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第4章 火山のドラゴン編

137話 舞の気持ち

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 私達は封印の石を精霊に預け、魔人の城に戻ったのだ。
 城に着くと、ネフライトが本物のブラックが帰って来たことにとても喜んでいたのだ。

「お待ちしておりましたよ、ブラック様。
 やるべき事が沢山ありますので、よろしくお願いいたします。」

 確かに、ドラゴンの中身のブラックでは、王としての執務をこなす事が出来なかったのだろう。
 その為、ジルコンやネフライトで雑務をこなしていたのだと、容易に想像できるのだ。

 ブラックは幹部達を集めると、今回の件について詳しく話したのだ。
 そして最後に、いずれ復活するドラゴンを皆で見守る事にしようと決めたのだった。
 また、人間の王であるオウギ王にもドラゴンの事を話さなければいけないが、時間の遡りについてはここにいる幹部達以外には伏せることにしようと決めたのだ。
 ブラックから後日状況を説明する手紙を送るとの事だった。

 その夜私は魔人の城に泊まり、次の日にカクの家に戻ることに決めた。
 時間の流れが違うにしても、もうそろそろ帰らないと問題になるだろう。
 光の鉱石や魔法陣のことなど色々考えなければならない事はあったが、その夜は全てを忘れ美味しい食事とお酒で心も体も癒されたのだ。
 私は少し飲み過ぎたので、バルコニーに出て酔いを覚まそうとしたら、そこにはブラックが先に一人で風に当たっていたのだ。
 ブラックは私を見ると、微笑みながら歩いて来たのだ。
 私はブラックと二人きりで会うのは久しぶりな感じがした。

「実はブラックからもらったお守りのペンダントが割れてしまったの。
 指輪は無事だけどね。」

 そう言って手に光る指輪を見せたのだ。

「舞を守る事が出来なくて申し訳なかった。
 でも、本当に無事で良かった。
 ドラゴンの良心があったから良かったですが、そうでなければ今頃・・・。」

「私は信じてたから。」

 私がそう言うと、ブラックは笑ったのだ。

「舞らしいですね。
 だから、ドラゴンも心を開いたのでしょうね。」

 私達はその後色々な話をしたのだ。
 今回久しぶりに会っても、ゆっくりと話をする機会がなかったのだ。
 気付くと他の幹部達は別の場所に移動したのか、いつの間にか私とブラックだけになっていた。
 多分気を利かせて消えたのだろう。
 それまでは楽しく話していたが、二人っきりである事に気付くと急に私はブラックを意識してしまったのだ。
 そうなるとブラックを見て話すのが、とても恥ずかしくなったのだ。
 わかってはいたが、ブラックはとても端正で綺麗な顔立ちの素敵な人なのだ。
 そう言えば、ドラゴンが封印されていた岩山ではブラックの方からキスをしてきたのだ。
 あの時は不安や心配で冷静では無かったが、今はその事を考えるだけで自分の顔が赤くなっている気がしたのだ。
 そして、自分の心臓の鼓動が外に聞こえるかのように、ドカドカと鳴っていたのだ。
 私が急に黙ってしまったのを見て、ブラックが私の顔を覗き込んだのだ。

「どうしました?
 具合が悪いのですか?
 飲み過ぎましたかね?」

 そんな風に言われるとますます顔が赤くなったようで、ブラックは私の頬や首筋を触って心配したのだ。

「少し熱っぽいですかね?
 部屋まで連れていきますね。」

 そう言うと私を軽々と抱きかかえ、部屋のベッドまで連れて行ってくれたのだ。
 私は緊張してブラックを見つめると、ブラックは私のおでこにキスをしたのだ。
 
「舞、ゆっくり休んでね。」

 そう言うと、あっさりと部屋を出て行ってしまったのだ。
 また距離が近くなったと思ったのに、そう思っていたのは私だけだったのかもしれない。

 私はため息をついて、窓から見える夜空の星を眺めたのだ。
 私とブラックでは住んでいる世界が違うだけでなく、時間の流れも違うのだ。
 こんな小さな事を考えているのは自分だけなのだろう。
 魔人にとっての100年なんてあっという間の時間でも、私にとっては命が消えていくまでの長い時間なのだ。
 何だかとても切なくなった。
 私もブラックと同じような時間を過ごせる命であったら・・・。
 考えても仕方が無いのだが、ベッドに横になってもブラックの事が気になって中々寝付けなかったのだ。

             ○
 
             ○

             ○


 私は次の日カクとヨクのお屋敷に向かった。
 ブラックが家まで送ってくれたのだ。
 今は転移のための魔法陣は魔人の国の森にしか無いので、帰る時はまた城に寄る事を告げたのだ。

「舞、勝手に帰らないで下さいね。
 必ず、城に顔を出してください。
 約束ですよ。」

 ブラックは念を押して、私を送ると自分の城に戻ったのだ。
 私はお屋敷の扉をノックして声をかけた。

「ただいまー」

 すると、勢いよくカクが駆け出して来たのだ。

「舞、心配したんだよー。
 オウギ様から聞いたよ。
 でも、無事で良かった。」

 カクは私に抱きつき、中々離れようとしなかった。
 そこにヨクが笑いながら二階から降りて来たのだ。

「カク、舞が困っているでは無いか。
 だが、無事で良かった。
 それと、光の鉱石は準備できておるぞ。
 後、舞に見せたいものがあるのだ。」

 そう言うと、お屋敷の外に一緒に来るように言われたのだ。
 来る時は気付かなかったが、そこには新しくなった薬草庫があったのだ。
 この数週間である程度の形まで建て替えることが出来たようだ。
 
「すごい。
 あっという間にここまで作る事が出来るなんて。」

「はは。
 オウギ様にお願いしたのだよ。
 舞と連絡を取るためにも、急ぎ建て替えたいとな。
 そう言ったところ、あっという間に建ててくれた訳なのだよ。」

 ヨクは小声で嬉しそうに話したのだ。

 中に入ると新しい木の匂いと、私が好きな生薬の匂いで充満していたのだ。
 まだ薬草などの類は以前に比べ少なかったが、前と同じように配置にされていたのだ。
 そして、そこには不自然に古い扉を残した本棚があったのだ。

「燃え尽きてなかったの?」

「そうなのだよ。
 扉の一部は少し焼けてしまったが、中は使えそうなのだよ。
 何とかなるといいのだがな。」

 私はもう使う事が出来ないと思っていた秘密の扉が復活していた事が、とても嬉しかったのだ。
 もう、手紙でのやり取りが出来ないと思っていたからだ。
 
「まだ魔法陣の復活までは出来て無いのだが、まあここに舞が来れたのだから、急ぐことは無いのだろう。
 そうそう、どうやってここまで転移できたのかを詳しく聞いてなかったのう。」

「そうですね。
 沢山話したい事があるのです。」

 私がそう言うと、カクは嬉しそうに言ったのだ。

「今日はご馳走だね。
 舞の好きなものを沢山作ってもらうからね。
 さあ、お屋敷に戻ろう。」

 そして私達三人は今までもそうだったように、美味しい食事やお酒を飲みながら色々な話をして夜遅くまで楽しんだのだ。

 ここは、この世界の私の家、二人は家族なのだ。
 
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