上 下
13 / 83

限界

しおりを挟む
 自分のためだけでなく人のためにも強くなりたい。
 そう心に決意して、再び修行に明け暮れる。

 その甲斐あって、少しだけ魔導が上達し、球体を75 m飛ばせるようになり、1 mほどの大きさを現界することもできるようになった。

 しかし、やはりそれ以上、全く魔導は向上しなかった。

「アスカ、まだ魔導を始めてから半年くらいしか経ってないんだから仕方ないよ、気長に頑張ろう」

 ユミ姉が慰めてくれる。
 だけど、その慰めも今の僕には辛い。

 姫様のため、前世を乗り越える為だけでなく、幼き子達を守るためにも、修行して強くなると決意したのに、全然強くなれない。
 何がダメなんだ。

「アスカさん、今日の修行はここまでにしましょうか」
ソイニーさんも気を使って、今日はここまでとなった。
悔しくて仕方がなかった。

「ソイニーさん、ユミ姉、こんな落ちこぼれですみません」

 そう言って部屋にこもった。
 今度はソイニーさんが、ゆっくりとドアを開けながら入って来た。
 その顔つきは、かなり僕を心配している。

「アスカさん‥‥‥、あまり気に病まないでください。
始めに説明しておくべきでしたが、実情、中級魔導士以上になれるのは全体の15%しか居ません。ほとんどの人が初等魔導士ですので、落ちこぼれなんて言わないでください。
あなたの努力する力は一級品です。
ただ、魔導とあなたの相性があまり良くなかっただけのことです」

 ソイニーさんは言葉を一つ一つ選びながら慰めてくれる。
 そんなことは僕も重々承知の上だった。
 だけど、僕には力が必要なんだ。
 自分の願望を叶えるため、関わって来た人を守るため、どうしても力が‥‥‥必要なんだ。

 現実は、とても厳しいなと、自分を呪う。

 そんな僕の様子を見かねて、ソイニーさんは少し魔導を使いながら僕を抱きしめる。
 甘くいい匂いがした。
 その匂いが僕を甘やかに溶かし、落ち着かせた。

「自分に絶望しないでください。あなたはあなたです。あなたにしかないものがあるはずです」

 ソイニーさんは本当に優しい、少しおっちょこちょいだけど、それもまたソイニーさんの人柄の良さを際立たせる。

「あれ? アスカさん、あれはなんですか?」

 急にソイニーさんが何かを指差す。
 僕はソイニーさんの胸から離れ、指先を追っていくと、そこには、姫様と僕を結ぶ唯一の物、ピンクのバラが光り輝いていた。

 しまった。
 僕は硬直する。
 ソイニーさんが僕を落ち着かせるために、魔導を使ったことで、バラの魔導具が反応してしまったのである。

「アスカさん、これは魔導具ですよね。しかもこんな精巧な魔導具見たことがありません」

 ソイニーさんは驚いている。
 それもそのはず、魔導具士はこの世界で忌み嫌われる者なのだから。
 そんな奴が、紛れていたなんて分かれば、びっくりしないわけがない。

「アスカさん、この魔導具はあなたが作ったのですか?」
「はい‥‥‥」

 僕は静かに白状する。
 ごまかせる気が全くしなかった。

「そうでしたか。全てが理解できました。ユミさんも交えて一度話しましょうか」

 ソイニーさんは静かにそう告げ、僕に居間に向かうように言った。

 そして、ユミ姉と僕、ソイニーさんが集まった。
 ユミ姉は、バラの魔導具を見て驚き、僕が魔導具士だってことも知りさらに驚いていた。

「アスカさん、魔導具士がこの世界でどのように扱われているか知っていますか?」
「はい‥‥‥」
「そうですか、だから隠していたんですね?」
「はい‥‥‥」
「そうですよね、とりあえずアスカさん、安心してください。私やユミさんは日頃から魔導具士への冷遇について疑念を持っている派閥に属しているので、あなたのことを冷遇したり、追い出したりしません。ただ一つ問題があるのです」
「問題ですか?」
「はい、魔導具士はなぜだか、一定以上の実力をつけると、それ以上は魔導が上達しなくなるのです。
つまり、現状、アスカさんの魔導の上達しにくい原因は、魔導具士であることだと考えられます」



