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~高校生編~
第21章 Bitter and Sweet
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文化祭が終わってしまいましたー!
すっかり気が抜けてお昼休みに第二準備室でぽけーっと過ごしていたら、いきなり一佳にポカリとノートの角で頭を叩かれました。痛ーい!暴力反対です!
「今週の土曜日、ヒマ?」
「うん、塾も無いから空いてるよ。」
「じゃあ、図書館で勉強しよう。来週、中間テストがあるんだぞ。」
「はっ!そうだね、気合入れなきゃ!」
「お前、いちいち反応良すぎ!」
慌てて立ち上がった私を見てクククと笑いながら一佳は部屋を出て行き、購買に行っていた千夏ちゃんとこのみちゃんが入れ替わりに入って来ました。
「まぁた、一佳とラブラブしてるぅー!アイツ、ツンデレだよねぇ!」
私と一佳のどこがラブラブなんでしょう?このみちゃんの「萌えー!」は意味が分かりません。
「ラブラブって言えば、最近おかしいのよね。」
「何がおかしいの?」
「あのね、うちのクラスの担任のサカモッチャン、夏休み明けから電車で通勤してるの。今日なんか、寝ぐせのまま髪ボッサボサで、シートに座って居眠りして乗り過ごしそうになってたんだよ。起してあげたら慌てて謝っていたわ。」
「坂本先生って、チャリ通じゃなかった?」
「そうそう、家がこの学校のすぐ近くなんだよ。だから、彼女でも出来たんじゃない?って話していたの。」
「そうなんだー。」
坂本先生は、担任でもあるし、生徒会執行部担当教諭なのでよくお話をします。最初は頼りない印象だったのに、話せば話すほど、いつも親身で優しくて、とても芯のしっかりした人柄だと思うようになりました。
その坂本先生に彼女さんが出来た?それならおめでたい話です!
土曜日、9時に一佳といつもの市立図書館で待ち合わせをしました。前の日の夜、珍しくメールじゃなくて電話が掛って来ましたが……
「おい。」
「はい?」
「昼メシ用にサンドウィッチを作ってきて。」
「なんで?」
「明日も勉強を教えてやるから、俺にお礼しろ。そうすれば昼メシ代が掛らなくて済むだろ。」
「は、はい。分かりました……」
もういきなりなんなのよ、料理は得意じゃないのにー!中身はツナと玉子とハムが良いそうです。お母さんに冷蔵庫の中身を聞いたらパンとツナが無くて、慌てて駅前の24時間スーパーに買い出しに行きました。手作りのお弁当ってハードル高くないですか?一佳ママは料理上手だから、比べられて「マズイ」って言われそう……
お弁当づくりのために早起きしてがんばったけど、手際が悪くて遅刻しそうになりました。しかも最後は見かねたお母さんが手伝ってくれたし……でもそれなりに味は悪くないと思うので、一佳に自慢しよう!
慌てて駅の改札を出た途端、前から来た人にドンとぶつかってしまいました。
「ごめんなさい!」
「こっちこそ、すみません……って、七海じゃん!」
ハッと見上げたら潤くんでした!
