、パタパタとドミノ倒しのように倒れていく。
「よし、やったぞ!」
「お、終わりましたか?」
「はぁぁぁ……」
村長とカーシャが地面にへたり込んだ。
「「「おーい!」」」
音を聞きつけた村人たちがやって来た。
村人たちの手によって、ゾンビ化していた遺体はまた埋葬し直され、祠も元に戻された。この騒動の原因になった魔法使いの死体は、俺が火球の魔法で灰になるまで完全に焼却した。
「これでもう大丈夫でしょう」
「「「おぉぉぉぉ!」」」
俺の宣言に村人たちが沸き立った。
「この度はどうもありがとうございました。
ゾンビの討伐だけでなく、原因まで始末してくださった。
さすがは銀級の魔法使い様、まさかリッチの討伐までなされるとは」
「いやいや、当然のことをしたまでのこと」
さっさと村長に署名をもらって帰ろうとしたが、何のかんのと引き留められて、結局その晩も大宴会となるのだった。
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