私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤

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第1章 薬師大学校編

37話 舞の油断

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 的を射抜いていたのは、魔獣に対応してもらった弓の名手であった。
 シウン大将が私に気付き、声をかけてくれたのだ。

「ああ、もういらしてたんですね。
 ・・・彼は会ったことありますよね。」

 そう言ってその弓の名手を呼び、紹介してくれたのだ。

「ええ、魔獣の時にはお世話になりました。
 そう言えば、その時はお名前を伺ってなかったですね。」

「お久しぶりです。
 ハク=タイソウと申します。
 舞さんも弓矢を使えると聞いて驚きましたよ。
 あの時、私でなくても問題なかったのでは?」

 そう言って笑ったのだ。
 彼は以前、洞窟から魔獣が現れた時に私の薬を上手く到達させる為に、急遽対応してくれた人なのだ。

「彼に習うと上達も早いですよ。」

 シウン大将はそう言って、その場を離れたのだ。
 今日は彼から色々教わる事になった。
 今まで私がやってきたアーチェリー は、静かな場所で定位置から遠くの的を射抜いたわけだが、実戦で使うものは全くそんな場所では無い事はよくわかっているのだ。
 つまり動きながら、確実に、そして連続して扱える事が重要なのだ。
 まさに、さっき彼がやっていた事なのだ。
 そんな簡単で無い事はわかっているが、私は誰かの助けになるならばと、色々教わる事にしたのだ。
 
 日も暮れたので、私はカクと一緒に帰ろうと城の正門の所で待っていた。
 すると、前からある男の人が歩いてきたのだ。
 私はチラッと顔を見ると、向こうも目線を合わせてきたのだ。

「舞さん?
 やっぱり。」

 声をかけて来たのは、ケイトとライトの兄のリョウ=コウカであった。
 噂をすれば・・・であるのだ。

「あ、お久しぶりです。
 ケイトとライトのお兄さんだったのですね。
 今日聞きましたよ。
 全く気付きませんでした。」

「ああ、実はケイトから黒髪の女性が学校にいる話は聞いていたのです。
 カク先生の親戚っていうから、舞さんかと。
 まさか、隣で学生をやっているとは驚きましたよ。
 もちろん、あの時の事は話してませんがね。」

 確かに魔獣への対応は軍によるものであり、家族と言えどその詳細を一般市民に話す事はタブーであるのだろう。
 そうなると、私の事も話してないのも納得であるのだ。

「カク殿を待っているのですか?
 まだ王室の薬師の方々は話し合いをされてましたよ。
 先に帰った方がいいのでは?
 私が送りますよ。」

 いつ終わるかわからないのに、ここで待っていても仕方ないかも知れない。
 私はリョウに送ってもらう事にしたのだ。
 正直、一人で帰るのは心細かったのだ。
 多分、リョウには私が誰かに狙われている事は知らされてないはず。
 軍の捜査は一部の者のみで行われているはずなのだ。
 それに、前回ケイトがいた時に現れた三人組も、目的は不明のままで処理されているはず。
 かえって心配させるのも良く無いし、何で狙われているかの話になると面倒でもあるのだ。
 だから、私は特にその件については何も話さなかった。

 私達は歩きながら、ケイトやライトの話、また学校で習っていることなど話した。
 馬車で帰ろうと思ったが、先日精霊と歩いた時意外と遠く無い事がわかったので、今回も歩く事にしたのだ。
 だが、街中を抜けた時である。
 前から顔を隠し、腰元に剣を携えた二人組がこちらに向かって歩いてきたのだ。
 リョウもその怪しい気配に気付き足をとめたのだ。
 薬師とは言え軍に従事しているので、最低限の訓練は受けているようだ。
 だが今は丸腰の為、武器を持った者に対抗する手段は無かった。

「舞さん、こっちに。」

 そう言って、私の手を掴み走り出したのだ。
 すると、その二人組も追ってきたのだ。
 私達は街中に戻り、細い入り組んだ路地を走り回ったのだ。
 リョウはこの場所に詳しいらしく、あっという間に二人を巻いて、ある街外れの館の前に着いたのだ。

「ここで少し隠れよう。
 確かここは今は空き家だったはず。
 しばらく様子を見ましょう。」

 そう言って私の手を掴み、地下に駆け降りたのだ。
 私は言われるがまま、リョウの後をついて地下の部屋に入ったのだ。
 そして、リョウは外を見て来ると言って部屋を出たのだ。

 しかし・・・数分経っても戻ってこないリョウが心配になり、私も上に行こうとしたのだ。
 ところが、いつの間にかその地下の部屋には鍵がかかっており、外に出る事が出来なかったのだ。
 部屋の中を見回すと、空き家にしては綺麗に整頓されており、奥には人が住めるような設備があったのだ。

 私はまさかと思った。
 ケイトやライトの兄である彼が、私を陥れるはずがないと思い込んでいたのだ。
 もちろん、軍の関係者の可能性は考えてはいた。
 しかし、久しぶりに会ったリョウは以前と変わらなかったので、私は警戒を解いてしまったのだ。
 
 
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