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第1章 薬師大学校編
11話 黒い穴
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薬師大学校に二人の魔人が現れる少し前の事である。
魔人の国ではアクアがスピネルを探していた。
アクアは城中を探したのだが、姿が見えなかった。
スピネルの気配すら、城内には感じる事が出来なかったのだ。
仕方がないので、アクアは一人で出かける事にしたのだ。
この魔人の国は岩山が連なっているのだが、その先にアクアは行った事がなかった。
他の魔人達と違いアクアは最近魔人の国に来たので、この世界の事があまりわからなかった。
アクアは少し前まで、今の人間達が住んでいる世界にいたのだ。
それもかつての魔人の城の地下に、静かに眠っていたようなものなのだ。
人間達との争いの時に、実体が消滅して核だけの存在となっていた。
そして五百年という長い年月をかけて復活を遂げたのだ。
そんな時まだ弱っているアクアは偶然現れた舞に助けられ、ブラックと再会する事が出来たのだ。
だから、今の魔人の国に来たのはほんの少し前なのだ。
五百年前に起きた人間との争いの末、今までいた世界を捨ててこの世界に魔人達が移住したのだ。
もちろん、ブラックがこの世界が危険でないことや、知的な生き物の国などがない事は確認済みのはずだった。
・・・だが、森の精霊や翼国とつながる転移のトンネル、黒い影の集合体など、わからない事がいくつかあったのだ。
まだまだ知らないことも沢山あるのかもしれない。
だから、アクアはスピネルと色々なところに出掛けて、この世界をもっともっと知りたかったのだ。
アクアは城の中庭に出てドラゴンの姿に変わると、大きな翼を羽ばたかせ空に飛び立ったのだ。
アクアはドラゴンの民と呼ばれる種族の唯一の生き残りなのだ。
人型の姿が青年に成長したのと同じように、ドラゴンの姿も立派な光る紺色のウロコを身に纏い、とても威厳のある姿になっていたのだ。
そしてあっという間に、今回行く予定だった草原の先の岩山に着いたのだ。
しかし、岩山の頂上の天候は城の周辺とは全く違っていた。
城のある魔人の国の中心は、春を思わせる気候で年中過ごしやすい場所であった。
だが今アクアがいる場所は強風が吹き荒れて気温も低く、居心地の悪い場所であった。
頂上から反対側を見ると大部分が砂漠となっており、草木も殆どなく特に面白いものがある様には見えなかった。
しかし目を凝らすと、遠くに一箇所だけ小さな黒い穴の様な物が黒く光って見えるのだが、砂漠の中にあるというのがとても不似合いに感じたのだ。
とりあえずそこまで行ってみようと、翼を広げた時である。
『アクア、そっちに行ったらダメだ!』
急に思念が伝わってきたのだ。
それは明らかに、スピネルのものであった。
だが、スピネルの気配はあるものの、周りを見てもスピネルを探す事が出来なかった。
『アクア、人型に戻って!』
アクアは見えないスピネルの指示のもと、青年の姿に戻ったのだ。
するとすぐ後ろからアクアが現れたのだ。
そして、二人は岩陰に隠れたのだ。
「アクア、気配はあるのだが全く見つけられなかったぞ。
どういう事だ?
