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魔導具の英雄よ、世界を頼んだ

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「エレンなんでここに。ここは真の天界のはず。僕は死んでここにきたんだ」
「そうだよ。アスカ。君は死んだよ。下を見てごらん。姫様や君の仲間たちが泣いている」

 下を見ると床が透けて、地上が見えてきた。皆が僕の体を取り囲んで泣いている。姫様も、ヒビトも、マミもナオミも、ソイニー師匠もユミ姉も。

「あ、ロージェ先生も泣いてる。一命を取り留めていたんだ」
「そうみたいだね。あれだけの傷を負いながら生きているとはさすがだね」
「そうだエレン。答えてよ。君はなぜここに? 死んでしまったの?」
「僕は死んでないよ。死んでない」
「じゃあなんで、エレンはここに」
「僕はね。アスカを迎えにきたんだ」
「迎えに?」
「そう、アスカが死にかけることを見越してここで待っていたんだ」
「そうだったんだ。だけどどうやって真の天界に?」
「それは、君の父さんが僕に頼んだんだ。米帝も天界魔導士の攻撃を受けてたんだが、何とか退けることに成功したんだ。その時だった。僕の前に見覚えのある転移用ゲートが目の前に現界したんだ」
「そしたらこの真の天界に辿り着いたと?」
「そう。ゲートを潜ってここに来たら君の父さんがいてこう言ったんだ。アスカを引き留めて欲しいと」
「僕を引き留めてほしい?」
「うん、死にゆく君を引き留めて、現世へと戻すこと。それが僕が頼まれたこと。アスカは今死の直前にいる。この目の前のゲートが見えるかい。ここをくぐれば君は本当に死ぬよ」

 ふと視線を感じた。その方向を見る。ゲートの向こうに、亡くなった父と母が立ってこちらを見ている。二人はしっかりと手を繋いで、母は笑い、父は暖かな眼差しをむけている。
 そして二人とも僕に向かい手を振る。

「アスカ。お前にはまだやり残していることがある」
 初めて聞く父の声。
「父さん!」
「アスカ。この歪んだ世界を立て直すのだ。そして平和に導きなさい」
「僕にできるかな」
「できる。アスカは初代魔導具士の子孫であり、初代魔導具士の転生者であり、そして我々の息子だ。世界を導くことができないはずがない。大丈夫だ。前を向いて進みなさい」
「そうよアスカ。また会えなくなるのは悲しいけれど。アスカが寿命を全うするまで待ってるわ。さあ生きなさい」
 父に続いて母さんも僕に言葉を送る。

「さあ行こうアスカ。新たな世界を創造するために」

 エレンは僕の腕を掴み、微笑む。その瞬間、僕らを白い光が包み込む。



 ———
「アスカ、アスカ」
 姫様の鳴き声が聞こえる……。
 僕は意識の回復を感じる。暗闇の中から一筋の光を追いかけて駆け上がるイメージが脳内に浮かぶ。そして、その光にたどり着いた時、ゆっくりと瞼を上げることができた。

「え!? アスカ! アスカが起きたわ!」
 姫様の驚きの声に引き寄せられて皆が僕の顔を覗き込む。

「ドクターすぐに状態を確かめてくれ」

 誰かが医者を呼ぶ。駆けつけた医者は僕を一通り検診すると、一言「奇跡だ」とだけ言った。

「アスカ。勝手に死ぬなんて許さないから」
 涙を流しながら笑いかけるヒビト。
「ゔぉお、死んじゃったと思ったじゃない」
 号泣するナオミ。
「うう……うう、生きていてくれてありがとう」
 嗚咽を漏らしながらアスカの服の一部を引っ張り俯くマミ。
「弟子が師匠より早く死ぬことは決して許しませんよ」
「大きな帽子を少し深く被り顔を隠すことで泣いていることを見られないようにするソイニー師匠。
「アスカ。おかえり」
 亡くなった実の弟に思いを馳せながら、アスカが二の舞にならず安堵するユミ姉。

 ——あれ?エレンがいない。

 皆からの心配の声を一通り聞き終えた後に、僕はエレンの存在がないことに気づいた。目を動かしエレンを探す。

 すると、校門に寄りかかりながらエレンがいてこちらを見ていた。他のみんなはエレンの存在に気づいてないらしい。
 僕はエレンに対してお礼を言おうとするが、疲労のためかうまく声が出せない。
 そんな僕を見ながらエレンは笑いそして口を動かした。僕にはエレンが何を言ったのか読み取れた。

 エレンはこう言った。
『魔導具の英雄よ。世界を頼んだ』

 エレンはそのまま立ち去る。上空を見ると、夕焼けと青空がせめぎあうマジクアワーを迎えていた。
 綺麗な空。そして、大切な仲間たち。

 僕はついに守り通したのだ。ついに……、ついに……終わったのだ。長き戦いが。


 僕らは平安を手に入れたのだ。




 ————

 ——ピピピピ

 コード999が発令される。
 天界大統領が死去してから10年。
 未だ、天海大統領派閥の生き残りの天界人がゲリラ活動をしているため、その対処に何度も駆り出されていた。天界とこの世界との融合はまだまだ遠そうである。

「お父さん。また出撃なの?」

 快活の良い女の子が、アスカに飛びつく。
「メリア。この後遊ぶ予定だったのにごめんな」
 その女の子の名はメリア。アスカの娘だ。
「ううん。お父さんはこの世界の王様なんだからしっかりみんなのために仕事をしないとね」
「じゃあ、行ってくるよ」
「頑張ってねお父さん」
 メリアはそう言うと、アスカの頬に口づけをする。
「アスカ。行ってらっしゃい」
 その様子を微笑ましそうに後方から見ていたのは姫様だった。姫様はそう言うと、アスカとキスをする。

「じゃあ行ってくる」
 アスカは、自らが新たに鍛え上げた刀を帯刀し、出撃する。

「あーあお父さん言っちゃったね」
「そうね。メリアこちらでお母さんと遊びましょ」
「うん」
「何して遊びたい?」
「私、またあのお話聞きたい。燭台の上に飾ってある薔薇の魔導具をお父さんがお母さんに渡した話。それで天海大統領との戦いまで!」
「本当にメリアはその話が好きね」
「だって、お父さんもお母さんもかっこいいんだもん。この前は、ソイニーおばさんやユミ姉さんにも話してもらったんだ」
「そうだったのね」
「みんな懐かしそうに話すから好きなの。みんな色んな思いで戦ってたんだなって感じられるから」
「全くそう言うふうな考え方、誰に似たのかしら。アスカかしらね」
「お父さんに似ているなら嬉しい」
「じゃあ、お話を始めましょうか。お父さんがアロンガス家にいた頃、そこの薔薇の魔導具をお父さんがくれてね……」


 ————————


 Fin




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2023.05.27 ユーザー名の登録がありません

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