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第1章 洞窟出現編

36話 城への脅威

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 私はシンブの行方が気になっていた。
 いったいどこに隠れているのか。
 捕まるのは時間の問題と思われたが、全く行方がわからないようだ。
 手助けした人物がいたとしても、城の中から意識のない老人を外に出すのは、かなりのリスクがある。
 誰かに目撃されてもおかしくないのだ。

 私は一つの考えが浮かんだのだ。
 
 確かに普通の高齢の人間があの薬を浴びれば、すぐに起きる事は無いのだが、それは普通の人間の場合なのだ。
 ・・・もしも、あってはならない事だが、シンブが普通の人間でなかったなら。

 私はヨクに自分の考えを話してみた。

「うーん、その可能性が無いとは言えないが、シンブを若い時からワシは知っているのだよ。
 昔から王室の薬師になるという志のせいか、出世欲や研究欲は強かったのう。
 しかし、今までそんなに不審な事は無かったと思うのだが。」

 確かにヨクは昔からシンブの事を知っているのだ。
 私の考えすぎなのかもしれない。
 
 そんな話をしていた時である。
 城の衛兵が、王様が呼んでいるのですぐに来て欲しいと伝えに来たのだ。
 言われた部屋に着くと、すでにシウン大将など軍幹部の人達は揃っており、オウギ王が私達に気付くと、真剣な顔で話し始めた。

「ああ、ヨク。
 まずい事が起きた。
 率直に言う。
 魔人が現れたのだ。」


「え?ブラックは約束を守らなかったのですか?」

 私はつい驚いて声を上げてしまった。

「あ、失礼しました・・・」

「いや、舞、それがだね、洞窟の警戒は今まで通り行っていたのだが、そこから現れた形跡は無いのだよ。
 正直わからないのだよ。
 これが、魔人の王のブラックの答えなのか・・・。」

 オウギ王も頭を悩ませていたのだ。

「そうですか・・・
 実は、舞と先程話していた事があるのです。
 さっきはそんなはずは無いだろうと話したのですが・・・」
 
 ヨクは私がさっき話した事について、王様に話したのである。
 
「なるほど。
 500年前の生き残りの魔人が今のタイミングで動き出した可能性はあるかも知れない。
 洞窟にしても魔人の王の指示ではないとの話であったし。
 ただ、もしシンブがと考えると、残念でならないな。
 優秀な薬師ではあったからな・・・」

「オウギ様、失礼します。
 現在、城は風の鉱石からなる魔法陣により結界で守られております。対魔人対策の結界ですが、街の方はいかがいたしますか?」

 シウン大将が指示を待っていた。

「ああ、そうだね。念のため、住民には指示されたシェルターに行くように促してくれ。
 狙いはここであるだろうが、被害は最小限に避けたいからね。 
 あと、隣国にも知らせを。
 洞窟出現の時に魔人への対応は一任されているが再度確認を。」
 
 オウギ王が話すと、すぐにシウン大将は部下にテキパキと指示をだした。

 大昔より魔人との窓口はこの国が務めてきたのだ。
 隣国といっても、どこもこの国に比べると小国のためオウギ王の決断に委ねてきたのだ。

「シウン大将、今、魔人はどこにいるのですか?」

 私が聞くとシウン大将は苦笑いをして応えた。

「もう、城の外にいるのですよ。」

「え?でも攻撃を受けてる気配がありませんが。」
 
 魔人がいると言うのに外は静かなのだ。
 シウン大将に外の様子を写す鏡のようなものを見せてもらった。
 カメラの役割をはたす鏡が何箇所かに設置してあり、ここにある鏡に写し出されるようなのだ。
 水の鉱石から作り出されたと言うが、どんな原理かはよくわからなかった。
 それを見ると何人かの人物が写し出されており、明らかに人間の雰囲気ではなかった。
 特にその中にいる3人を見ると、他の魔人とは格が違う雰囲気を感じたのである。

「あの3人・・・。まずいですね。」

 私の言葉を聞いたシウン大将は話し始めた。

「わかりますか?
 舞殿は勘がいいですね。
 あの3人の戦闘能力は多分他とは比べ物にならないと思いますよ。
 身体から発するオーラのようなものが全く違います。 
 戦闘を経験している者であれば、すぐわかるのですよ。
 ただ、待機しているようにも見えるのですが、何かを待っているのか、不明なのです。」

 待っているとしたら、魔人の王ブラックとしか考えられなかった。
 しかし、ブラックと話した舞としては、こんな形で戦いが始まるとはどうしても思えなかったのだ。
 
「・・・魔人の王を待ってるんだよ。
 きっと人間との戦争が答えなんだよ。」

 今までずっと静かにしていたカクは青ざめた顔でつぶやいたのだ。
 
「カク、まだそうと決まった訳じゃないよ。ブラックと話した時、ブラック自体は戦いを望んではいなかったのよ。
 共存を希望していたわ。」

 私はカクに落ち着くように話をした。
 確かに魔人から総攻撃を受ければ、この結界もどうなるかわからない。
 不安なのは当たり前なのだ。

「舞、ちょっとこちらに来てくれるかな?」

 ヨクが優しく声をかけてくれた。

「カクはどうも臆病でダメだな。
 すまんな舞。
 ・・・これを持っていなさい。」

 以前に見た事がある、折り畳んだ古い布と小さな袋を私に手渡したのだ。
 そう、私がこの世界に着いた時に敷いてあった魔法陣の布、そしてこの小袋は中を見なくてもわかる、光の鉱石の粉末が入っているのだろう。

「いいかい、舞。そなたはこの世界の人間では無いのだから、巻き込まれる必要は無いのだよ。
 今すぐここから元の世界に戻った方がいい。」

 ヨクはそう言ってすぐに転移する事を勧めたのだ。

 しかし私は事の状況が何もわからないまま元の世界に戻る事は出来ないと思った。
 それに、私にも力になれる事があるかもしれないと思うのだ。

「ありがとう。
 私のために準備までしてくれて。
 でも、もう少しいてもいいかな?
 あと少しお手伝いさせて。
 本当に危険になったらちゃんと転移するから。
 だから、もう少し居させてください。」

 私はそう言ってヨクに頭を下げた。

「ハッハッ・・・そう言うと思ったよ。
 ただ約束だぞ。
 本当の危険な時は転移するのだぞ。
 舞に何かあったら、マサユキに怒られてしまうからな。」
 
 私は少しだけ微笑んで頷くと、ヨクは王様の方に戻って行った。

 本当にポケットにある闇の薬を使う事が無ければいいのだが・・・。
 私は自分の世界に帰ることよりも、どう薬が使えるかを考えていたのである。

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