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第3章 翼国編

93話 森の主

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 黒翼人の兵士たちが攻撃に飛び立つ少し前である。

 アクアに乗っていた舞達は大きな木の切り株のような場所で上の様子を伺っていた。

 ブラックがユークレイス達に白翼人の兵士達が集まっていることを伝えたが、予想通りアルゴンは聞く耳を持たなかったと連絡が来たのだ。
 ブロムと王もまだ来る気配がないようで、出撃は避けられない状況であった。

「もう、厳しいですね。 
 王の考えがはっきりしないことには、私たちが何かすることも出来ないですね。」

 ブラックはそう言い、上を見上げたのだ。
 私はふと閃いたことがあった。

「あの・・・関係のないブラックや私達が関与するのは問題だと思うの。
 別の世界の他の国の者な訳だし。
 だけど、この地下の森に住む者であればどうかな?
 地上での戦いにより森に不利益を起こすため、やめるように説得してもおかしくないと思うの。」

「いや、この森にそんな知能がある生き物が住んでいる気配はありませんよ・・・」

 私がブラックから目線をある人物に移すと、ブラックは私が意図することがわかったようだ。
 そして私とブラックはアクアを見たのだ。

「え?何、どう言うことだ?」

 そう、アクアに地下の森の主にでもなってもらおうかと思ったのだ。 

「いや・・・あまり、気乗りしないな。 
 あのイモムシ達の王様ってことであろう。」

「いいえ、黒翼人達が恐れてる地下の森の主となれば、みんながすぐさま平伏すはずだわ。
 それほどすごい立場なのよ。」

 私は大げさに説明したのだ。
 横でブラックが笑うのを堪えているのがわかったが、私は続けた。

「アクアが、その主として力を発揮すれば、きっと戦争も回避することができると思うわ。
 ドラゴンの血を引くアクアにしか出来ないのよ。」

「なるほど、確かにそうかもしれないな。
 わかった、舞。
 やってみることにするぞ。」

 こうして、アクアに地下の森の主になってもらうことにしたのだ。
 そして私は森の精霊にもらった種を出して、精霊の力も借りることにしたのだ。
 私達は計画を練ったのである。

             ○

             ○

             ○


 アルゴンの指示のもと黒翼人の兵士達は、白翼人の国へと続々と飛び立っていったのだ。
 国境と言っても白翼人の国までは数キロ離れており、その間は下が見えない暗い森が広がっているのだ。
 もしも下に落ちてしまえば、未知の生物のえじきになるかもしれないのだ。
 飛べる翼人達であれば全く問題がないのだが、戦いで動けなくなったり、翼が傷ついた場合などは注意しなくてはいけないのだ。
 しかし、黒翼人達はそれぞれ不思議な剣と盾を備え、アルゴンからの思考誘導もあり、全く気にかける様子は無かったのだ。

 2キロほど部隊が進んだところで、さっきまでほとんど吹いてなかった風が、どんどん強くなってきたのだ。
 翼で飛んでいる黒翼人達にとっては、かなり影響があるようだ。
 そして部隊の先頭の兵士の目の前を、急に下から炎の柱のようなものがうねりながら、上空までそびえていったのだ。
 それに驚いて留まっていると、今度は下から大きな黒い生物が回転しながら飛び出してきたのだ。
 それは巨大なドラゴンの様な恐ろしい生き物であったのだ。
 炎はその大きな怪物が吹き出したものであった。
 それを見た黒翼人の兵士達は動く事ができなかったのだ。
 その怪物は兵士達の前に立ち塞がり、見下ろしたのである。
 
「眠りを妨げる者は誰だ。」
 
 その声は地下から響いてくる様な恐ろしい声であった。
 黒翼人達は初めは驚いて固まったままであったが、勇気のある何人かの兵がその怪物に向けて剣を向けたのである。

「我らにはやるべき事があるのだ。
 何者であろうと我らの行手を遮る者は容赦しないのである。」

 そう言ってその怪物に不思議な剣を向けて、戦いを挑んでいったのだ。
 その剣を一振りすると炎のムチのようなものが出現し怪物に向かっていったのだ。
 しかし、何人かが剣を向けたが、炎を吹き出す怪物にとっては全くダメージを受ける攻撃ではなく、翼で風を起こし兵士達は竜巻の様な物に巻き込まれ、暗い森に落ちていったのだ。
 それを見た他の兵士達はその怪物に挑む事は無かったのだ。

「貴様達が争うのは勝手だが、上空から降ってくる戦争の残骸がこの森を傷めるのだ。
 以前の戦いの時も森は荒れ、燃やされ我らは苦しい状況に陥ったのだ。
 また同じ状況にさせるわけには行かないのだ。
 わかったならば、消え去るのだ。」

 そう言うとまた翼を羽ばたかせ、黒翼人達に向けて強い風を放ったのだ。
 兵士達はその場に留まることすら出来ず、数十メートル飛ばされる者や暗い森に落ちていく者など、兵士達は散々な目にあったのだ。
 上手く逃げ延びた兵士達は黒翼人の国境まで戻り、息を切らせながら、アルゴンに伝えたのだ。
 
「アルゴン様、白翼人の国に行く途中、巨大なドラゴンの様な怪物が現れ、部隊は壊滅いたしました。
 どうも、この下にある森の主のようなのです。
 数十名が下に落ちて行き、行方がわかりません。
 下の暗い森には怪しげな生き物が多数存在する場所。
 いかがいたしますか?」

「何としたことか。
 今までそのような怪物が出てきた事が無かったのに。
 まずは体制を立て直すのだ。」

 兵士に休んで冷静になるように伝えると、考え込んでいたのだ。
 アルゴンはドラゴンと聞き、どうも思う事があったようだ。
 そして、その報告を横で聞いていたユークレイスとトルマは顔を見合わせていた。
 二人は是非その怪物を見てみたいと思ったのだ。
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