私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤

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第1章 薬師大学校編

07話 授業初日

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 舞の学生生活が始まった。
 基本、この学校を卒業するためには必要な単位のようなものがあるのだが、舞はそれとは関係なかったので、興味がある授業を受ける事が出来たのだ。
 自分の受けるカリキュラムは自分で決める事になっているので、誰もが同じように受けるわけではなかった。

 
 昨日説明会でもらった資料を見ながら、私はどの講義を受ける事にするか悩んでいた。
 まずは人間学、その名の通り人間の体についてだ。
 舞の知っている情報とどれだけの差があるかをまずは知りたかった。
 この世界はCTやMRIはないのだ。
 レントゲンで見たり血液検査すら出来ないのだ。
 ここでの常識が実際とは違う事があっても、それを証明するすべを持たないのだ。
 だから、体の作りや病気について自分が知っている事と違っても、口を出す事や否定するべき事では無いと思った。
 もちろん、その時の状況にもよるのだが。

 薬草学も興味があった。
 内容もそうであるが、これはカクが教壇に立つと言うので、それを見るだけでも楽しみであった。
 普段とは違う、仕事をするカクを見たかったのだ。
 そして、いくつか気になる授業があったが、中でも気になったのが魔鉱力学・・・
 この世界で採掘される不思議な鉱石やそれを用いた武器や道具などの技術について学んでみたかったのだ。
 なぜあの魔法陣が光の鉱石と加わる事で、異世界に転移出来るか知りたかったのだ。
 公にはなっていないが、ハナさんが五百年前には作り出していたもの。
 本当はその研究資料があれば良かったのだが、ケイシ家にもそれは残っていなかったのだ。
 あえて、残さなかったのかもしれないのだが・・・

 私は授業初日早めに登校し、資料を見ながら学校内を歩き回っていた。
 学内は本当に城と同じようなヨーロッパ調の内装で、美術館や博物館を思わせるものであった。
 しかも、廊下には高価そうな置物や絵画が飾られていたのだ。
 そして各教室の出入り口は趣のある大きな扉で出来ていた。
 私は目に映る物全てが興味深く、歩いているうちにいつの間にか四階まで上がっていたのだ。
 奥には植物園の様な明るい温室があり、そこには薬草が栽培されているようだった。
 そして廊下を少し歩いた時である。
 ふと嫌な気配を感じたのだ。
 振り向くと、他と同じような大きな扉があるのだが、そこには立て札があり、関係者以外立ち入り禁止と書いてあったのだ。
 カクに読み書きを習って良かったと思った。
 自分には特殊な能力があるわけでは無いが、嫌な雰囲気には敏感なのは確かなのだ。
 それも、この感覚・・・
 そう思った時である。
 何かが私の肩に触れたのだ。
 私は驚いて振り向くと、そこにはカクがいたのだ。

「カク、驚かさないでよ。
 心臓が止まるかと思ったわ。」

「ああ、ごめん、ごめん。
 真剣に立て札を読んでいたから、声をかけない方がいいかと思ってね。」

「カク・・・ここは何?
 何だか嫌な気配を感じるんだけど。
 私だけかな・・・」

「いや、以前からここに来ると何だか寒気がして、不快な感じがしてたから、なるべく近づかないようにしていたんだよ。
 僕は危機回避能力は結構あるからね。」

 カクが自慢げにそう話すのが少しおかしかった。
 どうもこの部屋はカクがここで講師をする前から立ち入り禁止であり、何の部屋なのかもわからないと言う。
 学生の時にはこんな立て札は無かったようで、特に気になる部屋では無かったようだ。
 そして今回もらった学内の施設地図にもこの部屋の詳細は載ってないのだ。
 その時、授業を知らせる鐘が鳴ったのだ。

「舞、遅れるよ、行かないと。」

 私は後ろ髪惹かれる思いではあったが、授業に遅れるわけにはいかなかった。
 だが、これから始まる授業はカク先生の薬草学であったから、まだ先生がここにいる訳で遅刻にはならないのだ。
 私達は急いで教室に向かう為、階段へと走り出したのだ。

              ○

              ○

              ○

 
 授業開始の鐘の音が鳴り終わる頃、ギーッと重そうな扉が開く音が四階の廊下に響いた。
 それはちょうど、舞とカクが急いで階段をかけ降りて行くところだった。
 立ち入り禁止の扉を少しだけ開けて、部屋から二人を静かに見ている者がいたのだ。
 
 

 
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