それに城で待っていたのにすでにここに来ているとは・・・」
アクアはそう言って面白くない顔をしたのだ。
「ああ、悪かったよ。
でも、今から話す事をしっかり聞いてくれ。
後でブラックに報告しなくちゃいけないと思うんだよ。」
アクアはスピネルの真面目な口調から、何か問題が起きている事が感じられたのだ。
スピネルはアクアと城で待ち合わせる前に、人間の国に繋がる転移の洞窟の近くに来ていた。
ここには屋台のようなお店が色々並んでおり、転移の洞窟を行き来する者達で賑わっていたのだ。
スピネルは面白いものはないかと、物色していたのだった。
しかし城に戻ろうと思った時、あの嫌な気配を感じたのだ。
その気配がする方向に行ってみると、そこには人間の商人の団体が歩いていたのだ。
これから洞窟を通って人間の国に帰るところの様だった。
だが、その背後にあの黒い影の集団を見る事が出来たのだ。
どう見ても、人間に入り込み侵食しようとするところだった。
スピネルはドームを作り黒い影達を隔離しようと思ったのだが、その影達に気付かれ逃がしてしまったのだ。
その後スピネルはすぐにそれを追ってここまで来たのだ。
そして、その黒い影の集団はこの岩山を超えると、あの黒い穴へと吸い込まれるように入っていったらしい。
「だが、姿が見えなかったのはどう言うわけだったのだ?」
「実は身の回りの風と光の屈折を使って、姿を見えないようにしたんだよ。
あの黒い穴に近づくなら見えない方がいいかと思ってね。
だから、アクアも僕の近くにいてくれよ。」
スピネルは火を操る力に優れた魔人なのだが、風を操る力も持っていて、アクアとは違うが空中に浮かんだり飛ぶ事が出来るのだ。
それ以外にも、姿を見えなくする事が出来るとは、アクアも知らなかった事だった。
やはり以前の黒い影と違い、自我だけでなく知恵も備えているとスピネルは感じたのだ。
人間に入り込もうとしたが、魔人を見ると逃げるあたりがそれを物語っていたのだ。
以前の森で遭遇した影達とは全く違うのだ。
だから穴に近づくにも、慎重にならなければとスピネルは考えた。
アクアとスピネルは姿を隠しながら、砂漠に不似合いな黒い穴に少しずつ近づいたのだ。
すると、何処からか他の黒い影達もやってきて、またその穴に吸い込まれるように入って行ったのだ。
しかしよく見ると、段々とその穴が小さくなっている事に二人は気づいた。
急いで近くに行った時にはかなり黒い穴は小さくなって、最後には何もなかった様に消えてしまい、周りと同じ砂地に変わってしまったのだ。
それはまるで何かの入り口が閉じたように感じられたのだ。
アクアとスピネルは穴のあった辺りを見回したが、何も見つける事は出来なかったのだ。
二人は城に急いだのだ。
魔人の国ではアクアがスピネルを探していた。
アクアは城中を探したのだが、姿が見えなかった。
スピネルの気配すら、城内には感じる事が出来なかったのだ。
仕方がないので、アクアは一人で出かける事にしたのだ。
この魔人の国は岩山が連なっているのだが、その先にアクアは行った事がなかった。
他の魔人達と違いアクアは最近魔人の国に来たので、この世界の事があまりわからなかった。
アクアは少し前まで、今の人間達が住んでいる世界にいたのだ。
それもかつての魔人の城の地下に、静かに眠っていたようなものなのだ。
人間達との争いの時に、実体が消滅して核だけの存在となっていた。
そして五百年という長い年月をかけて復活を遂げたのだ。
そんな時まだ弱っているアクアは偶然現れた舞に助けられ、ブラックと再会する事が出来たのだ。
だから、今の魔人の国に来たのはほんの少し前なのだ。
五百年前に起きた人間との争いの末、今までいた世界を捨ててこの世界に魔人達が移住したのだ。
もちろん、ブラックがこの世界が危険でないことや、知的な生き物の国などがない事は確認済みのはずだった。
・・・だが、森の精霊や翼国とつながる転移のトンネル、黒い影の集合体など、わからない事がいくつかあったのだ。
まだまだ知らないことも沢山あるのかもしれない。
だから、アクアはスピネルと色々なところに出掛けて、この世界をもっともっと知りたかったのだ。
アクアは城の中庭に出てドラゴンの姿に変わると、大きな翼を羽ばたかせ空に飛び立ったのだ。
アクアはドラゴンの民と呼ばれる種族の唯一の生き残りなのだ。
人型の姿が青年に成長したのと同じように、ドラゴンの姿も立派な光る紺色のウロコを身に纏い、とても威厳のある姿になっていたのだ。
そしてあっという間に、今回行く予定だった草原の先の岩山に着いたのだ。
しかし、岩山の頂上の天候は城の周辺とは全く違っていた。
城のある魔人の国の中心は、春を思わせる気候で年中過ごしやすい場所であった。
だが今アクアがいる場所は強風が吹き荒れて気温も低く、居心地の悪い場所であった。
頂上から反対側を見ると大部分が砂漠となっており、草木も殆どなく特に面白いものがある様には見えなかった。
しかし目を凝らすと、遠くに一箇所だけ小さな黒い穴の様な物が黒く光って見えるのだが、砂漠の中にあるというのがとても不似合いに感じたのだ。
とりあえずそこまで行ってみようと、翼を広げた時である。
『アクア、そっちに行ったらダメだ!』
急に思念が伝わってきたのだ。
それは明らかに、スピネルのものであった。
だが、スピネルの気配はあるものの、周りを見てもスピネルを探す事が出来なかった。
『アクア、人型に戻って!』
アクアは見えないスピネルの指示のもと、青年の姿に戻ったのだ。
するとすぐ後ろからアクアが現れたのだ。
そして、二人は岩陰に隠れたのだ。
「アクア、気配はあるのだが全く見つけられなかったぞ。
どういう事だ?
