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第3話 未知の組織

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 即日強制退職。通常なら、憲法やら法律やらに触れそうだが、この国では、権力があればあるほど、融通を効かすことができる。実の娘に、その強権を振り翳すのも如何なものかと思いながらも、ただ従う他なかった。父を今後許すことはないだろう。
 先ほどまで、色鮮やかだった国防省の廊下が、今はモノクロにしか見えない。心が、生じた事象に追いついてこず、まだ、父がいるあの部屋に置いてきぼりのような感じがする。これから、私はどうすればいいのか。16歳にして国防省から追い出され、夢は潰えた。

 傷心の中、白堊の荘厳な石造りのエントランスを抜け、先ほど颯爽と歩いてきた道を、無心で戻る。
 風に吹かれ道を転がるゴミを見て、やさぐれた心が、さらに重たくなる。

「——あー、私も国からすれば、一息吹けば、コロコロと転がるゴミと同じ、たわいも無い存在だったのか」

 ——サーー

 突如、後方から走り寄ってきた鷲のエンブレムが前方についた黒塗りの車が、真横に止まった。敵襲かと、即座に臨戦体制を取ろうと、腰に手を伸ばす——が、腰にかけてあるはずの拳銃は、先ほど父に返してしまい、手は空を切るだけで、何も掴むことはなかった。
 後ずさることしかできない。

 ——ガタ

 重々しい音を響かせながら、後方と助手席のドアが同時に開き、中から訓練された身のこなしで、辺りを警戒しながら、2人の男女が降りてきた。

「コリト・メユ元中尉ですね。こちらは内閣府です。ご同行願います。ちなみに内閣公安課代表による命令でもありますので、あなたに拒否権はありません」

 差し出された名刺を確認する。確かに内閣府と書いてある。名刺を少し傾け、光を反射させると、名刺が微かに霞み、内閣府のシンボルマークが浮き上がる。確かに内閣府が発行している偽造対策が施された名刺である。

「承知いたしました」

 動揺を悟られまいと、淡々とした口調で応じ、車の後部座席に乗り込む。

「失礼、これから向かう場所は、情報統制レベル6ですので、目隠しをつけていただきます」

 着席すると同時に、既に乗車していた男にいきなり、黒く滑らかな布で目隠しをされた。
 黒塗りの車は、静かに動き出し、右へ左へと曲がりながら目的地に向かう。必死に、車のスピードと方角を頭の地図と照らし合わせながら、現在地を把握しようと試みたが、相手の方が一枚上手なようで、目的地に到着する頃には、今どこを車が走行しているかわからなくなっていた。


 かれこれ30分は経っただろうか。

 車の走行場所の突き止めを諦め、ウトウトと眠気に誘われ始めた時、急に車が停車した。

「到着しました。お降りください」

 目隠しを急に外され、30分ぶりの光が眼光を刺す。目眩しをされたかのように目を細めながら、外の景色を見ると、そこには、半円のドーム状の防空壕のような建物があった。
「防空壕?」

 つい口から出てきた言葉に対して、ドアを開けメユの降車を待っている内閣府職員が無言で頷く。

 車外に出ると、上方には空がなく、コンクリートで覆われた無機質な天井が延々と続いていた。左右には、戦車や戦闘車、ヘリコプターなど、兵器庫のように平然と並んで、いつでも出撃可能な状態が維持されているようだった。何とも不思議な作りである。

 そして、目の前の防空壕。そこには、内閣府と表札が掲げられている。普通ならば、内閣府のどんな組織かと掲げられているはずなのに、それが一切ない。それが、いかにこの施設が奇妙であるかを如実に表す。

「こちらへどうぞ」

 内閣府職員が、カードキーをかざし、さらに網膜認証によりドアのロックを解除すると、何重にも仕掛けられた鍵が、ガタンガタンと一つずつ外れていく音が聞こえてくる。中に入ると、さらに地下に降りるエレベーターが目の前に現れ、さらに地下に降りると、いきなり大体30畳ほどの会議室のようなスペースが現れた。ここは一体どこだと、必死に周りを見回して情報収集していると、椅子に座っていた1人の女性が立ち上がり、微笑みながら告げた。

「ようこそ、メユ統括官、内閣府直轄対外征委員会、通称NSCへ」
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