「潤くん、どこに行くの?」
「いや、その……」
珍しく潤くんが口ごもりました。それに気分でも悪いのか青ざめた顔をしています。
「七海、今日って何か用事ある?」
「うん、これから一佳と図書館で勉強する約束してる。」
「そうか……ねえ、俺に付き合ってくれない?一緒に行って欲しいところがあるんだ。一佳には悪いけど……」
何でしょう?でも潤くんの真剣な表情を見ていたら、ただ事ではない気がしました。
「いいよ、でもその前に一佳に連絡するね。」
「……どこに行くか、聞かないの?」
「潤くんが言いたかったらあとで教えて。」
「……サンキュ。俺一人じゃ、何しでかすか分かんないから……」
すぐに一佳に電話して、図書館に行けなくなったと伝えたら、激怒していました。
「なんでだよ!」
「あの、これから、潤くんに付き合って出掛けて来る。」
「はあ?どこに行くの?」
「分かんない。」
「俺も行く!今、どこ?」
「駅にいる、本当に来るの?」
「俺が行くまで待ってろ!」
ブチリと電話は切れました。なんだか恐ろしい目に遭いそうな予感がするのですが……
図書館から走って来たのか、一佳はゼイゼイと息を荒げていました。
「七海をどこに連れて行く気だ!」
「いや、その……黙って付いて来てよ。つーか、一佳は来なくていいのに……」
潤くんは呆れて顔を手で覆いました。私と一佳は顔を見合わせ、潤くんに従うことにしました。その前に、やっぱりというか、脳天に激怒の拳が振り下ろされました……もぉぉぉ!暴力反対だよぉー!
「七海、それよりお前、交通費持ってるの?」
「はっ!」
そうだ!打ち上げ続きでお小遣いを使い果たしちゃって、今お金を持っていないんだったー!私は無一文状態でどこに行く気だったのでしょう!て言うか?私がお金持ってないって、なんで一佳は知っているのかな?
一佳に借金をして、二時間くらい電車に揺られて辿り着いた街には、C大学がありました。
「ここって……眞子さんが住んでいるの?」
「……そう。」
「潤くん、眞子さんに逢いに来たの?」
だけど潤くんは答えません。駅から続く広い道に沿って、大学の敷地を迂回し、歩いて10分ほどのお洒落なマンションに着きました。
慣れた風に潤くんは階段を登り、三階の角部屋の前に立つと、ピンポンと呼び鈴を鳴らしました。
「はーい!」
中から聞き覚えのある声がしました。眞子さんです。ガチャリとドアが開いて顔を出した眞子さんは呆気にとられて私たちを眺めていました。
「どうしたの?いきなり尋ねて来るなんて!」
「……いるんだろ?」
眞子さんを押しのけ、潤くんは部屋に踏み込みました。
「潤、待って、勝手に入らないで!」
「……やべー。」
一佳が慌てて潤くんのあとを追ったので、私もそれに続きました。
玄関を入ってすぐに小さなキッチンがあり、たぶんトイレと浴室が一緒になったユニットバスの扉かな?が右手にありました。奥には六畳くらいの部屋が一つ、ベッドとライティングデスクが置いてあって、窓には可愛いカーテンが引いてありました。
そして、ベッドには一人の男性が寝込んでいました。その人は、坂本先生でした。
「ん……」
物音に気付いて、坂本先生はやっと目を覚ましました。私たちの姿を見て、焦ってがばっと起き上がった坂本先生は裸のままで……きゃー!
「いったいどういうつもりだよ、教師のくせに!」
「よせ、潤。」
憤る潤くんの腕を掴んで一佳が制しました。
「……私、祐司さんとお付き合いしている、一緒に住んでいるの。」
「伯母さんが、心配していたんだ。最近、眞子の様子がおかしいって……」
「お母さんに心配させるようなことはしていない。私、もう、子供じゃない。」
「隠れて同棲しているくせに!」
「やめろ、潤。」
そそくさとそばにあった衣服を身に着け、坂本先生は私たちの前に正座しました。
「この通り、俺と眞子さんはお付き合いしています。一度は眞子さんのことを思って別れようとしました、でも離れられなかった……悪いのは俺です。だけど、眞子さんのことは本気で愛しています。」
