薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤

文字の大きさ
上 下
97 / 181
第3章 翼国編

97話 アルゴンの望み

しおりを挟む
 私がアルゴンに薬を使うと、あっという間に焼け焦げた身体がもとに戻っていったのだ。
 しかし意識は戻っておらず、眠っているようだった。
 目が覚めた時に、昔の気持ちに戻っていてほしいと心から願った。
 そしてアルゴンを城に運び、様子を見る事としたのだ。

 ブロムとその父である王は、大臣達と今後の国の方針を決める事にしたのだ。
 アルゴンについては、その後考える事として魔人の王であるブラックに一時預けることとしたのだ。

 偵察に行った兵士によると、白翼人の国の集まっていた兵士達は、国境沿いでの待機は変わらないままであったが、今のところ攻撃の気配は無いと報告してきた。
 こちらからの攻撃が無い限り、動く事はないと思われたのだ。
 そのため偵察部隊のみ国境沿いに残し、他の兵士は城に戻る事になった。

 そして、私やブラックも城に行きアルゴンが運ばれた部屋に向かったのだ。
 すでに、ユークレイスとトルマが先に着いており様子を見ていたのだ。

「どうですか、ユークレイス?」

 ブラックがアルゴンの顔を見ながら確認するとユークレイスはため息をつきながら答えた。

「身体は舞殿の薬で問題ないはずです。
 ですが、目を覚さないのは本人の意思かもしれません。」

 私にはまだ聞きたいことがあったのだ。
 ブロムの妹のリオさんの事だ。
 王家の娘が早く亡くなっている事やリオさんの病について、アルゴンの関与があるかを確認したかったのだ。
 王家を恨むアルゴンであれば、手を下すことがあるのかもしれないが、私は不思議とそれに関しては違和感を感じたのだ。


            ○
  
            ○

            ○


 アルゴンは城に運ばれた後、実は意識を戻しつつあった。

 
 自分のやってきた事が全て無駄になるくらいなら、周りを道連れにして命を絶とうと思っていたのだ。
 しかし、炎の渦に巻き込まれたのは結局自分だけであったのだ。
 所詮は弱い魔人であり、魔人の王達に敵うわけはないのだ。
 少しでもあがいてみたかったが、何も出来ずに終わったのだ。
 カレンの無念をはらす事はできなかったと、炎の中で落胆した時、あの人間の娘が駆け寄ってくるのが見えたのだ。
 
 明るい光が見えた後、何故だかわからないが怒りが消えて
、心が少しずつ落ち着いてきている事に気付いたのだ。
 このまま眠るように消えてしまうのなら、それが一番なのだろうと思ったのだ。

 しかし突如、私の頭の中は懐かしい風景で満たされたのだ。
 それはカレンと初めて会った場所。
 水辺がキラキラと光ってとても穏やかな湖、その周りの木々や岩場。
 昔、よく絵を描きに行った場所が頭に浮かんできたのだ。
 もう、何百年も行ったことは無いはずなのだが、頭の中では不思議と鮮明なのだ。

 その懐かしい風景を感じている時、私はカレンが最後に話したことを思い出した。
 あの時、すでに私のことをわかってはいなかったが、私とあの湖で過ごした時間を楽しげに話していたではないか。
 そして、最後まで恨み言一つ言っていなかったではないか。
 彼女の無念をはらすと思って生きてきたが、あの人間の娘が言ったように、すべては私の怒りや悲しみによる行動だったのだ。
 そう、昔の幸せな時に戻れることが彼女の本当の望みだったのだ。
 私は何をしていたのだろう。

 私がゆっくりと目を開けると、そこには私を心配そうに見る女性がいたのだ。
 カレン?
 いや、そんな訳はないのだ。
 あの人間の娘だったのだ。
 私はあの炎の中から生き残ってしまったようだ。
 身体は痛むところもなく、火傷すら無かったのだ。
 よくわからないが、この人間の娘が救ってくれたように思えたのだ。

