薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤

文字の大きさ
上 下
162 / 181
第5章 闇の遺跡編

162話 二つの思い

しおりを挟む
 森の主がパラシスに近寄ると、結界の中のパラシスは諦めたように口を開いた。
 パラシスは邪なエネルギーを増やすために仕掛けた事はあるが、一番最初はそこまで意図して無かったと話し出したのだ。


 私は、初めて訪れた時と全く違っていた森を見て、何が起きたのか気になったのだ。
 そして、邪な存在になりつつある森の主を見て、今なら取り入ることができると思ったのだ。
 そしていずれはこの森全体を侵食し、再度エネルギーを吸い取ろうと考えていた。

 それまでは本当にどんなエネルギーでも吸収すれば、自分の存在を維持する栄養でしかなかった。
 しかし、この森の主のエネルギーを吸い取り始めた時、一緒にあるもが私の中に流れてきたのだ。
 それは、安らぎや幸福感・・・
 今まで感じたことがなかったものであった。

 そしてそれを何度も味わいたいと思い、邪なエネルギーを増やすにはどうしたら良いか考えたのだ。
 村人の態度が、この森の主に黒いものを増やす元凶となった事を知った私は、村人達を上手く先導したのだ。
 このような森にした責任はこの主であり、責任を取らせるべきだと声を上げるように促したのだ。
 また、安易に近づいてはいけないとも話し、村人と森の主の距離を広げ、ますます孤独になる様に仕向けたのだ。
 そして、頼れるものは私だけであると思い込ませるようにしたのだ。
 そうする事で、簡単に森の主は邪なエネルギーを差し出す事となり、私は難なくエネルギーを吸収することが出来たのだ。
 それも今までとは違った、私の心を満たすような幸福感も併せ持つエネルギーで、私はここから離れることが出来なくなったのだ。

 だが、ここしばらくはそんなエネルギーを頂くことが出来ず、私はとても飢えていたのだ。
 ただのエネルギーでは満足できなくなっていたのだ。
 私にエネルギーを与え続けた森の主もどんどんと弱っていったのだ。
 だから、以前と同じような状況を作る事を考えた。
 そのためのも、魔人達のエネルギーを吸収する事で、弱った森の主を復活させ、邪なエネルギーを作り出して欲しかったのだ。
 私は森の主に、そう本当の事を伝えたのだ。

 これで・・・もう終わりだ。
 ここにいる意味はもうないのだ。
 あの幸福感はもう、二度と得られる事は無いのだろうか。
 やはり・・・このままでは終われない。
 そうだ、あの二人はまだ私の手の中なのだ。
 もう一度だけ・・・
 

              ○

              ○

              ○

 森の主はパラシスの話を聞き、なんて自分は愚かであったのだろうと思った。
 しかし、そこには怒りは無かったのだ。
 先程までは自分の中に久し振りに黒いものが増えていく感覚があった。
 疑いや怒りから邪なエネルギーが増えていく事が止められなかった。
 しかし、急に私は綺麗な金色の光に包まれたのだ。
 それと共に、私の心が穏やかになり、変化した風貌も元の姿に戻っていったのだ。
 初めは何が起こったのかわからなかったが、どうも私の本体である薔薇の幹に何かが起きたようなのだ。
 魔人達が少しの間姿を消した事がわかってはいたのだ。
 多分、彼らが魔法のようなもので、私を落ち着かせてくれたのだろうと思った。
 その後も、パラシスの話を聞いても、心乱れる事はなく、冷静でいられたのだ。
 パラシスが邪なエネルギーを吸い取ってくれた事で、私は自分を保つ事が出来たのは事実なのだ。
 私は冷静に考えると、仕掛けられたものではあったかもしれないが、それに乗せられた自分が弱かったのだ。
 だから、パラシスを責めるだけでなく、感謝すべき部分はあると思うのだ。
 そして、私は拘束している二人を解放するのであれば、このままパラシスを逃そうと思ったのだ。