真摯な坂本先生の態度に、私は心打たれました。眞子さんも先生に寄り添って凄く幸せそうです。
「眞子は高校を卒業したんだ。生徒と先生の関係じゃないし、お互い子供じゃない。恋愛するのは自由だろ?俺らがどうこう言うことは無いよ。」
うつむいたまま小さく唸り声を上げる潤くんの腕を締めあげて、一佳は静かにそう言いました。
「……勝手にしろ!」
潤くんはプイっと翻り、部屋を出て行きました。
「潤!」
「大丈夫、俺らが付いてるから。つか、サカモッチャン、少しは気をつけなよ。噂になって、PTAから苦情が来ないようにな。」
「あ、ああ、すまない……本当にすまない……」
しょんぼりする坂本先生とそれを支える眞子さんを置いて、私たちはお別れを言い部屋を出ました。
階段を降りたところで、潤くんはうずくまっていました。
「良かったなー、これでスッキリ諦めが付くだろ?」
「うるせー、なにが恋愛は自由だよ!お前、自分がラブラブだからって!」
「俺に八つ当たりするな、帰るぞ。」
うつむいたまま涙を流す潤くんを引きずって、一佳は駅を目指して歩き出し、慌てて私もあとを追いました。
向かい合わせの座席に座り、私たちは家路を急ぎました。
「ね、お腹空かない?サンドウィッチ作って来たんだよ。」
「あー腹減ったわー、潤の茶番に付き合って。」
「うるさい、一佳、一回死ね!」
クククと可笑しそうに笑って、一佳はパクパクと私の作ったサンドウィッチを食べました。潤くんもしょぼんとしたままでしたが食欲はありそうです。一つ頬張るたびに「美味しい!」って誉めてくれました。こういうところが一佳と違います。
「つか、サカモッチャンのこと、学校にチクるなよ。」
「するかよ、眞子が傷つくだろ……」
「そっちが優先か。」
「はっ!」
私は突然思い出しました!
「何?」
「どうしよう!私、坂本先生のオールヌード見ちゃった!」
「バカなのお前、犬のフンでも踏んだと思って忘れろ。」
「ヌードとフンは違うよぉぉ!」
わああと頭を抱えていたら、潤くんが笑い出しました。
「アハハ、七海がいて良かった……」
「潤くん、元気出して。私で出来ることがあるなら言ってね?」
「じゃあ、俺の彼女になって。」
「はい?」
「マジふざけんな!七海が本気にするだろ!」
一佳が潤くんを締めあげ、ケンカ腰で唸りました。
「だけど七海は、一佳との約束は放っておいて、俺の頼みをきいてくれたぜ?」
「え、え!そ、それは……」
「だよな、どういうつもりだ、約束してたの、俺が先だろ?」
「だから!潤くんが普通じゃなかったから、心配したんだよ!」
「ククク、一佳と七海も安泰って訳じゃないんだな。」
勝ち誇ったように笑う潤くんに、一佳は喰って掛りました。この勝負、たいてい潤くんの勝ちなんですよね……て言うか、安泰って何?私と一佳はお付き合いもしていないのにー!
「C大はやめて、俺もK大に行くかなー。」
ケンカが一通り終わって、窓の外を眺めながら、潤くんはポツリと呟きました。
「K大はやめろ、C大に行って砕け散れ!」
「フフ、K大に行って、七海を口説こうかな?」
「私、口説かれたりしないよ!」
潤くんったら、恩を仇で返すんですかー!?すっかり元気になった潤くんとは最寄駅で別れました。潤くんって、真面目で優しい人だと思っていたのに!いくら眞子さんのことで荒れているからって、その気も無いのに「付き合って!」なんて人の気持ちをからかうのは……悲し過ぎます。
「おい。」
「は、はい?」
「おめーのせいで、勉強できなかった。今から今日の予定を詰め込むからな!」
また子猫みたいに襟を掴まれ図書館に連れて行かれ、閉館時間まで一佳にしごかれまくりました。
ふと思い返せば、眞子さんと坂本先生が付き合っているっていう事実を知った衝撃の一日でした。二人はこの先上手く行くのでしょうか?でもそうしたら、潤くんの恋はどうなるの?悶々と悩んでいるとまたノートの角でポカンと叩かれ、ギロリと一佳に睨まれました。はああ、なんだか散々な日でしたよ、もう!
