上 下
41 / 68
第1章 薬師大学校編

41話 脱出

しおりを挟む
 仮面の男が部屋を出て行くと、リョウはやっと舞に目線を向けたのだ。


「舞さん、すみません。
 信じてもらえないかも知れないですが、私はあなたを利用する事には反対なのです。
 ただ正直、この世界から魔人がいなくなる方が良いとは思っています。
 私は今まで、人間しかいない世界で生きて来たので、変化が怖いのかも知れません。
 ですが、舞さんを閉じ込めてあの薬を作らせようとする事には反対です。
 しかし、私が連れてこなければ、他の者に襲撃させてまで連れてくるつもりだったようで、かえってその方が危険と感じたのです。
 ・・・一つだけお願いがあります。
 五百年前の本当の事を知っていたら教えて欲しいのです。
 さっきの方の話が本当なのかを知りたいのです。
 あの人は人間が正義であると話しますが、本当に悪いのは魔人だけなのでしょうか?
 それを知りたいのです。
 舞さんを利用しようと考える彼らが、今は信じられないのです。」

 そんな風に一気に言われ、私はリョウを責める事はできなかった。
 私はブラックから聞いた事を話したのだ。
 もちろん私が別の世界から転移して来た事は伏せたままであるが。
 
「あの人はただ魔人がいなくなればいいと思ってるだけかしら?
 それとも、魔人討伐が目的?
 五百年前はクーデターを起こしたのよ。
 そして、王家の人たちや私と同じ風貌のハナさんも城に閉じ込められたのよ。
 そして、ハナさんの大事な人達に危害を加えられたくなければ、薬を作れと脅されたらしいの。
 そんな事を繰り返したいのかしら。」

 私はさっきまで冷静を保っていたが、話しているうちに感情が抑えられなくなっていた。
 すると、それに反応する様に胸元が優しく光ったのだ。
 私は首にぶら下げている小袋から光る種を取り出すと、小さな精霊が現れたのだ。

「舞、どうしました?
 ここは・・・」

 そう言って私を見た後に、周りを見回しリョウを見ると精霊の顔つきが変わったのだ。
 そして小さな精霊の姿から、私よりも大きな青年の姿に変わったのだ。
 それを見たリョウはとても驚いて後退りし、床に座り込んだのだ。
 
「舞に何をしたのですか?
 舞を傷つける事は絶対に許さない。」

 精霊がリョウに向かい歩き出したので、私は精霊の腕を掴んで止めたのだ。

「待って、大丈夫だから。
 私に任せて。」

 私はそう言って、精霊に小さな姿になる様に伝えたのだ。
 精霊は渋々小さくなると、いつもの様に私の胸ポケットに収まったのだ。

「舞さんは色々な友人がいるのですね。
 すごいや・・・
 それにしても、舞さんの話が事実ならば、魔人達は戦いに敗れて異世界に行ったわけでは無いのですね。
 何だか切ないですね・・・」

 リョウが言うように、ハナさんとブラックの取った選択はある意味とても悲しい結果であった。
 でも、私は欲張りなのかも知れない。
 誰かが悲しむ結果にはしたく無いのだ。

「舞さん、私はここを出てあの人達を止めに行きます。
 軍にも報告します。
 今日、彼らは何か行動を開始すると言ってました。
 私は詳しくは聞かされてないのですが、城の近くに行っていると思います。
 私が隙を作るので、舞さんは逃げて下さい。」

 そう言って扉を開けようとしたが、鍵がかかっていたのだ。
 リョウは外に見張りがいる事がわかっている様で、扉を叩いたのだ。

「話は終わったから開けてくれ。」

 しかし、見張りの返答は無かったのだ。
 何回か扉を叩きながら叫んだのだが、開けてくれる事は無かったのだ。

「私と同じで、あっちも信用してなかったわけですね。」

 そう言ってリョウは肩を落としたのだ。
 私は扉を見ると上下に少しだけ隙間がある事がわかった。
 それならと思い、精霊にお願いしたのだ。
 精霊は嬉しそうに承諾したのだ。
 私は小袋に入っている種を一粒手のひらに乗せたのだ。
 精霊が力を込めると、その種から細い蔓がヒュルヒュルと出て来たのだ。
 そして細い蔓はドアの隙間からそっと部屋の外に出ていったのだ。
 それは精霊の目や手足となるのだ。
 するとその蔓は、あっという間に見張りから鍵を盗み出し、そっと鍵を回したのだ。
 私達は扉を少し開けて辺りを見ると、精霊に言われた通り見張りは階段を上がったところに立っていたのだ。
 
 私は首からぶら下げていたある物を手に取り願ったのだ。
 すると、それは優しく光りながら大きくなり、精霊にもらった弓矢が現れたのだ。
 これを使う時が来たみたい・・・

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

処理中です...