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第3章 翼国編

83話 アルゴンの誓い

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 この国は黒翼人の国ではあったが、隣に白翼人の国があるのだ。
 以前は白い翼を持つ者を街で見かける事も多かった。
 しかし、国境付近で民間人同士の争いがよく起きるようになってからは、ほとんど見かける事が無くなったのだ。
 それからというもの、国同士はお世辞にも仲が良いとは言えなかった。
 そんな中、何とか国同士の険悪な関係がこれ以上悪化しないように、王様同士の話し合いが持たれ、いわゆる政略結婚で関係を安定させる事にしたのだ。
 つまり、カレンは好きでもない白翼人の王子と結婚するように父である王に頼まれたのだ。

 初めは絶対に結婚しないと言って頑張っていたが、王様から国の為と頼み込まれて、泣く泣く承諾すると言うのだ。
 ただの使用人である私にはどうする事も出来なかった。
 私の国に連れて行ければどんなに良かっただろう。
 しかし、カレンはこの世界にしか住む事が出来ないのだ。
 私は何とか逃げようと持ちかけたが、彼女の意志は変わらなかった。
 自分が逃げる事で、この国に不利益をもたらす事は出来ないと言うのだ。
 カレンは王女である自分の役目と納得して、白翼人の元に嫁ぐ事を決めたのだ。

 ・・・私はしばらく何もする気にはなれなかった。
 大好きだった絵を描くことすら出来なくなってしまったのだ。
 もう、この世界にいる意味が無くなってしまったのだ。
 だが、魔人の国に戻る気にもなれなかった。
 ここにはカレンとの思い出の場所がたくさんあるのだ。
 色々悩んだが、ここにいればカレンの話を聞く事もあるかもしれないと、私はこの世界に留まることにしたのだ。
 
 しかし、カレンが白翼人の国に行って1年くらい経った頃、突如状況が変わったのだ。
 白翼人がこちらの国をいきなり攻めてきたのだ。
 カレンが嫁いだことで、国同士の安定を図ったはずなのに、攻撃を仕掛けた白翼人に王は激怒し、戦争となってしまったのだ。

 私はカレンがどうなったのかが気がかりだった。
 敵国の王女という立場が向こうではどういう事になっているのかと、心配で仕方がなかった。
 そんな中、カレンが戻ってきたと知らせが来たのだ。
 やはり、白翼人の国にいる事は許されず、追い出された形になったのだ。
 私はカレンが戻ってきた事で、自分がここに残る選択をして良かったと思ったのだ。
 しかし状況は良いものでは無かったのだ。

 今回の戦争の原因にカレンが関係しているのではと疑いがかかったのだ。
 つまりこちらの軍備など色々な情報を白翼人の国に流したのでは無いかと、言われはじめたのだ。
 この国の為に自分を犠牲にして嫁いで行ったのに、私にはそんな話がでることがとても信じられなかった。
 しかし、大臣達の疑惑は消える事なく、父である王様もその噂を無視する事が出来なくなったのだ。
 そのため、こちらの国に帰っては来たが、軟禁状態となり辛い尋問も行われ、自由が奪われたのだ。

 そして戦況が悪くなると、国民の間でもカレンがスパイとしてこの国に送り込まれているなど、ありもしない噂がどんどん増えていったのだ。
 それを容認して受け入れている王族も問題であると、暴動が起きるほどであった。
 そんな状況に、どんなにカレンが心を痛めているかと、私はいても立ってもいられなかった。

 私は厨房で働いていたが、カレンに直接会う事は出来なかった。
 だが、食事を届けるメイドに変身して、カレンの元まで行くことに成功したのだ。
 部屋に入り、カレンに声をかけようとしたが、彼女は私の知っているカレンではなかった。
 そこにいる女性は、とても痩せ細り髪の毛もバサバサで以前のカレンからは想像もつかない風貌になっていたのだ。
 うつろな目をして、椅子に静かに座っていたのだ。
 白翼人の国での暮らしや、ここでの軟禁状態、誹謗中傷が彼女を変えてしまったのだろうか。
 
「カレン、大丈夫か?」

 私は元の姿になってそう話しかけたが、私を見ても反応がなかったのだ。
 しかし、何か思い出したように、魔人の国の湖の話をしはじめたのだ。
 私達が初めて会った時の事を楽しげに話し出したのだ。
 それを見て、私は少しホッとしたのだが、カレンは最後にこう言ったのだ。

「知らない人にこんな話、ごめんなさいね。
 昔話を聞いてくれてありがとう。」
 
 私は涙が止まらなかった。
 そう、カレンの心は壊れてしまっていたのだ。
 私の事すらわからなかったのだ。
 ああ、どうしてあの時、私はカレンを連れて逃げなかったのだろう。
 後悔してもしきれなかった。
 だから、これからはカレンの事を近くでずっと見守ろうと誓ったのだ。
 私ができる事を全てしようと決めたのだ。

 ・・・しかし、そう思ってから数週間後、カレンの命が尽きたのだ。
 自己再生力が強くとも、エネルギーの源である食事をほとんど取らなくなってしまったのでは、生きていけないのだ。

 生きる意欲を失ってしまい、自ら命を絶ったのだ。
 
 国の為と自分を犠牲にしてきた結果が、国民から罵られる立場になるなんて、あってはならない事なのだ。
 王族もカレン一人の責任にし、誰も助けを差し伸べなかったのだ。
 父である王様ですら見殺しにしたようなものなのだ。
 私は王族、そしてこの国全てを許す事が出来なかった。

 そして私は復讐を誓ったのだ。
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