すっかり気が抜けてお昼休みに第二準備室でぽけーっと過ごしていたら、いきなり一佳にポカリとノートの角で頭を叩かれました。痛ーい!暴力反対です!
「今週の土曜日、ヒマ?」
「うん、塾も無いから空いてるよ。」
「じゃあ、図書館で勉強しよう。来週、中間テストがあるんだぞ。」
「はっ!そうだね、気合入れなきゃ!」
「お前、いちいち反応良すぎ!」
慌てて立ち上がった私を見てクククと笑いながら一佳は部屋を出て行き、購買に行っていた千夏ちゃんとこのみちゃんが入れ替わりに入って来ました。
「まぁた、一佳とラブラブしてるぅー!アイツ、ツンデレだよねぇ!」
私と一佳のどこがラブラブなんでしょう?このみちゃんの「萌えー!」は意味が分かりません。
「ラブラブって言えば、最近おかしいのよね。」
「何がおかしいの?」
「あのね、うちのクラスの担任のサカモッチャン、夏休み明けから電車で通勤してるの。今日なんか、寝ぐせのまま髪ボッサボサで、シートに座って居眠りして乗り過ごしそうになってたんだよ。起してあげたら慌てて謝っていたわ。」
「坂本先生って、チャリ通じゃなかった?」
「そうそう、家がこの学校のすぐ近くなんだよ。だから、彼女でも出来たんじゃない?って話していたの。」
「そうなんだー。」
坂本先生は、担任でもあるし、生徒会執行部担当教諭なのでよくお話をします。最初は頼りない印象だったのに、話せば話すほど、いつも親身で優しくて、とても芯のしっかりした人柄だと思うようになりました。
その坂本先生に彼女さんが出来た?それならおめでたい話です!
土曜日、9時に一佳といつもの市立図書館で待ち合わせをしました。前の日の夜、珍しくメールじゃなくて電話が掛って来ましたが……
「おい。」
「はい?」
「昼メシ用にサンドウィッチを作ってきて。」
「なんで?」
「明日も勉強を教えてやるから、俺にお礼しろ。そうすれば昼メシ代が掛らなくて済むだろ。」
「は、はい。分かりました……」
もういきなりなんなのよ、料理は得意じゃないのにー!中身はツナと玉子とハムが良いそうです。お母さんに冷蔵庫の中身を聞いたらパンとツナが無くて、慌てて駅前の24時間スーパーに買い出しに行きました。手作りのお弁当ってハードル高くないですか?一佳ママは料理上手だから、比べられて「マズイ」って言われそう……
お弁当づくりのために早起きしてがんばったけど、手際が悪くて遅刻しそうになりました。しかも最後は見かねたお母さんが手伝ってくれたし……でもそれなりに味は悪くないと思うので、一佳に自慢しよう!
慌てて駅の改札を出た途端、前から来た人にドンとぶつかってしまいました。
「ごめんなさい!」
「こっちこそ、すみません……って、七海じゃん!」
ハッと見上げたら潤くんでした!
「潤くん、どこに行くの?」
「いや、その……」
珍しく潤くんが口ごもりました。それに気分でも悪いのか青ざめた顔をしています。
「七海、今日って何か用事ある?」
「うん、これから一佳と図書館で勉強する約束してる。」
「そうか……ねえ、俺に付き合ってくれない?一緒に行って欲しいところがあるんだ。一佳には悪いけど……」
何でしょう?でも潤くんの真剣な表情を見ていたら、ただ事ではない気がしました。
「いいよ、でもその前に一佳に連絡するね。」
「……どこに行くか、聞かないの?」
「潤くんが言いたかったらあとで教えて。」
「……サンキュ。俺一人じゃ、何しでかすか分かんないから……」
すぐに一佳に電話して、図書館に行けなくなったと伝えたら、激怒していました。
「なんでだよ!」
「あの、これから、潤くんに付き合って出掛けて来る。」
「はあ?どこに行くの?」
「分かんない。」
「俺も行く!今、どこ?」
「駅にいる、本当に来るの?」
「俺が行くまで待ってろ!」
ブチリと電話は切れました。なんだか恐ろしい目に遭いそうな予感がするのですが……
図書館から走って来たのか、一佳はゼイゼイと息を荒げていました。
「七海をどこに連れて行く気だ!」
「いや、その……黙って付いて来てよ。つーか、一佳は来なくていいのに……」
潤くんは呆れて顔を手で覆いました。私と一佳は顔を見合わせ、潤くんに従うことにしました。その前に、やっぱりというか、脳天に激怒の拳が振り下ろされました……もぉぉぉ!暴力反対だよぉー!