 私は全てを受け入れようと思った。
 そして、許されるなら、またあの湖で絵を描いてみたいと思ったのだ。
  
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

刻の短刀クロノダガー ~悪役にされた令嬢の人生を取り戻せ~

玄未マオ
ファンタジー
三名の婚約者候補。 彼らは前の時間軸において、一人は敵、もう一人は彼女のために命を落とした騎士。 そして、最後の一人は前の時間軸では面識すらなかったが、彼女を助けるためにやって来た魂の依り代。 過去の過ちを記憶の隅に押しやり孫の誕生を喜ぶ国王に、かつて地獄へと追いやった公爵令嬢セシルの恨みを語る青年が現れる。 それはかつてセシルを嵌めた自分たち夫婦の息子だった。 非道が明るみになり処刑された王太子妃リジェンナ。 無傷だった自分に『幻の王子』にされた息子が語りかけ、王家の秘術が発動される。 巻き戻りファンタジー。 ヒーローは、ごめん、生きている人間ですらない。 ヒロインは悪役令嬢ポジのセシルお嬢様ではなく、彼女の筆頭侍女のアンジュ。 楽しんでくれたらうれしいです。

アストルムクロニカ-箱庭幻想譚-(挿し絵有り)

くまのこ
ファンタジー
これは、此処ではない場所と今ではない時代の御伽話。 滅びゆく世界から逃れてきた放浪者たちと、楽園に住む者たち。 二つの異なる世界が混じり合い新しい世界が生まれた。 そこで起きる、数多の国や文明の興亡と、それを眺める者たちの物語。 「彼」が目覚めたのは見知らぬ村の老夫婦の家だった。 過去の記憶を持たぬ「彼」は「フェリクス」と名付けられた。 優しい老夫婦から息子同然に可愛がられ、彼は村で平穏な生活を送っていた。 しかし、身に覚えのない罪を着せられたことを切っ掛けに村を出たフェリクスを待っていたのは、想像もしていなかった悲しみと、苦難の道だった。 自らが何者かを探るフェリクスが、信頼できる仲間と愛する人を得て、真実に辿り着くまで。 完結済み。ハッピーエンドです。 ※7話以降でサブタイトルに「◆」が付いているものは、主人公以外のキャラクター視点のエピソードです※ ※詳細なバトル描写などが出てくる可能性がある為、保険としてR-15設定しました※ ※昔から脳内で温めていた世界観を形にしてみることにしました※ ※あくまで御伽話です※ ※固有名詞や人名などは、現代日本でも分かりやすいように翻訳したものもありますので御了承ください※ ※この作品は「ノベルアッププラス」様、「カクヨム」様、「小説家になろう」様でも掲載しています※

噂の醜女とは私の事です〜蔑まれた令嬢は、その身に秘められた規格外の魔力で呪われた運命を打ち砕く〜

秘密 (秘翠ミツキ)
ファンタジー
*『ねぇ、姉さん。姉さんの心臓を僕に頂戴』 ◆◆◆ *『お姉様って、本当に醜いわ』 幼い頃、妹を庇い代わりに呪いを受けたフィオナだがその妹にすら蔑まれて……。 ◆◆◆ 侯爵令嬢であるフィオナは、幼い頃妹を庇い魔女の呪いなるものをその身に受けた。美しかった顔は、その半分以上を覆う程のアザが出来て醜い顔に変わった。家族や周囲から醜女と呼ばれ、庇った妹にすら「お姉様って、本当に醜いわね」と嘲笑われ、母からはみっともないからと仮面をつける様に言われる。 こんな顔じゃ結婚は望めないと、フィオナは一人で生きれる様にひたすらに勉学に励む。白塗りで赤く塗られた唇が一際目立つ仮面を被り、白い目を向けられながらも学院に通う日々。 そんな中、ある青年と知り合い恋に落ちて婚約まで結ぶが……フィオナの素顔を見た彼は「ごめん、やっぱり無理だ……」そう言って婚約破棄をし去って行った。 それから社交界ではフィオナの素顔で話題は持ちきりになり、仮面の下を見たいが為だけに次から次へと婚約を申し込む者達が後を経たない。そして仮面の下を見た男達は直ぐに婚約破棄をし去って行く。それが今社交界での流行りであり、暇な貴族達の遊びだった……。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸
ファンタジー
 普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。  海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。  その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。  もう一度もらった命。  啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。  前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...