「じゃあ、僕はこれ以上修行しても、強くなれないと言うことですか?」
「……そうです」

 その事実は僕が1番聞きたくなかったものだった。
 ソイニーさんも辛そうな表情を浮かべ、ユミ姉は目に涙を浮かべている。

「だけど、こんなに精巧に魔道具を作製出来る人は聞いたことも見たこともありません。この技量で魔道具が作られたならば、魔導士は更なる力を発揮できると思います」

 ソイニーさんはなんとか僕の気分を少しでも上げようとしてくれる。
 だけど、申し訳ないけど、そんな気分にはなれない。

「……」
 僕は無言のままいる。

「そんな気分にはなれないですよね、私だってわかってますよ。あなたは目標を叶えるために努力してきました。
それがこんな形になってしまっては、言葉もありません」
 ソイニーさんは床を見る。
 僕とは目を合わせられないみたいだった。

「アスカ、絶望だけはするな」
 ユミ姉はそう言うと、豊満な胸で僕を包み込む。
「絶望だけはするな……今は前を見れなくてもいい。だけど……人は歩き続ければ、歩き続けてさえいれば、何かしら幸福が来るはずだから!」

 ユミ姉は涙を流しながら、僕を諭す。
 その優しさに僕もつられて涙する。

「出来損ないの落ちこぼれで、本当にごめんなさい」
「もう何も言うな。今は泣くだけでいいんだ」

 5分くらい経っただろうか。
 悲しい雰囲気が未だ居間を包む。

「そうですね、前に進みましょうアスカさん。立ち止まってはダメです。アスカさんはこれから魔道具士としての実力をつけた方が身のためかもしれません。3日後に、最近の米帝の活発な動向について上級魔導士以上を含め、王宮で魔導会議が行われます。
その時に、有力な魔導士に、質の良い魔道具を作る魔道具士はいないか聞いてみます。そこに弟子入りした方が、今後のためかもしれません」

「ソイニー師匠!そんなのあんまりですよ。アスカは魔導士として強くなりたいんです。それなのに、今から魔道具士に弟子入りしろなんて、酷すぎます」
「そんなことは私も分かっています。だけれども、現実を見据えた時、何が1番アスカさんにとって幸せか。それは己の得意分野をさらにのばすことではないですか!?ユミさん」

「それはそうですが、やっぱり酷ですよ……」
 ユミ姉は何も言い返さなくなった。
 だけど、こんな状況だけれども、本気で僕のことを考えてくれる2人が、本当にありがたかった。

「アスカさん、色々言いましたが、最終的に決めるのはあなたです。魔導会議が終わった後、今後どうしたいか伺います。
それまでに考えておいてください」
「はい……」

 僕は力弱く答える。
 その後3日間、僕は生きた心地がしなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

死んだと思ったら異世界に

トワイライト
ファンタジー
18歳の時、世界初のVRMMOゲーム『ユグドラシルオンライン』を始めた事がきっかけで二つの世界を救った主人公、五十嵐祐也は一緒にゲームをプレイした仲間達と幸せな日々を過ごし…そして死んだ。 祐也は家族や親戚に看取られ、走馬灯の様に流れる人生を振り替える。 だが、死んだはず祐也は草原で目を覚ました。 そして自分の姿を確認するとソコにはユグドラシルオンラインでの装備をつけている自分の姿があった。 その後、なんと体は若返り、ゲーム時代のステータス、装備、アイテム等を引き継いだ状態で異世界に来たことが判明する。 20年間プレイし続けたゲームのステータスや道具などを持った状態で異世界に来てしまった祐也は異世界で何をするのか。 「取り敢えず、この世界を楽しもうか」 この作品は自分が以前に書いたユグドラシルオンラインの続編です。

前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪
ファンタジー
 平凡な商人の息子として生まれたレオスは、無限収納できるカバンを持つという理由で、悪逆非道な大魔王を倒すべく旅をしている勇者パーティに半ば拉致されるように同行させられてしまう。  いよいよ大魔王との決戦。しかし大魔王の力は脅威で、勇者も苦戦しあわや全滅かというその時、レオスは前世が悪神であったことを思い出す――  そしてめでたく大魔王を倒したものの「商人が大魔王を倒したというのはちょっと……」という理由で、功績を与えられず、お金と骨董品をいくつか貰うことで決着する。だが、そのお金は勇者装備を押し付けられ巻き上げられる始末に……  「はあ……とりあえず家に帰ろう……この力がバレたらどうなるか分からないし、なるべく目立たず、ひっそりしないとね……」  悪神の力を取り戻した彼は無事、実家へ帰ることができるのか?  八神 凪、作家人生二周年記念作、始動!  ※表紙絵は「茜328」様からいただいたファンアートを使用させていただきました! 素敵なイラストをありがとうございます!

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

処理中です...