「七海、それよりお前、交通費持ってるの?」
「はっ!」
そうだ!打ち上げ続きでお小遣いを使い果たしちゃって、今お金を持っていないんだったー!私は無一文状態でどこに行く気だったのでしょう!て言うか?私がお金持ってないって、なんで一佳は知っているのかな?
一佳に借金をして、二時間くらい電車に揺られて辿り着いた街には、C大学がありました。
「ここって……眞子さんが住んでいるの?」
「……そう。」
「潤くん、眞子さんに逢いに来たの?」
だけど潤くんは答えません。駅から続く広い道に沿って、大学の敷地を迂回し、歩いて10分ほどのお洒落なマンションに着きました。
慣れた風に潤くんは階段を登り、三階の角部屋の前に立つと、ピンポンと呼び鈴を鳴らしました。
「はーい!」
中から聞き覚えのある声がしました。眞子さんです。ガチャリとドアが開いて顔を出した眞子さんは呆気にとられて私たちを眺めていました。
「どうしたの?いきなり尋ねて来るなんて!」
「……いるんだろ?」
眞子さんを押しのけ、潤くんは部屋に踏み込みました。
「潤、待って、勝手に入らないで!」
「……やべー。」
一佳が慌てて潤くんのあとを追ったので、私もそれに続きました。
玄関を入ってすぐに小さなキッチンがあり、たぶんトイレと浴室が一緒になったユニットバスの扉かな?が右手にありました。奥には六畳くらいの部屋が一つ、ベッドとライティングデスクが置いてあって、窓には可愛いカーテンが引いてありました。
そして、ベッドには一人の男性が寝込んでいました。その人は、坂本先生でした。
「ん……」
物音に気付いて、坂本先生はやっと目を覚ましました。私たちの姿を見て、焦ってがばっと起き上がった坂本先生は裸のままで……きゃー!
「いったいどういうつもりだよ、教師のくせに!」
「よせ、潤。」
憤る潤くんの腕を掴んで一佳が制しました。
「……私、祐司さんとお付き合いしている、一緒に住んでいるの。」
「伯母さんが、心配していたんだ。最近、眞子の様子がおかしいって……」
「お母さんに心配させるようなことはしていない。私、もう、子供じゃない。」
「隠れて同棲しているくせに!」
「やめろ、潤。」
そそくさとそばにあった衣服を身に着け、坂本先生は私たちの前に正座しました。
「この通り、俺と眞子さんはお付き合いしています。一度は眞子さんのことを思って別れようとしました、でも離れられなかった……悪いのは俺です。だけど、眞子さんのことは本気で愛しています。」
真摯な坂本先生の態度に、私は心打たれました。眞子さんも先生に寄り添って凄く幸せそうです。
「眞子は高校を卒業したんだ。生徒と先生の関係じゃないし、お互い子供じゃない。恋愛するのは自由だろ?俺らがどうこう言うことは無いよ。」
うつむいたまま小さく唸り声を上げる潤くんの腕を締めあげて、一佳は静かにそう言いました。
「……勝手にしろ!」
潤くんはプイっと翻り、部屋を出て行きました。
「潤!」
「大丈夫、俺らが付いてるから。つか、サカモッチャン、少しは気をつけなよ。噂になって、PTAから苦情が来ないようにな。」
「あ、ああ、すまない……本当にすまない……」
しょんぼりする坂本先生とそれを支える眞子さんを置いて、私たちはお別れを言い部屋を出ました。
階段を降りたところで、潤くんはうずくまっていました。