それに城で待っていたのにすでにここに来ているとは・・・」
アクアはそう言って面白くない顔をしたのだ。
「ああ、悪かったよ。
でも、今から話す事をしっかり聞いてくれ。
後でブラックに報告しなくちゃいけないと思うんだよ。」
アクアはスピネルの真面目な口調から、何か問題が起きている事が感じられたのだ。
スピネルはアクアと城で待ち合わせる前に、人間の国に繋がる転移の洞窟の近くに来ていた。
ここには屋台のようなお店が色々並んでおり、転移の洞窟を行き来する者達で賑わっていたのだ。
スピネルは面白いものはないかと、物色していたのだった。
しかし城に戻ろうと思った時、あの嫌な気配を感じたのだ。
その気配がする方向に行ってみると、そこには人間の商人の団体が歩いていたのだ。
これから洞窟を通って人間の国に帰るところの様だった。
だが、その背後にあの黒い影の集団を見る事が出来たのだ。
どう見ても、人間に入り込み侵食しようとするところだった。
スピネルはドームを作り黒い影達を隔離しようと思ったのだが、その影達に気付かれ逃がしてしまったのだ。
その後スピネルはすぐにそれを追ってここまで来たのだ。
そして、その黒い影の集団はこの岩山を超えると、あの黒い穴へと吸い込まれるように入っていったらしい。
「だが、姿が見えなかったのはどう言うわけだったのだ?」
「実は身の回りの風と光の屈折を使って、姿を見えないようにしたんだよ。
あの黒い穴に近づくなら見えない方がいいかと思ってね。
だから、アクアも僕の近くにいてくれよ。」
スピネルは火を操る力に優れた魔人なのだが、風を操る力も持っていて、アクアとは違うが空中に浮かんだり飛ぶ事が出来るのだ。
それ以外にも、姿を見えなくする事が出来るとは、アクアも知らなかった事だった。
やはり以前の黒い影と違い、自我だけでなく知恵も備えているとスピネルは感じたのだ。
人間に入り込もうとしたが、魔人を見ると逃げるあたりがそれを物語っていたのだ。
以前の森で遭遇した影達とは全く違うのだ。
だから穴に近づくにも、慎重にならなければとスピネルは考えた。
アクアとスピネルは姿を隠しながら、砂漠に不似合いな黒い穴に少しずつ近づいたのだ。
すると、何処からか他の黒い影達もやってきて、またその穴に吸い込まれるように入って行ったのだ。
しかしよく見ると、段々とその穴が小さくなっている事に二人は気づいた。
急いで近くに行った時にはかなり黒い穴は小さくなって、最後には何もなかった様に消えてしまい、周りと同じ砂地に変わってしまったのだ。
それはまるで何かの入り口が閉じたように感じられたのだ。
アクアとスピネルは穴のあった辺りを見回したが、何も見つける事は出来なかったのだ。
二人は城に急いだのだ。
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