絶対零度の王子さま(アルファポリス版)

みきかなた

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~序章~

序章 砕け散ってしまいました

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三月の半ばだと言うのに校庭の桜の花が綻んで、あちこちに薄紅色の花びらを膨らませています。今年に限って異常気象のせいか気温の高い日が続いたためです。

今日は私達の卒業式。いつもなら長くてうんざりな校長先生のお話もジーンと胸を打ちます。来賓の方々の教訓もありがたく耳に収まります。長い長い卒業証書授与式も、その後に待っている一大事件を思えば苦になりません。

式が終わったら、一佳いちかに告白するんだ……

昨日の夜から頭の中で何度もシュミレーションしました。だけど、その、良い結果が全然想像できません。だって、相手はあの藤原一佳です。

一佳は入学した当初から同級生の中でもひときわ目立った存在でした。アイドルばりの派手なルックス。身長も高くスラリとしたスタイルによく似合う美しい身のこなし。成績も常に上位、どの運動部にも所属しないもののどんな競技をやらせてもトップを取る抜群の運動神経。

誰もが憧れる彼でしたが、ただ一つ、その性格に問題が……

親しい数人の友人以外、頑として受け付けない。人づきあいが悪いだけじゃありません。歯に衣着せない物言いで、うっかり近寄れば容赦なく斬り捨てられるのです。

そんな彼に、いつしかついたあだ名が『絶対零度』なのでした。



卒業式が終わって体育館を出ると、別れを惜しむ同級生たちがあちこちでグループになっています。好きな人に告白をする子も多くて、そこここでほんわかと見つめ合う姿が見受けられます。

もしかして、私の気持ちも一佳に届くかな。高二の時からの腐れ縁で彼のそばにいて、鋭いナイフみたいな彼が時折みせる優しさや笑顔に魅かれるようになったのです。

同じ大学に進むから、これからもまだ逢うことになりそうだけど……その前に「好きだ」って伝えたい……僅かばかりの可能性に賭け、一佳の姿を探しました。

教室に戻る途中の廊下で、二年生の女の子たちが固まって、怯えるように一点を凝視していました。なんだろうと目を向けると、いました、藤原一佳、その人が。

「私、先輩がずっと好きでした。よかったら、付き合って下さい!」

派手めで美人の女の子が一佳に向かって告白していました。なんて勇気のある子だろう!

「俺、アンタのこと知らないし、いきなり付き合ってって言われても付き合う気はないよ。」

またそう言うことを言うーーーー!もう少し、優しく言えばいいのに!

告白した女子は涙目になり、ダッとその場を走り去り、彼女を見守っていた友人たちも後を追っていきました。

持っていた筒でポンポンと肩を叩きながら、一佳は面倒くさそうにフウとため息を吐きました。くるりと振り返った瞬間、私と目があって、彼はなぜかギクリと身体をすぼめました。

私はまだ一佳の様子をうかがっている女の子たちの存在に気付き、恐る恐る近づいて、彼と一緒に歩き出しました。

「一佳、さっきの子、泣いてたよ……」

「あんなの、いちいち相手してらんねーだろ。」

背の高い彼を見上げたら、不機嫌そうに顔をしかめています。ぐわ!やっぱり「好き」なんて告白しても聞いてもらえないかも……

「このあと、潤たちが打ち上げするって言ってたけど、七海も来るよな?」

「う、うん。」

打ち上げの話は薫ちゃんに聞いていました。そうか、打ち上げのときか、そのあとで告白する方がいいかな。だけど、みんなのいるところでこっそりなんて話しかけられるかな?たぶん、一佳は潤くんとべったりだろうし……

もじもじと考え込んでいたら、一佳はムッと私を睨んでいました。その視線にドキリとして、私は急に立ち止ってしまいました。

「どうしてそんな顔、しているんだよ。」

「え?」

「俺の顔になんかついてる?」

どうしようー!ついつい見惚れてしまったのです。

「あ、あのね、一佳、今日で卒業しちゃうけど、これからも……友達でいてくれるかな……」

きゃー!言ってしまった!だけどやっぱり、「好き」とは言えませんでした。

私はドキドキしながら返事を待ちました。だけど、一佳は黙ったままです。大きな手で自分の顔を隠したまま、私の前に立っていました。



「お前は……友達なんかじゃねーよ。」



「え……?」



友達じゃない?今、そう言った?私は身体の血がヒューっと抜けて行くような錯覚に陥りました。一佳は顔を隠したままで表情は伺えません。

友達、として、認められていなかったんだ……



胸に卒業証書の入った筒を抱え、思わず一佳の前から走って逃げだしました。



「オイコラ待てぇっ!最後まで話を聞けーーーっ!」



一佳の叫び声がしたけれど、もう足は止まりません。早く、早く、一佳の前から消えてしまいたい……



私の高校生最後の日は、そうして終わりを告げたのです。


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