「パラシス、今捕らえている二人を解放してくれ。」

 私は冷静に話すと、パラシスは黙って頷いたのだ。
 私の力が強ければ、パラシスの空間を消滅させて彼らを助け出すこともできるのに、情けない話なのだ。
 そして私は魔人達を見たのだ。

「先程は、あなた方が私を落ち着かせてくれたのですよね。
 ありがとうございます。
 今は冷静に考える事が出来ます。」

 すると強く美しい魔人が教えてくれたのだ。

「舞のお陰よ。
 私達魔人の力は、相手を攻撃したり、自分を守るだけの事しか出来ないのよ。
 だけど舞の作る薬は身体や心を癒したり、誰かの為になる物なのよ。
 舞に感謝するべきだわ。」

 それを聞いて、この場にそぐわない可愛らしいお嬢さんがいると思っていたが、そう言う事なのかと理解したのだ。

「そうだったのですね。
 ありがとうございます。
 自分を見失わずにすみました。」

 私がそう言うと、そのお嬢さんは大きな黒い瞳をこちらに向けて微笑んでくれたのだ。
 パラシスが二人を解放する為には、結界から出さなければいけなかったので、私は美しい魔人にお願いしたのだ。
 その魔人は了解してくれたが、自然から生まれし者は浮かない顔をしていたのだ。

「それは危険では無いですか?
 もうすぐ私の目となった蔓達が、探し出すと思いますよ。」

 自然から生まれし者はそう言ったが、私はパラシスを信じたかったのだ。
 全てを話してくれた今、彼らを捕らえる理由はもうないのだ。
 私はもう、魔人達のエネルギーをもらっても、パラシスに邪なエネルギーを与えるつもりは無かった。

 もしもの時は、今まで長く一緒にいた私が、全ての責任を取ろうと思ったのだ。
 
 
 
 
 
 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

人生のやり直しを夢見た私は異世界で人生のやり直しを始めた

来実
恋愛
現実世界で人生のやり直しを願った主人公が、別世界で新たな生活を送るシンデレラストーリー。 主人公のみさきは、国の穢れた魔力を浄化し、人々の救済となる存在「マリア」として目を覚ます。 異世界に来てから記憶が抜け落ちた部分はあるものの、ある場所でカイリと出会い、そこからただの日常が急激に変化して行った。 空白の記憶。そこに秘められた過去。 聖女系と溺愛のつもりで書いてます。 前置き長くて4話くらいからどうぞ

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます

みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。 女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。 勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。

森の魔女は女王に何を願うのか

新戸啓
ファンタジー
深い霧に包まれた森の中にある街、ティルナ・ノーグ。 イリスはそこで伯爵家の娘として生まれた。 14歳になったある日、彼女は王に挨拶する機会があり、そこで見初められてしまう。 そしてイリスを側室にという話が出ると、彼女の両親はそれを喜び、娘の意見を聞くことなく男爵家の長男との婚約を解消してしまった。 あまりに身勝手な両親に、イリスは堪らず家を飛び出した。行く宛もなく森に迷い込んだ彼女は、そこで魔女と出会う。 森の魔女はイリスに街の真実の姿を語り、さらに森の外側の世界に触れる機会を与えた。 イリスは外側での生活の中で、多くの人と出会い、異なる文化に身を置くことで故郷の歪さを知ることになる。 やがて時は流れ、恋も経験し、成長したイリスが故郷に戻ったときに下す決断とは……。 全28話、5万字程度の作品になります。 ご都合な展開もありますが、細かいことは気にせずに雰囲気を楽しんで頂ければなと思います。 これは小説家になろう様に投稿してた同名の作品を書き直したものとなります。 この世界観が気に入って頂けたのならば、同シリーズである『蒼穹の魔女は天才魔法工学技師《マギアクラフター》を振り向かせたい!』も読んで頂けたら幸いです。下記がリンクとなります。 https://ncode.syosetu.com/n3467hk/

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

処理中です...