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「全くおばあさまにも困ったものだ。前国王の実母が、この国の暗黒世界を支配する強盗団の首領を趣味で担っているとは、王の直系の者たちしか知らない極秘中の極秘事項であったのだぞ。」

「ホホホ、だけど、この国の悪事を牛耳っているからこそ、王家に反逆する者を抑えることも出来たのだ。少しは私に感謝しなさい。」

「では、王城にお戻りになるおつもりは?」

「無いね。その代わり、その子をここに置いてやっておくれ。」

ゴルゴンはクイとあごをしゃくってブライアンを示した。

「お前の顔には見覚えがある……そうだ、父上にそっくりだ。」

「国王さま、お初にお目に掛ります……我が母は、以前、前国王の侍女をしておりました……」

「そうだよ。このブライアンはお前の異母弟なのだ。お前の親父がこの子の母親に大そうぞっこんでねぇ。だけど、お前の母親がそれを酷く恨んでこの母子に辛く当たるから、市街に逃げ出して密かに暮らしていたのを私が引き取って養っていたのだ。まあ、私の代わりにブライアンを王城の東の小屋から忍び込ませて必要なものを持って来させてはいたがね。」

「ブライアンが、王さまの子!?」

そばで話を聞いていたメリナとエリーザが「きゃああ!」と雄叫びをあげた。

「今まで黙っていたけど、実はそうなんだ……だからゴルゴンさんのことは前から知っていて……でも、魔術学院に入学してからは、悪いことはしていないよ!」

「そうよね、だって真面目な優等生だもの、ブライアンは!」

「我が花嫁のお墨付きなら、今からすぐに我が魔導師団の一員になりたまえ。エリーザもだ。君たちの勇敢な行動があってこそ、メリナを救い出すことが出来たのだ。感謝してもし切れない。」

「はい!ありがとうございます、メイリード師団長!」

ブライアントエリーザは顔を見合わせニコリと微笑み、シグナスとサリュウの元に跪いた。

「さて、コーエン学院長。」

改まって、シグナスはコーエンと向き合った。

「今回の件、元はと言えば、あなたが引き起こした出来事のようだが?ここに居るユバレド殿に恨みでもあったのか?」

コーエンは沈黙を守り顔を上げなかった。

「先生、なぜ先生が、私を欺くようなことを……?」

「そうだ、我が娘になぜあんな『絶倫の術』など、教えたのだ!」

ユバレドは憤慨してコーエンに掴みかかった。

「フン、清廉潔白なあなたの娘が淫乱女になれば面白かったのに!あの魔法を発動したら、女は男なしではいられなくなるし、周りの男はその女を求めて奪い合うのよ!」

メリナは慌てて自分の身を押さえた。いつの間にか、そんなふしだらな女になってしまったのか!

「大丈夫、あなたの魔法は俺にしか効いてはいない。と言うか、俺があなた無しにはいられなくなったのは確かだが?」

「サリュウさん、私は魔法であなたを虜にしたのですか……?」

「最初はそうだったかもしれないね。でも今は違うよ。メリナがとても勇敢で心優しい娘だと分かって、俺はあなたに惚れ直した。あなたは誰よりもこのサリュウ・メイリードの妻に相応しい。」

サリュウは跪き、メリナの手に唇を押し当てた。

「コーエン学院長にはこの国からの追放を命じる。愚かな罪を償い、死ぬまで放浪するがいい。」

「待ってください!コーエン先生をお助け下さい!きっと先生にも理由があったはずです!」

コーエンはふと立ち上がり、必死な様子のメリナを寂しげに見つめた。

「理由など、大したものではないわよ……ただ、メリナ、あなたが母親のサリナにそっくりだったから……私とサリナは魔術高等学院で入学以来ずっと親友だった……ある日、学院に治癒魔法を教えに来たユバレドに、私は身も心も奪われるような激しい恋をした。だけど、私がいくら猛攻を掛けても、ユバレドは少しも動じなかった……なのに、サリナが一声掛けただけで、彼はサリナと恋に落ちた……悔しくて、悲しかった……だから、あなたに罠をし掛けて、少しでも復讐してやりたかった……」

「愚かな女だねぇ。だけど、アンタのやらかしたことが、逆にこの娘とサリュウを巡り合わせることになったんだ。どうだい、我が孫シグナスよ、コーエンを許してやってくれないかい?」

