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第1章 薬師大学校編

49話 舞の言葉

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 舞はアクアに抱えられながら、学校やその周りにいる人達を注意深く見たのだ。


 私が薬で黒い影の集団を分離すれば済むと言う、簡単な事ではない気がしたのだ。
 それにもしかすると、学長はこの黒い影の集団と何らかの関係があるかもしれない。
 あの時の冷静な対応や顔つきを見ると、その疑問が拭えなかった。
 だとするなら・・・

「ねえ、アクア。
 私を学長の前に連れて行ってくれる?」

「舞、それは危険じゃないか?」

「大丈夫。
 精霊が一緒にいてくれるし、私にはブラックのペンダントや指輪の加護もあるわ。」

 私はそう言って精霊を見ると、精霊は優しく頷いたのだ。

「あまり危ない事をさせると、ブラックに怒られるのだぞ。」

 アクアはそう言いながらも、渋々了解してくれたのだ。
 そして、私は学長の前に降り立った。

「あなたに聞きたいことがあるわ。
 あなたは魔人を排除すべき存在と言ったわね。
 だけど、その世界から現れた黒い影の集団は、あなたにとって何なの?
 その脅威もあると話していたはずなのに・・・」

 私はそう言い学長を睨んだのだ。
 すると図星だったようで、学長は顔を歪めたのだ。
 やはり、黒い影の集団と何らかのつながりがあるようだ。
 学長の周りには、黒い影に侵食された、無表情の人達が集まりつつあった。
 そして、学長の指示を待っているように見えたのだ。
 下では、翼を持つアクアと私を見て、ざわつきがいっそう増していたのだ。
 
『魔人が現れたぞ!』

『恐ろしい魔人だ!』

 下に集まっていた人達は口々に叫びだしたのだ。
 私は上から、ざわついている人達に向けて叫んだのだ。

「みんな、私の話を聞いて!」

 しかし、私がどんなに大きな声で叫んでも、あっという間に下で騒いでいる声でかき消されてしまうのだ。
 私は意を決して、アクアに頼むことにした。
 まずは、私の話を聞いてもらわなければと思ったのだ。
 アクアは高い場所まで飛ぶと、一瞬でドラゴンの姿に変わったのだ。
 そして私はアクアの翼の横に乗せてもらい、学校の屋上に降りたのだ。
 そして天に向けて、炎を一吹きしてもらったのだ。
 すると私の予想通り、下にいる人達は私達を見て、驚いて息をのんだのだ。
 今だ・・・

「皆さん、聞いて!
 学長の話を聞いてくれた様に、私にも聞いて欲しい事があるの。
 学長がどんな意見を持っていても、もちろん構わない。
 言論の自由はあるわ。
 ただ、私は今まで起きた事、そしてこれからの事を考えて話したい。」

 私が叫ぶとあたりは静まり返ったのだ。
 そして、学校の周りで騒いでいた人や兵士達も私に注目したのだ。

「私は皆さんと同じ人間よ。
 もちろん、黒い髪や黒い瞳で、皆さんと見た目は少し違うかもしれない。
 でも、私は魔法を使えるわけでもなく、怪我や病気もする。
 寿命も百年もないと思う。
 皆さんもそうよね。

 だけど魔人達はそうではない。
 魔法を使ったり、簡単には怪我をしたり病気にはならない。
 そして何百年も寿命がある者もいる。
 だから、全く私達と違う。
 だからよくわからない存在。
 恐ろしいと・・・思うわよね。

 でも、よく考えて欲しい。
 よくわからないから、怖い、嫌い、だから排除する・・・
 それは本当に正しい事かしら?
 少なくとも私は違うと思う。

 初めは私も怖いと思ったわ。
 だって、何も知らなかったから。
 でも今は違うわ。
 私にはたくさんの魔人の友人がいる。
 私は彼等を知る事で、怖いと言う気持ちが払拭されたの。
 そして彼等も同じように、恐れや不安を抱いているの。
 私たちと同じで、嬉しかったり、悲しかったりと、色々な事に心は動かされるの。
 それに弱い人間の私だけど、彼等を助けたこともあった。
 逆に私たちでも、魔人達の心を傷つける事もあるの。
 それは持って生まれた能力や力は関係ないのよ。

 だから、まずは彼等をよく知って欲しいの。
 その上で、共存できないと思うなら私は何も言えないわ。
 でも、学長や有識者が言う話だけで、決めつけないで欲しい。
 皆さん自身でよく考えて欲しいの。

 以前、ある人に言われた言葉があるの。
 人間だから魔人だからと言う事で線を引き、決めつけてはいけないって。
 その人自身をしっかり見るのだよって。
 人間にも良い者、悪い者がいるのと同じで、魔人もそうなんだって。
 だから自分の心で、よく考えて欲しいの。
 五百年前に戦争があった事は事実だわ。
 だけど、今それを本当に経験しているのは魔人だけなの。
 私達は本当はどんな事があったかわからない。
 でも魔人達は共存を希望したの。

 過去よりも、今とこれからの未来を考えて欲しい。
 この国は・・・国民の意見を蔑ろにする国では無いと思う。
 魔人の事を分かった上での皆さんの選択なら、王も考えてくれるはず。
 だから、魔人を知る時間を作って欲しいの。
 排除する事はそれからでも遅くないわ・・・」
 
 もう、声がもたない・・・
 私は一気に大きな声で話すと、もうこれ以上話す事ができなかった。
 気付くと横にはユークレイスもいて、何も言わなかったが、いつもの冷酷な冷たい目ではなく、優しく笑っている様に見えたのだ。
 何者かわからない私一人が何か言ったところで、何も変わらないかもしれない。
 でも少しでも、考えて見ようと思う人が増えるのであれば・・・
 私は何か言わずにはいられなかったのだ。

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