私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤

文字の大きさ
上 下
17 / 164
第1章 薬師大学校編

17話 三つの世界

しおりを挟む
『指輪に宿し者』はゆっくりと語り始めた。

「舞、この人間達がいる世界と魔人達のいる世界、どう思う?
 転移の洞窟により繋がっており、別の世界である事は知っているな。
 そうそう、あの翼人の世界も・・・
 だが、どうだ。
 よく考えるとこの三つの世界は似ている部分が多いと思わないか?
 この世界と舞の住んでいた世界とは大きく違うところがあるだろう。
 それに比べてこの三つの世界はどうだ?
 違和感が少ないとは思わないかい?

 かつてと言っても、気が遠くなるほどの昔のことだ。
 人間や魔人は勿論、精霊達も存在する前の話なのだ。
 その時はまだこの世界が三つに分かれてなかったのだ。
 ああ、つまりこれらの世界は一つだったのだ。

 そこには、『光』と『闇』そして『大地』だけが存在した。
 そして時間と共にその三つは干渉し合い、風、火、水などを作り出した。
 我らもその時、生まれたのだよ。
 光り輝く石としてな。
 そして時間と共に自我を獲得して、今は人に似せた実体を作り出す事が出来る様にまでなったのだ。
 その間に色々な生命の誕生があり、この世界は素晴らしい進化を遂げていったのだよ。

 だが、三つが混じり合い出来た我らと違い、闇と大地だけで生まれた存在があったのだ。
 光の存在しない彼らは、我らがいた世界に一緒にいる事が出来なかったのだ。
 我らは生存する上で、自分達でエネルギーを作り出そうとしたが、彼らは闇に隠れエネルギーが必要な時のみ現れ、我らを侵食してエネルギーを得ていたのだ。
 それを長い間繰り返していた。

 だが、それを許さない者がいたのだ。
 この世界が出来た時から存在する『光』『闇』『大地』の意志と言うべき存在は、長い年月が経っても消えてはいなかったのだ。
 そしてついにこの世界を三つに分け、それぞれが干渉しない異世界へと変えてしまったのだ。
 『大地と闇から生まれし者』達がいる場所は、自分達以外は何の生命も存在しない世界にされてしまったのだ。
 その為、エネルギーの得られない彼らは、眠るように静かに闇に溶け込んでいたのだ。

 ところが生命力とはすごいもので、時が過ぎると何も無かったその世界から昔と同じように生命が誕生したのだ。
 その世界はあっという間に他の二つの世界と変わらぬくらいの豊かな土地となったのだ。
 それに気づいた『大地と闇から生まれし者』達は、また動き出したのだ。
 そこでエネルギーをまた得ることが出来るようになり、弱っていた彼らも少しずつ力にを取り戻したという事だ。
 舞達の言っている黒い影は彼らの一部なんだと思うぞ。
 
 そしてもともと一つであった世界が引き寄せるように、三つの世界は今や簡単に行き来できる状況となったわけだよ。
 魔人達がいくつかの異世界に転移できる方法を得た事は知っていたが、あの世界を選んで移り住んだのも偶然では無かったのかもしれないな。」

 『指輪に宿し者』は一気に話したのだ。
 私は何だかすごい話を聞いてしまって、言葉が出なかったのだ。
 これはきっと誰も知らない話なのだろう。
 私が知って良かったのだろうかと不安になるくらいであった。
 それにその黒い影達が、この『指輪に宿し者』と同じくらい昔から存在しているのであるなら、到底私たちが敵う相手ではないと思うのだ。
 
「今回、その黒い影達は私達のエネルギーを吸い取るのではなく、操る方向になっていたのです。
 どんな意志があるのか・・・
 どうであれ、主たる者はとても強い存在であるのは確かだろうし、私達がどうにかできるものではないのでは・・・」

 『指輪に宿し者』はぬいぐるみを持ちながら、笑ったのだ。

「あはは、舞がそんな事を言うとはな。
 持っている力だけが全てではない事は、よく知っているだろう。
 舞自身がそうではないか。
 どうすれば良いかは、自分達で考えなければならないが、何もせずに悲観的になる事はないと思うぞ。
 それに、いざとなれば我らがいる。
 本当に助けが必要な時は呼んで良いのだぞ。
 だがまずは考える事だな。」

 確かにそうなのだ。
 何の力もない人間の私でも、何か力になれる事はあるはず。
 今度の事もみんなで先ずは考えなければいけないのだ。

「そうそう、彼らが我々と一緒にいられなかった理由・・・それは強い光だ。
 だから、きっと光が舞達の助けになる事は確かだと思うぞ。」

 持っているぬいぐるみをいじりながら、忘れていたかのように『指輪に宿し者』は重要な話したのだ。
 強い光・・・
 きっと何とかなるはず。

 私はぬいぐるみをプレゼントして良かったと思ったのだ。
 また、父のところに戻った時はいくつか購入しておこうと本当に思ったのだ。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました

ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。 そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。 家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。 *短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

異世界でネットショッピングをして商いをしました。

ss
ファンタジー
異世界に飛ばされた主人公、アキラが使えたスキルは「ネットショッピング」だった。 それは、地球の物を買えるというスキルだった。アキラはこれを駆使して異世界で荒稼ぎする。 これはそんなアキラの爽快で時には苦難ありの異世界生活の一端である。(ハーレムはないよ) よければお気に入り、感想よろしくお願いしますm(_ _)m hotランキング23位(18日11時時点) 本当にありがとうございます 誤字指摘などありがとうございます!スキルの「作者の権限」で直していこうと思いますが、発動条件がたくさんあるので直すのに時間がかかりますので気長にお待ちください。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

処理中です...