上 下
77 / 83

大統領を滅ぼす刀

しおりを挟む
 ———ジジジジジ


 アスカの家に緊急事態を告げるサイレンが鳴る。
「ユミ! ヒビト君からコード999が発令されたわ」
「ソイニー師匠、発信場所は魔専です」

 ソイニー師匠とユミ姉は魔道具を取ると、瞬時に駆け出す。
 玄関から外に出て、ユミ姉のバイクが駐輪してある方向に走り出した——が、ソイニー師匠とユミ姉は行手を阻まれる。

「久しぶりです。ソイニー先輩!」
「また会えるとは思いませんでしたよ。ソイニー」

 ソイニー師匠とユミ姉の前に現れたのは、お気に入りのおもちゃを目の前にした子どものようにはしゃぐナタリーとアーシャ。
「まさかアスカ達に何かをしたのですか!?」
「アスカ? ああ、初代魔導具士の生まれ変わりか。別に私たちは関係ないですが——、私たちはソイニー様を殺せと仰せ使っているだけです。天界大統領から」
「天界大統領から? まさか、アスカ達が相対しているのは……」

 ソイニー師匠の顔色がみるみる青ざめていく。天界大統領と対峙して、アスカが生き残れるのか。不安感でいっぱいになる。

「あはは、ソイニー先輩が青ざめてる。愛しすぎる~」

 ナタリーがケラケラと笑いながら、頬を少し赤らめている。生粋のサディスト。

「多分もう死んじゃってるんじゃないですか?なんせ相手は天界大統領ですし」
「黙りなさいナタリー。そして去りなさい。私はアスカの元に行かなければなりません」
「それは、無理な約束ですね」
「もう一度言います。二人とも去りなさい。あなた達は今は敵でもかつての戦友。殺したくありません。しかし、もし立ちはだかるのであれば、もう容赦はしません」
「私は、再びソイニー先輩に精神支配の魔導をかけられることを楽しみにしていたので。それは聞けぬ話です」
「そうだソイニー、今窮地に追いやられているのはお前の方だぞ。許し助けを乞うのはお前だ」
「じゃあ、早速始めましょうか。殺し合いを。我が命は、自我を犯し精神を蝕む『精神制御《メンタルコントロール》」

 ナタリーは間髪入れず、精神支配の魔導をソイニー師匠に向けて放つ。

「我が神聖な身を守りて現界せよ、『絶対防……」

 ユミ姉が絶対防壁を咄嗟に発動しようとしたが、それをソイニー師匠が手をユミ姉の前に出し止めた。
「ソイニー師匠!」
「安心しなさい。同じ轍は踏まないわ。それに終わらせます。この戦いを」

 そういうとソイニー師匠は手をかざす。
「来い!『一徹』」

 ソイニー師匠の家の二階から窓ガラスを突き破り、『一徹』がソイニー師匠に向かって突っこんでくる。ソイニー師匠は、タイミングよく『一徹』の柄を掴み取ると、鞘から抜き、刀身をあらわにする。そして、振る。
 一徹から眩い青い光が放たれ周囲に散乱する。 
 たちまち、ナタリーが放った魔導がたち消える。

「あれ?魔導が消えた?なんで?? 私の魔導がかき消された?ソイニー先輩が持ってるその刀は、確か——あの小僧が持っていた刀」
 動揺するナタリー。何が起きたのか全くわからない様子である。そして、アーシャも同様であった。

「この刀が家に置いてあって良かった。この刀は、天界大統領の弟であり、そして私の兄でもある、初代魔導具士が作成した刀。そして、この刀は、我が一族を滅ぼすために作成された。ただ、私は『一徹』を覚醒までに至らしめることができなかった。しかし、我が弟子、アスカがこの刀の覚醒させた。覚醒した『一徹』は所有者の魔導を高めるだけにあらず。この刀の真の力は、『魔導無効化』。それは初代魔導具士の血統を継ぐ者が唯一扱える技」

 ソイニー師匠は刀を構え直すと、眼光を光らせる。

「ソイニー、冗談はよしなよ……あんたが、大統領一族出身だって冗談がすぎるよ」
 アーシャは少し後退りながら苦笑いする。
「アーシャ、元々騙すつもりはなかったわ。まあ、今となってはそんなことどうでもいいわね」
「まあ、嘘か本当かは今は関係ないわね。それじゃあソイニー殺し合いを始めましょうか」

 昼と夜の狭間、マジックアワーに差し掛かった空が不気味な雰囲気を醸し出す。
 風が強く吹き始め、民家の窓ガラスを揺らした時、アーシャは一気にソイニー師匠に詰め寄った。しかし、アーシャは魔導を使わない。

 ——カキン

 金属同士がぶつかり合ったときに発せられる乾いた音が響き渡る。

「ソイニー、あなたの誤算は、私が剣術使いでもあることを考慮していなかったことよ」
「アーシャ、噂には聞いていましたが、本当に剣術が使えたのですね。しかもあなたの杖の中に剣を隠していたとは」

 ソイニー師匠は、一徹を前に押し出し、アーシャを押し返すが、アーシャは一旦重心を後ろに傾けると、そのまましゃがみ込み、今度は体勢を低くしながらソイニー師匠に切り掛かる。

