薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ

柚木 潤

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第3章 翼国編

96話 精霊の助け

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 アクアを森の主として出現させる前に、私はもらった種に呼びかけ、精霊を呼び出したのだ。

「舞、何かあったのですか?」

 優しい輝きを放つ小さな精霊が、手のひらの種から現れたのだ。
 精霊はキョロキョロして周りを見ると、ブラックが一緒にいる事に気付き、安心して話を続けた。

「また、あまり良い雰囲気でない森にいますね。
 ブラック達がいるので心配はないでしょうが。
 舞、気を付けてくださいね。」

 精霊にはいつも心配ばかりさせているようだ。

「ええ、もちろん。
 実は、お願いがあるの。
 今から黒翼人の兵士たちがこの暗い森に落ちてくるかもしれないの。
 何とか、下まで落ちないようにする事は出来るかしら?
 下まで落ちてしまうと、怪しい生き物がウヨウヨいるのよ。」

 私は戦争を避けるために、ここで兵士たちを止めるつもりである事を話したのだ。
 精霊は下を覗いて少し考えた後、優しく頷いたのだ。

「わかりました。
 ここには沢山の植物があるので大丈夫でしょう。」

 そう言うと種から太い蔓や枝を出現させ、周りの木々と一体化させたのだ。
 それは網目状に生えていき、ネットのようになっており、上から落ちてくる者を受け止めてくれる強度もあるようだ。
 精霊にこの崖一帯をお願いしてみると、それは流石に無理と言うので、一緒に来てもらうことにしたのだ。

 今の精霊は、私の手のひらに乗るくらいの大きさなので、私のポケットに入ってもらうことにした。
 もちろん、これ以上兵士達がこちらに向かって来なければ問題ないのだが、念のためにお願いしたのだ。

 だか残念な事に、兵士達はアルゴンの指示を受け、次々に剣を持って向かって来たのだ。
 国境近くで精霊にお願いして、また木のネットを作ってもらい、兵士達は暗い森の中に落ちる事なく済んだのだ。

 向かってくる兵士達を傷つけないようアクアにお願いし、なるべく下に落とすようにしてもらった。
 しかし、アクアの翼による竜巻に巻き込まれた者は、めまいやふらつきで立ち上がれない者もいたのだ。
 私はある漢方に風の鉱石を入れた薬を、落ちてきた兵士全員に振り撒くようにスピネルにお願いしたのだ。
 それはめまいや耳鳴りなどでよく使う漢方なのだ。
 ただ、改善した後にまた攻撃されても困るので、兵士達が落ちた後また木のネットを作ってもらい、閉じ込めてもらってから薬をお願いしたのだ。
 
 アルゴンのもくろみは、部隊の全滅と言うシナリオだったので、私は絶対に兵士達を死なせる事は避けたかった。
 そして、アルゴンの魔法をユークレイスが解いた後は、精霊にお願いして、木のネットの蓋を無くしてもらい、兵士達が飛び立てる様にしてもらったのだ。
  
 私はアルゴンが何故こんな事をしたかを聞いた時、地下の綺麗な女性の絵が頭に浮かんだのだ。
 それ以外にも魔人の国の素晴らしい風景画など、アルゴンが描いた物である事は明らかだった。
 そんな素敵な絵を描く事が出来るアルゴンを、変貌させてしまった出来事があったのをとても不幸に思ったのだ。
 状況は違うが、プランツ達の事を思い出した。
 何百年も憎しみで生きていたアルゴンをどうにか救ってあげたいと思ったのだ。
 本当の意味で救えるのは、あの綺麗な絵の女性しかいないのだろうが。
 彼女の望みは、きっとアルゴンと生きていた時の幸せな世界。
 アルゴンにはそれに気付いてほしいと思ったのだ。
 
 私はユークレイスにある事をお願いしたのだ。
 彼を力で捉える事は、簡単な事だろう。
 だが、それでは彼は救われないままなのだ。
 
 そう思った時アルゴンが叫んだのだ。

「部隊の全滅が叶わないのであれば、私に出来る事はもう一つしかないのだ。」

 そう言って、不思議な剣を持って自分に向けたのだ。
 彼の全魔力を持って剣の炎を最大とし、この辺り一帯を巻き込み炎で焼け死ぬつもりだったのだ。
 もちろん、王や王子達も道連れに。

 それを見たスピネルは炎が周りに広がる前に、即座にアルゴンを丸いドームで包んだのだ。
 そうする事で周りにいた王や兵士達には被害が出る事は無かった。
 だが、ドームの中に閉じ込められたアルゴンは炎の渦にのまれたのだ。
 すぐにスピネルがドームの火を消したが、魔人と言えども、アルゴンはかなりの重症になったのだ。

 私は急いでアルゴンに駆け寄り、完全回復の薬の球を割り振りかけたのだ。
 すると金色の優しい光にアルゴンは包まれ、みるみる身体の中に吸収されたのだ。
 そして、ユークレイスに先程お願いしたことを試みてもらったのだ。
 それは魔人の国のあの綺麗な湖のイメージをアルゴンに送ってもらい、昔を思い出してもらいたかったのだ。
 
 私はアルゴンの身体だけでなく、心もこの薬で癒される事を願ったのだ。
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