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前編
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私は夢を見ていた。闇の中をただひたすら歩く夢を。
自分がどこに向かっているのか判らぬまま進み続けた。この世界はやけに静かだ。だんだんと自分以外誰もいない様な心持ちになっていく。一歩、歩みを進めるごとに重たい不安が背中に伸し掛かっていく。進まぬ身体と止まりたくないという思いが交差する。それがしばらくの間続いた。そして、とうとう私の真ん中から「バキッ」という音が鳴った。途端に歩みが止まり、その場に座り込んで少しの間泣いた。
どれだけの時間が経ったのだろう。泣きはらした顔を上げると、遠くに一点の小さな光があった。私は嬉しくなって光の方へと駆け出した。近づけば近づくほど大きくなっていく一点の光に、私は夢中になって心に伸し掛かっていた錘のことなどすっかり忘れてしまっていた。そして、私は目の前に広がる光の中へ飛び込んだ。あまりの眩しさに私は目を閉じる。光の中は不思議な世界だった。なぜ、目を閉じているのにこんなにも明るいのだろう。光に包まれていくその暖かさに私は母の腹の中に眠る赤子の様な心持ちになっていた。「ずっとここに居たい」そう願う私の気持ちとは裏腹に終わりは呆気なく訪れる。
足に固くざらついた感触がしてゆっくりと目を開ける。眩しい光が差し込んで来て思わず目を瞬いた。私は裸足でアスファルトを踏みしめていた。あたりを見渡すと、どこかの住宅街のようだ。初めて来た様な久しぶりに来た様なこの住宅街には、あんなにも立派な太陽があるのに、人の姿はなく。気配すら感じなかった。私は太陽の温もりが心地良いものだから散歩を始めた。裸足で歩くアスファルトは思いの外、不快さを感じない。しばらく進んでいると少し先に十字路がある。私は誰も居ないもんだからつい、あたりを見ずに車道へ出てしまった。すると、私の左から急に車が一台現れた。
驚いた私は後に下がる。その前を車が通り抜けていく。私は人に会った喜びよりも、車に轢かれそうになった恐怖よりも、車に対する怒りよりも、不気味な感情に支配されていた。車はフォードV8(1932モデル)の真っ黒なボディに炎を全身に纏い、ルーフには奇妙なネズミが描かれていた。車体はルーフが上から覗ける程に低くコンパクトであり、私は一瞬だけ運転手の顔を見た。その顔は、笑っているのか怒っているのか判断出来ぬものであった。それがより不気味さを際立たせている。私は気づいたらその車に釘付けになっていた。
私は少しして我に返り、先程車が出てきた道を進むことにした。この先に進めば何かあるかもしれない。心の中で不安が暴れているのを宥めながら道を歩く。しばらく進んだ所に見覚えのある、あの奇妙なネズミの絵が描かれた看板を発見した。私は何を営んでいるか判らぬその店の扉を開けた。先には薄暗い通路がある。私はまた、闇の中を行かなければならなかった。
自分がどこに向かっているのか判らぬまま進み続けた。この世界はやけに静かだ。だんだんと自分以外誰もいない様な心持ちになっていく。一歩、歩みを進めるごとに重たい不安が背中に伸し掛かっていく。進まぬ身体と止まりたくないという思いが交差する。それがしばらくの間続いた。そして、とうとう私の真ん中から「バキッ」という音が鳴った。途端に歩みが止まり、その場に座り込んで少しの間泣いた。
どれだけの時間が経ったのだろう。泣きはらした顔を上げると、遠くに一点の小さな光があった。私は嬉しくなって光の方へと駆け出した。近づけば近づくほど大きくなっていく一点の光に、私は夢中になって心に伸し掛かっていた錘のことなどすっかり忘れてしまっていた。そして、私は目の前に広がる光の中へ飛び込んだ。あまりの眩しさに私は目を閉じる。光の中は不思議な世界だった。なぜ、目を閉じているのにこんなにも明るいのだろう。光に包まれていくその暖かさに私は母の腹の中に眠る赤子の様な心持ちになっていた。「ずっとここに居たい」そう願う私の気持ちとは裏腹に終わりは呆気なく訪れる。
足に固くざらついた感触がしてゆっくりと目を開ける。眩しい光が差し込んで来て思わず目を瞬いた。私は裸足でアスファルトを踏みしめていた。あたりを見渡すと、どこかの住宅街のようだ。初めて来た様な久しぶりに来た様なこの住宅街には、あんなにも立派な太陽があるのに、人の姿はなく。気配すら感じなかった。私は太陽の温もりが心地良いものだから散歩を始めた。裸足で歩くアスファルトは思いの外、不快さを感じない。しばらく進んでいると少し先に十字路がある。私は誰も居ないもんだからつい、あたりを見ずに車道へ出てしまった。すると、私の左から急に車が一台現れた。
驚いた私は後に下がる。その前を車が通り抜けていく。私は人に会った喜びよりも、車に轢かれそうになった恐怖よりも、車に対する怒りよりも、不気味な感情に支配されていた。車はフォードV8(1932モデル)の真っ黒なボディに炎を全身に纏い、ルーフには奇妙なネズミが描かれていた。車体はルーフが上から覗ける程に低くコンパクトであり、私は一瞬だけ運転手の顔を見た。その顔は、笑っているのか怒っているのか判断出来ぬものであった。それがより不気味さを際立たせている。私は気づいたらその車に釘付けになっていた。
私は少しして我に返り、先程車が出てきた道を進むことにした。この先に進めば何かあるかもしれない。心の中で不安が暴れているのを宥めながら道を歩く。しばらく進んだ所に見覚えのある、あの奇妙なネズミの絵が描かれた看板を発見した。私は何を営んでいるか判らぬその店の扉を開けた。先には薄暗い通路がある。私はまた、闇の中を行かなければならなかった。
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