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第1章 薬師大学校編

34話 精霊の怒り

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 カクとヨクのお屋敷に男達が集まる少し前である。
 舞はベッドに入ったが中々寝付けなかった。

 精霊にお屋敷の防御をお願いしたので安心のはずだったが、やはり不安は拭いきれなかった。
 そんな時である。
 胸元が暖かくなったので、小袋の中の種を手のひらに取り出すと、すぐに小さな精霊が現れたのだ。

「舞、起きてましたか?
 お屋敷の周りに不審な者達が集まっています。
 早く二人も起こした方がいいです。」

 お屋敷に張り巡らせている蔓が目となり、周りを監視していたのだ。
 そして不審な者を確認し、精霊の知る事となったのだ。
 私はローブを羽織るとカクとヨクを起こしたのだ。
 そして一階に向かうと、何やら外でバタバタとする音が聞こえてきた。
 
「このお屋敷の周りの蔓が対抗しているようですね。
 風の盾も効果的に働いているようです。
 ・・・大丈夫です。
 そんな簡単には入ってくることは出来ませんから。」

 私の肩に乗っている小さな精霊はそう言って、安心させてくれたのだ。
 少しすると静かになり、外の不審者達も諦めていなくなったのかと思ったのだ。
 しかしその時、精霊の顔色が変わったのだ。
 そして何やら嫌な匂いが漂い出したのだ。

「なんて事を・・・」
 
 精霊はそう言い、青年の姿に変わったのだ。
 起きてきたヨクとカクもこの匂いで、すぐに何処かが燃えている事がわかったのだ。
 窓越しに明るい光が見えたのだが、それは明らかに炎だったのだ。
 お屋敷自体は丈夫なレンガのような素材で作られていたので、すぐに燃え広がることはなかった。
 だが、対抗してくる蔓を焼き払おうと思ったのか、植物にとってはかなりのダメージになったのだ。
 優しく美しい顔の精霊の表情が、今まで見たことも無いような顔になったのだ。
 それは怒りを全面に出した姿だった。

「許さない・・・
 私や舞の生活を脅やかすばかりか、私の一部とも言えるものを焼き払おうとするなど、許せる事では無い。」

 精霊はそう言って窓越しに外を見ると、精霊の瞳が薄水色から漆黒に染まったのだ。
 すると外で逃げようとする不審者達に向け、逃がすまいと蔓を勢い良く伸ばしていたのだ。
 そして不審者達を捕まえると、身体中を締め付けるように蔓が巻き付いているのが窓越しから見えたのだ。

「精霊!やめて。
 もういいわ。
 このままでは死んでしまう。
 人間の身体は弱いものなのよ。
 それに、その人達より炎をどうにかしなくちゃ。
 精霊!
 私の声が聞こえる?」

 私は精霊の腕を掴んで揺すったのだ。
 しかし、その目は外を向いていて、私を見ようとしなかったのだ。
 私は二階の部屋に駆け上がると、自分の鞄からある薬を取り出し、急いで戻ったのだ。
 そして、今は青年の姿の実体のある精霊に向けて、その薬を押し付けたのだ。

 それはブクリョウ、センキュウ、チモ、カンゾウ、サンソウニンそして、水の鉱石の粉末、光の鉱石の粉末を調合したもの。
 本来不眠症や神経症に使われる漢方薬なのだ。
 精霊は一瞬身体が光で包まれると、その場にゆっくりと倒れたのだ。
 そしてみるみる小さな精霊の姿に変わり、それと同時に外の蔓もあっという間に力が無くなったようで、小さくなった後消え去ったのだ。

 窓から外を見ると、数人の不審者達が逃げていくのが見えて、色々な意味で私はホッとしたのだ。
 そしてすぐにカクは外に出て、お屋敷の状態を見に行ってくれたのだ。
 燃えていたのはほとんど蔓だったようで、それが消えた事で炎も無くなり、お屋敷自体に大きな被害は無かったようだ。

 私は精霊を客間のソファーに寝かせて、目が覚めるのを待ったのだ。

「精霊は怒りで我を忘れていたようだな、舞。」

 ヨクは私の肩に手を置き、言葉をかけてくれた。
 私が不安そうにしていたのを察してくれたようなのだ。

「こんな姿、初めて見たわ。
 いつも私よりとても冷静で誠実なのよ。
 どうしたんだろう。
 何だか・・・心配だわ・・・」

「まだまだ精霊の心も成長途中なのでは無いだろうか。
 自分や大事な舞を傷つけようとする者が、許せなかったのだろう。
 舞なら精霊の成長を、良い方向に導いてあげれると思うがな。」

 ヨクはそう言って私に微笑んでくれたのだ。
 確かに少し前までは少年のような精霊であった。
 今は思春期みたいなものだろうか?
 私は少しだけ不安な気持ちが落ち着いたのだった。

 
 
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