私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤

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第1章 薬師大学校編

44話 占拠

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 舞とリョウが街の中心である城まで行くと、忙しく兵士たちが出入りしていたのだ。

 城とつながる学校に目を向けると、正門のところに多くの兵士が待機しているのが見えたのだ。
 私はあの仮面の老人達は、五百年前と同じで城でクーデターを企んでいるのかと思った。
 だがそれとは違ったのだ。
 どうも、学校で何か起きているようなのだ。

 兵士が待機している場所にシウン大将を見つけたので、私達は状況を伺うため急いで彼のところに向かったのだ。

「シウン大将、これはいったいどういう事ですか?」

 リョウが敬礼してシウン大将に声をかけると、彼は鋭い目で私達を見たのだ。

「ああ、君は軍付きの薬師であったな。
 舞殿も一緒でしたか・・・
 本来ならまだ憶測で話すべきでは無いのですが・・・」

 そう言いながらも、話してくれたのだ。
 どうも、ある集団が学校に入り込み、残っていた学生や教職員が拘束されているらしいのだ。
 学校には私が三人組に襲われた時から兵士たちが配置されていたのだが、全てその集団の息がかかっている者に代わっており、外に待機していた集団が問題なく中に入る事が出来たらしい。
 その集団には有識者や軍関係者など色々な分野の者達が集まっているようなのだ。
 そして学校の正門は閉じられてしまい、拘束されている人達を考えると簡単に中に入る事は出来なかったのだ。
 まずは彼らがどんな意図で学校を占拠したのかと、拘束されている人達の状況がわからないと、軍もなかなか手を出せないと話したのだ。

 横を向くと、リョウがとても心苦しい表情をしていたのだ。
 そして意を決して、口を開いたのだ。

「申し訳ありません。
 私は彼らの集会に、友人に誘われて参加しておりました。
 その件については、どんな罰も受けるつもりです。
 舞さんを利用しようとしていた事を知っていたのですが、
 私は何も止める事は出来ませんでした。
 私自身信用されていなかった為か、今回このような事が起きるとは知らされていなかったのです。
 ・・・申し訳ありません。」

 そう言ってリョウは頭を下げたままであった。
 シウン大将はそれを聞くと、少しだけ表情を変えたがすぐにいつもの口調で話したのだ。

「そうですか・・・
 それでは、知っている事を話していただきましょう。
 舞殿の周辺の騒ぎとも関係があったのですね。
 正直、軍からもその集団に参加している者も少なく無いようです。
 それを見抜けなかったのは、軍を任せられている私の失態と言えるでしょう。
 ですがその事を色々思い悩むより、今はこの状況を収束する事を考えましょう。
 後は全てが終わってから考える事に。」

 シウン大将がそう言うと、リョウは顔を上げて敬礼したのだ。
 そしてリョウから、この集団の目的である人間のみの世界、魔人排除の思想について話されたのだ。
 そして首謀者には五百年前の人魔戦争で亡くなった者達の子孫であり、その中にはこの学校の学長がいる事を伝えたのだ。
 私はリョウの言葉を聞いて驚いたが、仮面の老人の風貌や話し方などを思い出すと、なぜ今まで気付かなかったのかが、かえって不思議であった。

「なるほど・・・そうであるなら、オウギ王にも伝えなくては。」

 そう言って、シウン大将はリョウを連れて城に向かったのだ。
 私にも、ヨクやカクがまだ城にいるはずなので一緒にと言われたが、先に行ってもらうことにしたのだ。
 二人が行った後、私は胸ポケットに入っていた精霊にそっと声をかけたのだ。

「今の話聞こえた?
 何とか学校の中に入らなくちゃ。
 学長達の思うままにさせるわけにはいかないからね。」

 私がそう言うと、顔を出した精霊は辺りをキョロキョロしたのだ。

「そうですねー
 ああ、この木ならいいかも。」

 精霊はそう言うと、ポケットから出て私の肩に乗ったのだ。
 学校内にある木々の枝が、壁を越えて外まで飛び出している場所をがいくつかあったのだ。
 精霊はそれを見上げると、その太い枝に小さな入口を作ったのだ。
 それは精霊の作った空間なのだが、どう見ても私が入れる大きさではなかった。
 しかし肩に乗っていた精霊がその入口に触れると、一瞬で私も一緒に中に入る事が出来たのだ。
 そこは白い小さな空間であったが、暖かみのある場所であった。
 そこでは精霊は私よりも大きな青年の姿になっていたのだ。

「この木の根元の方に出る事が出来ますが、もしかしたら警備の者がいるかもしれません。
 気をつけなければならないですよ。」

 私が頷くと、精霊はこの空間の出口を作ったのだ。
 そして私の手を取り外に出ると、また精霊は小さくなり私の胸ポケットに収まったのだ。
 辺りは静まり返っていて、そこはちょうど学校の建物の東側に位置していた。
 そして私達はそっと校舎の中に入り込んだのだ。
 
 
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