「良かったなー、これでスッキリ諦めが付くだろ?」
「うるせー、なにが恋愛は自由だよ!お前、自分がラブラブだからって!」
「俺に八つ当たりするな、帰るぞ。」
うつむいたまま涙を流す潤くんを引きずって、一佳は駅を目指して歩き出し、慌てて私もあとを追いました。
向かい合わせの座席に座り、私たちは家路を急ぎました。
「ね、お腹空かない?サンドウィッチ作って来たんだよ。」
「あー腹減ったわー、潤の茶番に付き合って。」
「うるさい、一佳、一回死ね!」
クククと可笑しそうに笑って、一佳はパクパクと私の作ったサンドウィッチを食べました。潤くんもしょぼんとしたままでしたが食欲はありそうです。一つ頬張るたびに「美味しい!」って誉めてくれました。こういうところが一佳と違います。
「つか、サカモッチャンのこと、学校にチクるなよ。」
「するかよ、眞子が傷つくだろ……」
「そっちが優先か。」
「はっ!」
私は突然思い出しました!
「何?」
「どうしよう!私、坂本先生のオールヌード見ちゃった!」
「バカなのお前、犬のフンでも踏んだと思って忘れろ。」
「ヌードとフンは違うよぉぉ!」
わああと頭を抱えていたら、潤くんが笑い出しました。
「アハハ、七海がいて良かった……」
「潤くん、元気出して。私で出来ることがあるなら言ってね?」
「じゃあ、俺の彼女になって。」
「はい?」
「マジふざけんな!七海が本気にするだろ!」
一佳が潤くんを締めあげ、ケンカ腰で唸りました。
「だけど七海は、一佳との約束は放っておいて、俺の頼みをきいてくれたぜ?」
「え、え!そ、それは……」
「だよな、どういうつもりだ、約束してたの、俺が先だろ?」
「だから!潤くんが普通じゃなかったから、心配したんだよ!」
「ククク、一佳と七海も安泰って訳じゃないんだな。」
勝ち誇ったように笑う潤くんに、一佳は喰って掛りました。この勝負、たいてい潤くんの勝ちなんですよね……て言うか、安泰って何?私と一佳はお付き合いもしていないのにー!
「C大はやめて、俺もK大に行くかなー。」
ケンカが一通り終わって、窓の外を眺めながら、潤くんはポツリと呟きました。
「K大はやめろ、C大に行って砕け散れ!」
「フフ、K大に行って、七海を口説こうかな?」
「私、口説かれたりしないよ!」
潤くんったら、恩を仇で返すんですかー!?すっかり元気になった潤くんとは最寄駅で別れました。潤くんって、真面目で優しい人だと思っていたのに!いくら眞子さんのことで荒れているからって、その気も無いのに「付き合って!」なんて人の気持ちをからかうのは……悲し過ぎます。
「おい。」
「は、はい?」
「おめーのせいで、勉強できなかった。今から今日の予定を詰め込むからな!」
また子猫みたいに襟を掴まれ図書館に連れて行かれ、閉館時間まで一佳にしごかれまくりました。
ふと思い返せば、眞子さんと坂本先生が付き合っているっていう事実を知った衝撃の一日でした。二人はこの先上手く行くのでしょうか?でもそうしたら、潤くんの恋はどうなるの?悶々と悩んでいるとまたノートの角でポカンと叩かれ、ギロリと一佳に睨まれました。はああ、なんだか散々な日でしたよ、もう!
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