「お願いします、国王さま!」

メリナは慌ててシグナスの足元に跪いた。

「おばあさまとサリュウの嫁さんに頼まれちゃ……嫌とは言えないだろ?」

「俺からもお願いするよ。我が妻の恩師を辛い目に合わせる訳にはいかないからな。」

シグナスとサリュウはニコリと笑い合い、コーエンには学院長を退任させその身はゴルゴンに預けることを命じた。

「代わりの学院長は……グレアムでどうだ?」

「え、俺が?魔導師団はどうするのです?」

「ブライアンを副団長に任命する。テオと共にサリュウを支えよ。グレアムとエリーザは、魔導師団の団員として魔術学院の運営に協力して当たるように。」

「御意のままに!」

魔導師団の猛者たちは、スッと跪き頭を深く垂れた。

「さあ、最後に、己の今後も決めないとな。」

シグナスがスッと歩きだし、隠し扉の奥にひっそりと座り込んでいたゾフィを連れて戻ってきた。

「そなたの名を聞いてはいなかったな。」

「ワタクシは……ゾフィア・イルザ、ライツフェルト男爵の娘です。」

「ほう、今までに、舞踏会であなたに逢うことがなかったが?」

「ワタクシはまだ14才……デビューはしておりません。」

「なるほどな。こんなところにダイヤモンドの原石が隠れていたとは。」

シグナスは立ち上がり、ゾフィの前に跪いた。

「ゾフィ嬢、この私と末永くお付き合いして下さい。もちろん、将来の王妃としてね。」

「え、えっ!なぜ?」

「それはこの俺があなたに一目惚れしたからですよ!」

「ククク、やっぱり!この娘はシグナスの好みにぴったりだ!」

軽々とゾフィを抱きあげキスを降らせるシグナスの様子を、魔導師団の青年たちは笑いながら見守った。

「ゾフィ、良かったわね!本物の王子さまが、あなたを助け出してくれるのだわ!」

「メリナさんありがとう!あなたがいなければ、私はどうなっていたか……」

ポロポロと真珠のような涙を流すゾフィを、シグナスが愛おしそうに抱きしめた。

「すっかり立派になったねぇ。私が王城に居た頃は、洟垂れ小僧だったのに。」

「おばあさまもお元気で……ひ孫の顔を見にたまには王城へいらしてください。」

「気の早い男だよ。お前の父親みたいにあちこちの女に手をつけて妻を泣かせるんじゃないよ。」

ホホホと笑い、ゴルゴンは尖った目を光らせ、謁見の間に飾られた絵画の数々を値踏みして回りながら部屋を出て行った。



「では今日より一週間後に国を挙げてサリュウとメリナの婚礼の儀を行う。我が魔導師団の精鋭たちよ、それまでに隣国との国境の戦いを収めてまいれ。温情を掛け和平を結びはしたが、いつ何時我が国アウラスに裏切りの刃を向けるか分からぬからな。こちらの実力を思い知らせて来い。」

「畏まりました。一週間と言わず、三日でけりを付けて参ります。」

「サリュウが本気を出せば、三日と言わず片付くであろう?」

「ええ、そんなに長く愛しい人と離れて居られませんから。」

「では、俺は我が妻とともに朗報を待っている。」

クスクスと笑い、シグナスはゾフィを抱えて寝所へ戻って行った。

「メリナ、本当にこの男と結婚するのかい……?」

ユバレドが呆然として娘に尋ねた。

「お父さん、ごめんなさい、勝手に家を出て来て……でも私、サリュウさんと結婚します。」

「必ず幸せにしますから。」

お互いを抱き合うサリュウとメリナを、グレアムとテオが嬉しそうに挟んだ。

「ユバレドさま、ご安心を。サリュウはメリナさんを蔑ろになどしませんよ。」

「そうです、コイツは昔っから惚れた女には一途な奴ですから!」

「そうか……サリュウくん、娘をよろしく頼む。何しろ治癒魔法以外はからっきし何も出来ない子なのでな。」

「そうそう!先輩はいっつも厄介事に巻き込まれるし!」

「だけど、いっつもハッピーエンドだよな!」

エリーザとブライアンもケラケラと笑ってメリナを冷やかした。

「では愛しい人よ、我々は戦地に戻ります。」

「待っています、どうかご無事で!」

「大丈夫、思い切り暴れてくる。例えどんなに傷ついても我が家の優秀な治癒魔導師が俺を癒してくれるからな。」

サリュウは去り難くメリナの頬を撫でてまたその唇を貪った。メリナも負けずに口づけを返す。

「おいおい、キリが無いぞ、続きは帰ってからのお楽しみしろよ。」

テオとグレアムに肩を叩かれ、サリュウはようやくメリナを手放した。夫となる男の凛とした横顔にメリナは蕩けるほど見惚れた。

「さあ行こう!我が国王に栄光あれ!」

欠けた月の輝く夜空に、魔導師たちは猛然と飛び立っていった。



その後、国境での戦いは、後に語り継がれる魔導師団長サリュウ・メイリードの鬼気迫る活躍により、アウラス王国軍の圧倒的な戦力を持って三日と経たずに終結した。隣国ナハラインはあっさりと降伏し、アウラスよりクラウディアを王妃に迎え、二度とアウラスに戦を仕掛けることは無かった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ふぁあ、ああ、いやあああん、サリュウさん、もう許してぇぇ!」

婚礼の儀の行われる教会の控室。純白のウェディングドレスを身に纏った花嫁はあられも無い姿にされ、これから夫となる男に貪られていた。

「ああ美しい、この一週間で磨き上げられ本当に輝くようですよ。全てはこの俺のためでしょう?」

「シグナスさまが、贅を尽くして私を磨きあげてくださったのです。」

「素晴らしい、この柔らかな唇もふくよかな胸も滑らかな肌もスラリと伸びた脚も丸く可愛らしい尻も、すべて俺一人のものなのだ……」

うっとりと微笑み礼服のズボンを下ろし、サリュウはまたもや妻となる人に身体を繋いだ。

「もう、我慢してぇ!戦地からお帰りになって三日三晩、私を弄んでいるではないですか、もうこの身は砕けてしまいます!」

「大丈夫、あなたの治癒魔法で自己再生すればよいのだ。」

「はあ、あああ、サリュウ、さ、ん、あああっん!」

グイグイと身体を押しこまれ最奥の敏感な部分を抉り刺激されると、今日だけでももう何度目か分からない絶頂をメリナは迎えた。

「いい加減にしろよ!もうすぐ式が始まるぞ!花嫁の化粧をやり直さなきゃならないだろ!」

ガンガンと控室のドアが叩かれた。グレアムがドアの向こうでイライラと唸った。

「それもそうだな、立てるか、メリナ?」

「無理です……腰に力が入りません。」

「では俺が、式の間、抱き上げてやろう。」

「そんな、恥ずかしい!」

「俺は一向に構わないよ。」

ウットリと微笑み、サリュウはまたもやメリナを貪り始めた。



この夫婦が、この先幸せに暮らしていくかどうかは……神のみぞ知る。


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