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01 雷のサンダー
しおりを挟む「おい、おっさん。待ちな」
暗く低い声が背後から俺に投げつけられた。
ここは人通りがほとんどない裏路地だ。
後ろを振り返ると、若い男が三人。抜き身の短剣を手に、ニヤニヤと嫌な表情を浮かべている。見覚えのない顔だ。首にさげているプレートからすると、他所から流れてきた鉄級の冒険者だな。
「ギルドからつけてきたのか?」
俺は何気ない調子で答える。
報酬の金貨を受け取るところを、三人に見られたのかもしれない。
「金を持っているんだろ? 素直に出せば痛い思いをしなくてすむぜ」
この手の輩は結構多い。冒険者なんて無法者と大差はない。その日暮らしで気楽だが、生活の保障など何もないのだ。要領が悪いと、ちょっとしたことですぐに食いつめて犯罪に手を出すようになる。特に鉄級を長くやってるような冒険者はそうなる傾向にある。
「お前たちは冒険者だろ? 俺のことを知らないのか?」
どうせ答えは分かっているが、念のために確認してみた。
「知るかよ!」
「黙って金をよこしな」
「殺してから奪うこともできるんだぜ」
おそらく連中は、俺の肩掛けカバンに金があると思っているのだろう。
だが、俺はマジックポケット持ちだ。逆さにして振っても銅貨一枚出てこない。
マジックポケットというのは、ド〇えもんの四次元〇ケットみたいなもので、どこかの異空間に持ち物を保管できる便利な能力だ。手に持てるサイズの物ならたいてい何でも入るし、当然、入れたものはいつでも自由に取り出すことができる。
今のところ、俺以外でこれを使える人間を見たことがないし、噂ですら聞いたこともない。俺も人にはこのことを黙っているので、世間一般には全くその存在が知られていないはずだ。ちなみにマジックポケットという呼び名も、俺が勝手に付けたものだ。
三人は見るからに荒くれ者といった風体で、体つきはがっしりしているし、戦い慣れしている様子だ。それに比べて俺の方は、貧弱でひょろひょろしているし上背もない。彼らは革鎧を着こみ、武器まで持っている。俺はありふれたフード付きの布の上着に素手だ。装備の面でも数の面でも肉体的な面でも、圧倒的に劣っている。彼らが俺のことをくみしやすしと判断したのも分かる。
「一応警告はしたぞ」
俺のその返事に、ざわりと三人の雰囲気が変わる。
こいつら、この手の荒事に慣れているな。ひょっとしたら、はじめから俺を殺すつもりだったのかも知れない。短剣を構えながら静かに間合いを詰めてきた。
相手がその気なら、遠慮はいらないな。
俺は精神を集中し力を調整して、三人に向けて衝撃の魔法を放った。
ドゴォン! と大きな音がして、一斉に三人が吹っ飛んだ。
「「「うわぁぁぁぁ!」」」
という何の工夫もない悲鳴を上げながら数メールを飛翔し、三人同時に路面に叩きつけられ、今度は個性的はうめき声を三者三様に上げた。
「げひょっ」「ふひぃ」「へべっ」
肋骨の何本かは折れたかもしれないが、手加減したから死にはしないだろう。
地面に転がって苦しんでいる三人を置いて、俺はやって来た道を進む。
「だから警告したのに……」
俺がこの町に流れついて、もう五年ほどになる。
正確には、流れついたというよりは飛ばされてきた、と言った方が良いのかも知れない。現代日本で暮らしていたはずなのに、ふと気が付くとこの世界にいたのだ。どういう経緯でやって来たのか、全く思い出せない。
町の外には魔物が闊歩し、剣と魔法と暴力が支配する、出来の悪いファンタジー映画のようなこの世界。酷い悪夢でも見ているのかと思った。当初は右も左も分からず、何度も死にそうな目にも遭った。
その甲斐あったのかどうかは知らないが、今では俺は、雷のサンダーとして、そこそこ名が通った魔法使いをしている。
『頭痛が痛い』的なこの通り名にはやや不満があるが、この世界の人間には特に違和感がないらしいし、一度定着したものは、もはや本人にもどうしようもない。
三田宗徳というのが俺の本名なのだが、この世界の人間で俺の名前をちゃんと発音できた者はいない。なので俺も本名を名乗るのは諦めて、はじめからサンダーと名乗るようしている。
ともかく、町の名士とまではいかないが、俺はまずまずの成功者となっていた。なんとか元の世界に帰れないものかと無駄な努力をしていたこともあったが、今となっては、もはやどうでも良くなっていた。それなりの財産も、それなりの名声もある。あとは悠々自適に楽しく過ごして、この町で最期を迎えるのも悪くないと思っていたのだ。
あの日、あの品を見るまでは……。
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