「我を守れ『シールド』」

 ソイニー師匠は咄嗟に、一徹で魔導増幅しながら、防御壁を発動し、アーシャからの攻撃を防ぐが、アーシャは左手を腰の後ろに回すと、拳銃を取り出し全弾をそのシールドに打ち込んだ。その結果、脆くなるシールド。そのシールドに思い切り、切り掛かるアーシャ。シールドは撃ち負わされ、ソイニー師匠の首めがけて剣が振られる。

 しかし、ソイニー師匠は防御を取ろうとしない。

 ——グサ

 肉が切られた鈍音が微かに響いた。

「やった?ソイニー師匠を殺した?」

 ナタリーが嬉しそうに尋ねるが、返答はない。そして、膝から崩れ落ちたのは、アーシャの方だった。

 アーシャの剣はソイニー師匠の首を正確に狙っていた。しかし、その刃は、首には届いていなかった。ソイニー師匠の首と剣の間には、黄金に輝く魔法陣が小さく展開されていた。その魔導は、『絶対防御』。ユミ姉が、発動させたその魔導が、アーシャの刃がソイニー師匠に到達することを防いでいた。

 一方、ソイニー師匠が持っていた一徹はアーシャの腹を突き抜いていた。

 ソイニー師匠はユミ姉のことを信じて、あえて防御を捨て、攻撃に全集中し、アーシャの隙をついた結果だった。

 アーシャの腹から一徹を抜くと、アーシャは静かに倒れる。

「そんな、マジですか」

 急に叫び出し、目の前の状況が受け入れられずに取り乱し始めるナタリー。

「ナタリー、アーシャは死にました。しかし、あなたまで死ぬ必要はありません。今すぐ天界に帰りなさい」
 ソイニー師匠は宙に浮くナタリーの方を見ながら諭すが、ナタリーは一切引くそぶりを見せない。

「私はですね、ソイニー先輩を手中に収めたいのです。そして、到底人が経験しないような、精神が崩壊するまで拷問したいのです。だから、必ず今日、ソイニー先輩は天界に連れて帰ります。あと、ソイニー先輩に殺されるならそれはそれで楽しいかもしれません」
「あなたは本当に狂っているのですね」
「ソイニー先輩、それは褒め言葉ですよ」
「前に立ちはだかるならば、切ります」

 ソイニー師匠は、突きの構えを見せると、ナタリーは叫びながら突っ込んでくる。

 勝敗は一瞬だった。精神系魔導を得意としていたナタリーは、魔導を無効化してしまう一徹を装備したソイニー師匠を前に無力だった。
 ナタリーは目眩しの魔導を放ったが、一瞬でソイニー師匠に無効化され、そして一徹がナタリーの心臓を突き破る。

「グフ」

 ナタリーは、地に落ち、うつ伏せになる。

「やっぱり刺されると痛いですね。だけど、ソイニー先輩に殺されるなら本望です。愛してますソイニー先輩。地獄で待ってます」
「ソイニー師匠は地獄に落ちません」

 ナタリーの言葉に反応したのはユミ姉。

 その言葉に対して、薄気味悪い笑みを浮かべながらナタリーは目を閉じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

腐った伯爵家を捨てて 戦姫の副団長はじめます~溢れる魔力とホムンクルス貸しますか? 高いですよ?~

薄味メロン
ファンタジー
領地には魔物が溢れ、没落を待つばかり。 【伯爵家に逆らった罪で、共に滅びろ】 そんな未来を回避するために、悪役だった男が奮闘する物語。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

魔王転生→失敗?(勇者に殺された魔王が転生したら人間になった)

焔咲 仄火
ファンタジー
 人間界と魔界との間には、100年戦争が続いていた。長い間、戦争は膠着状態が続いていたが、突如人間界に現れた"勇者"の存在によって一気に戦況が変わる。圧倒的戦力である勇者への対応のため、魔王も最前線と魔王城の行き来をしていた。そんなある時、魔王の乗った飛空艇を勇者が襲う。魔王と勇者の一騎打ちの結果相打ちとなり、重傷を負った勇者は逃亡、魔王は勇者の一撃で致命傷を負ってしまう。魔王は転生の秘術により生まれ変わり、また戻ってくることを部下に約束し、息絶える。そして転生した魔王は、なぜか人間として生まれ変わってしまった。  人間に生まれ変わった魔王は、人間界で冒険者として生計を立てながら、魔界を目指す。 ※2017年11月25日完結しました

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪
ファンタジー
 平凡な商人の息子として生まれたレオスは、無限収納できるカバンを持つという理由で、悪逆非道な大魔王を倒すべく旅をしている勇者パーティに半ば拉致されるように同行させられてしまう。  いよいよ大魔王との決戦。しかし大魔王の力は脅威で、勇者も苦戦しあわや全滅かというその時、レオスは前世が悪神であったことを思い出す――  そしてめでたく大魔王を倒したものの「商人が大魔王を倒したというのはちょっと……」という理由で、功績を与えられず、お金と骨董品をいくつか貰うことで決着する。だが、そのお金は勇者装備を押し付けられ巻き上げられる始末に……  「はあ……とりあえず家に帰ろう……この力がバレたらどうなるか分からないし、なるべく目立たず、ひっそりしないとね……」  悪神の力を取り戻した彼は無事、実家へ帰ることができるのか?  八神 凪、作家人生二周年記念作、始動!  ※表紙絵は「茜328」様からいただいたファンアートを使用させていただきました! 素敵なイラストをありがとうございます!

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...