私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤

文字の大きさ
上 下
51 / 165
第1章 薬師大学校編

51話 意図せず生まれた者

しおりを挟む
 人間の国で騒動が起きる少し前の事である。
 魔人の国ではブラックが、自分の『指輪に宿りし者』に直接この世界やあの黒い影の集団について話を聞こうと考えていた。


 私は舞と対になる指輪を触りながら、会って話したい事があると心から念じたのだ。
 舞から話は聞いてはいたが、再度確認したかったのだ。
 すると、指輪が温かくなったかと思うと優しく光りだして、大きな光の集合体が現れたのだ。
 そして以前見た時と同じ、見た目は男性を思わせる姿の者が現れたのだ。

「ブラック、久しぶりだねー
 もっと早く呼んでほしかったのに、冷たいなぁ。
 あ、ここが魔人の城なんだね。
 実際に来るとイメージが違うなー
 何だかブラック・・・部屋が地味だね。
 もっと明るくした方がいいよー」

 ああ・・・この人、以前もこんな感じだったと、ブラックは何だか気が抜けたのだ。
 『指輪に宿りし者』はブラックの執務室の中をウロウロしながら、興味深そうに部屋の中の物を眺めていた。

「あの、実は教えて欲しい事があって、お呼びしたのですが・・・」

 ブラックは早速本題に入ったのだ。

「ああ、聞きたい事はわかってるよ。
 でも、舞から聞いたんじゃない?
 僕の片割れの言っている事以上の話は無いけどね。」

『指輪に宿りし者』はそう言いながらも、この世界の成り立ちや『大地と闇から生まれし者』について話してくれたのだ。
 聞き終わると、やはり舞から聞いた話と何も変わる事は無かったのだ。

 しかし、聞いていた情報以上の事はないかと思った時だった。
『指輪に宿りし者』は少し悩みながら付け加えたのだ。

「一つ、心配な事があるんだよねー。
 僕の片割れは舞にはきっと言ってないと思うんだけど・・・。
 僕はブラックに付いているものだから、遠慮なく言っちゃうね。
 でも・・・舞には言ってはいけないよ。
 それを約束できる?
 約束出来ないなら教えてあげないよー。」

 舞に関係する事なのだろうか?
 ここまで言われて、聞かないわけにはいかなかった。
 
「もちろん、約束します。
 ただ、それを告げない事で舞が危険になるのなら、私は言ってしまうでしょう。
 それを許していただけるなら・・・」

『指輪に宿りし者』は少し考えて、頷いたのだ。

「そうだね、その時は伝えるべきかもね。」

 そう言って微笑んだのだ。

「必ずそうなる訳ではないと言う事を前置きしとくね。
『大地と闇から生まれし者』は、長い間何もない大地で眠るように暗闇に息を潜めていたんだ。
 ところが、その世界に誰も意図せず現れたものがあってね。
 その存在により、今の人間がいる世界のように緑あふれる素敵な世界になったんだよ。

 ただ、それは『大地と闇から生まれし者』と、そこに注がれた光によって出来た特殊な存在だと思うんだ。
 それは『光』『大地』『闇』から作られたものとは少し違ったんだよね。
 まあ、存在自体はこの世界を豊かにしてくれた訳で、何ら問題ないのだけど、心配なのは『大地と闇から生まれし者』と少しだけ似たようなオーラを持ち合わせている事だよ。
 多分、ブラック達にはわからないと思うけどね。」

 それを聞いた時、何故舞には言わない方がいいと言ったかが理解できたのだ。

「しかし・・・彼はどう見ても善良ですよ。
 心配な点など・・・」

「・・・今はね。
 ただ、もしも昔から存在する『大地と闇から生まれし者』に遭遇したら、何かしらの影響を受けるかもしれない。
 もしかしたら、利用されてしまうかも・・・
 多分まだ主たる者には、直接会った事がないのだと思うけどね。
 もちろん、彼は何も変わらないかもしれない。
 可能性だけで、舞に伝える事は良くないからね。
 だから、舞の指輪にいる僕の片割れは言わなかったのだと思うよ。
 舞がどれだけ彼を信頼しているかは知っているだろう。
 ただ、彼の舞への執着も気になる要因の一つなんだけどね。
 ああ、それは言われなくても、ブラックはわかっているか。」

 そう言って、執務室の窓からこの世界を眺めたのだ。
 
「そうそう、僕の片割れは舞からは話の代償に可愛らしい物をもらったと聞いているよ。
 ブラックは僕に何をくれるのかな?」

 『指輪に宿りし者』は振り向くと、満遍の笑みで私を見たのだ。
 舞のように可愛いものなど持っていなかったので、私はとても困った。

「何を差し上げて良いかわからないのですが・・・
 ご希望はありますか?」
 
 『指輪に宿りし者』は少し考えて、口を開いたのだ。

「じゃあ、舞に同じ物が欲しいと頼んでくれる?
 僕も可愛らしい物が好きなんだよ。」

 私はこれで舞に会いに行く口実が出来たので、少し嬉しかった。
 しかし、今聞いた内容が、思った以上に重い話であったため、話して良いと言われたとしても、やはり私も舞に話す事は無いだろうと思った。
 ただ、舞が彼により危険に晒される時・・・
 そんな事が起きるとは思えないが、その時は話すべきだと思ったのだ。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

即席異世界転移して薬草師になった

黒密
ファンタジー
ある日、学校から帰ってきて机を見たら即席異世界転移と書かれたカップ麺みたいな容器が置いてある事に気がついた普通の高校生、華崎 秦(かざき しん) 秦は興味本位でその容器にお湯と中に入っていた粉を入れて三分待ち、封を開けたら異世界に転移した。 そして気がつくと異世界の大半を管理している存在、ユーリ・ストラスに秦は元の世界に帰れない事を知った。 色々考えた結果、秦は異世界で生きることを決めてユーリから六枚のカードからスキルを選んだ。 秦はその選んだスキル、薬草師で異世界を生きる事になる。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました

星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

森だった 確かに自宅近くで犬のお散歩してたのに。。ここ  どこーーーー

ポチ
ファンタジー
何か 私的には好きな場所だけど 安全が確保されてたらの話だよそれは 犬のお散歩してたはずなのに 何故か寝ていた。。おばちゃんはどうすれば良いのか。。 何だか10歳になったっぽいし あらら 初めて書くので拙いですがよろしくお願いします あと、こうだったら良いなー だらけなので、ご都合主義でしかありません。。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

処理中です...