薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤

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第4章 火山のドラゴン編

113話 カクとの再会

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 お屋敷の扉を開けたカクは暗い顔で出てきたが、私を見るなり驚きで声が出ないようであった。

「カク、怪我をしてない?
 身体は大丈夫?」

 私がそう言うと、カクはじっと私の顔を見つめたのだ。
 そしてその場で座り込んで、涙ぐんだのだ。

「舞、もう会えないかと思ったよ。
 本当に良かった、良かった・・・」

 カクは私と二度と会えないと思ったらしく、ずっと塞ぎ込んでいたようなのだ。
 食事も喉を通らず夜も眠れなかったので、仕事をする状況ではなかったのだ。
 無精髭にやつれた顔がそれを物語っていた。

 ユークレイスは私とカクの再会を見届けると、オウギ王の元に向かうとのことで、その場から瞬時に移動したのだ。
 ブラックがこっちの世界にいるなら、私も後で会いに行こうと思った。

 カクは落ち着くと身支度をちゃんと整え、やつれてはいたがいつもの調子で現れたのだ。
 カクもヨクも怪我をしていないようでとにかく安心したのだ。
 
「ちゃんと、光の鉱石が届いたんだね。
 扉に入れた後どうなったかわからなくて。
 それに魔法陣も燃えてしまったようだから、もう舞には会えないと思ったんだ。」

 そして薬草庫の話を聞いて、鉱石の粉末以外が灰になったのを、なるほどと納得したのだ。
 カクが危ない中も、光の鉱石を扉に入れてなければ、本当に私はもうこっちの世界に来れなかったかもしれない。
 カクは頼りなく感じるが、いつも私の事を気にかけてくれてとても嬉しかったのだ。

 カクは今回の原因について続けて話した。
 ヨクがオウギ王と共に、今回噴石や被害をもたらした岩山についてブラックから話を聞いたようなのだ。
 そこはアクアの故郷であり、岩山の中には大きなドラゴンが眠っているようで、噴石などはその復活の兆しだと言うのだ。
 それを再度封印するために、ブラックとアクアが向かう話になったと。
 話を聞いただけでも、とても大変なことでは無いかと思ったが、ブラックがいるなら問題はないかとも考えたのだ。
 しかし気になる事をカクは言ったのだ。

「ただ、いつもはドラゴンの民が数人で封印していたみたいだけど、今回生き残っている民は一人だけなんだって。
 前回、封印の失敗があって一人以外はみんな消滅してしまったと聞いているよ。
 ちょっと、不安だよね。」

 ちょっとでなく、だいぶ不安だと私は思ったのだ。
 生き残りは、あのアクアであり、その民が一人しかいないと言うことに。
 いくらブラックがいても、安心とは思えなくなったのだ。

「カク、私、城に行ってくるわ。
 まだブラックがいるかもしれないから、会ってくる。
 何だか心配だし。」

 カクは少し考えて頷いたのだ。

「そうだね。
 とりあえず、城に行って詳しい話を聞いてこよう。
 待ってて、準備するから。」

 私はその間に、不思議な薬を作っておきたかった。
 倒壊した薬草庫には入れなかったが、ヨクの部屋に少量ではあるが鉱石の粉末が置いてあるのを知っていたので、勝手ではあるがそれを使わせてもらい急いで作ったのだ。
 光の鉱石の粉末は転移の時の、残りがあったのでそれを使う事にしたのだ。

 迎えの馬車が来ると、私達は城に向かった。
 私とカクは久しぶりにオウギ王の元に会いに行く事にした。
 到着すると、城の周りは多くの人であふれていたのだ。
 カクの話によると、城のシェルターに家が倒壊して住めない人や怪我人が運ばれてきているらしいのだ。
 私は自分の世界から待ってきた物が少しは役立つのではと思ったのだ。
 オウギ王の所に行く前に、シェルターに立ち寄ると、以前魔獣の騒ぎの時に会った軍医のリョウが忙しく働いていたのだ。
 私は彼に声をかけたのだ。

「お久しぶりです。
 もし使える物があれば・・・」

 私はそう言って、湿布や消毒薬、ガーゼ、包帯、絆創膏、痛み止め、軟膏類など、舞の世界では市販薬の類であるものを色々リョウに見せたのだ。

「舞殿・・・でしたね。
 お久しぶりです。
 また、面白いものを持っておりますね。」

 リョウに使い方や効果について話すとぜひ使ってみたいと言うので、ほとんどを置いて行く事にしたのだ。
 周りを見回すと、大怪我をしている人はなく、擦り傷や打撲程度だったので、不思議な漢方の薬を使うほどの人はいなかった。
 実際、この薬を安易に使うわけにもいかなかったので、ホッとしたのだ。

 私とカクはシェルターを後にし、オウギ王に会いに行ったのだ。
 面会を許され、オウギ王のいる部屋の扉を開けると、ヨクやユークレイスも一緒にいたのだ。

「ああ、舞ではないか。
 久しぶりであるな。」

 相変わらず威厳のある王であったので、会うたびに緊張するのだ。

「ご無沙汰しております。
 この度は大変な状況となり、お気持ちお察しいたします。」

 私が緊張しながら挨拶すると、ヨクが駆け寄ってきたのだ。

「舞、こちらに転移出来たのだな。
 本当に良かった。
 カクが憔悴して、見てられなかったのだよ。
 ああ、カクも元気になったのだな。」

 私は苦笑いすると、岩山の状況を詳しく伺ったのだ。
 すでにブラックとアクアは岩山に向かった後である事を聞いたのだ。
 私はとても心配であったので、行ってみようと思うと告げたのだ。
 みんな、危ないので行くべきでないと言うのだが、どうしても胸騒ぎがするので行かせて欲しいと懇願したのだ。
 ヨクがため息をついて話したのだ。

「舞には負けるのう。
 ちゃんと薬は持っているのかな?」

「ええ、さっきこちらに来る前にちゃんと作ってきました。
 ・・・部屋の中にあった鉱石を少しいただきましたが。
 でも万全です。
 それに、ブラックから貰ったお守りもあるから大丈夫です。」

 私は笑顔で答えると、ヨクは微笑んで頷いたのだ。

「ユークレイス殿、舞を魔人の王の元に連れて行ってくれるだろうか?」

「承知いたしました。」

 ユークレイスはいつもの鋭い目つきの冷静な顔を変えることなく答えたのだ。
 私が助けになることは無いかもしれないが、何となく行かなければ、と言う気持ちになったのだ。
 大人しく帰りを待つ性分ではないのを、ブラックを含めきっと誰もがわかっていることだろう。
 ヨクが了解するとカクは不安げな顔をしたが、誰も反対するものはいなかったのだ。

 そして、ユークレイスにお願いし、今度は始めから腕をしっかりと掴んだのだ。
 そして、私達はオウギ王の部屋から一瞬で消えたのである。
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