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第1章 洞窟出現編

20話 魔人

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 私は何となく、痛いような視線と言うか、気配を背中の方から感じたのだ。

 その方向には洞窟があるのだが、私だけでなくシウン大将も、同じように感じていたようで、すでに洞窟の方向を真剣な顔で見ていたのだ。

 私は振り返ると、洞窟の前に誰かが立っているのが見えた。
 遠目では人に見えたが、オーラのようなものが、普通ではないのだ。
 よく目を凝らしてみると、銀色の光る綺麗な長髪の人間の男性の姿に見えた。
 直感で魔人だ!と感じたのだ。

 その表情は少し笑みを浮かべているように見えたが、その内側の怒りのような思念が伝わってくる気がしたのだ。

 そう、その魔人は怒っているようだった。
 まあ、もちろん魔獣を2体拘束したわけであるし、この魔人がこちらの世界にその2体を放したのであれば、面白くないわけである。

 しかし、疑問に思った。

 あっては欲しくないが、魔人からの攻撃と考えると、もっと大群で押し寄せたり、魔獣も多数引き連れてくると思っていたのだ。
 もちろん、そんな感じで来られたら対応できないのは目に見えているのだが。

 その魔人と思われる者が左の手のひらをこちらの方に向けた途端、強い衝撃が走った。
 私たちの近くにあった、先程魔獣が消えた魔法陣に向けて、大きな力を送ったようなのだ。
 地形がかわるほどの衝撃があり、魔法陣を消滅させたのだ。
 数人が吹き飛ばされたが、私の周りの人たちはなんとか避けることができ、無事であった。

 シウン大将はすぐさま、精鋭部隊に戦闘態勢を取るように指示をした。
 また、弓矢の部隊もその魔人と思われる者を狙い、一斉に矢を放ったのである。
 何本もの矢が目標を捉えようとした時である。

 また、その者が左手をかざすと当たる直前で矢がパラパラと下に落ちていき、一本も目標に到達できなかったのだ。
 
 「まずいな・・・鉱石の武器も歯が立たないとなると、どうしたものか。」

 シウン大将がつぶやいた時、その魔人と思われる者がこちらに向かって話し始めたのだ。

「人間ども、聞くのだ。
 我はかつてこの地に生まれし者。
 人間の策略により、異世界に追いやられたのだ。
 その屈辱、今はらすべきと、この地に舞い戻った。
 我に屈するのであれば、安全は約束しよう。
 しかし、そうでない者は消えてもらうしかないのだ。」

そう、話した時である。

 オウギ王自らが、この地に姿を現したのである。
 横にはヨク達も一緒であるのだ。

「異世界より来たる魔人よ。
 我はこの地を収める、オウギと申す。
 我等の言い伝えでは、確かに大戦があったと伝わっている。
 しかし、その昔は人間と魔人はこの地で共存をしていたときく。
 大戦の時と違い、今の我らは共存を望むものである。
 魔人の王にお伝えできないだろうか。
 まずは、対談を申し出たい。」

 オウギ王はその魔人にまずは対話を申し出たのである。
 王様や幹部との連日の話し合いでは、魔人が来た時の対応として、色々なケースを考えていたようだ。

 先の魔獣の襲撃だけでも、こちら側は楽とは言えなかった。今後、魔獣や魔人が大量にくる可能性があるならば、まずはやはり対話を中心に平和的交渉が出来ればと考えたのだ。
 だからこそ、危険な場所とわかっているが、王直々に現れたのである。

 魔人と人間では圧倒的な戦力の違いがあるのだ。

 その銀髪の魔人は横目でオウギ王を見ていたが、向き合おうとはしなかった。

「こちらの王は人間の話などは聞かんぞ。 
 降伏のみだ。
 人間の心は弱いものだ。
 人間の王への忠誠などもあっという間に消え失せるであろう。
 もしも、そうでないというなら、こちらの王に取り次いでやっても良いぞ。」

 その魔人はニヤリとして洞窟から離れ、こちらに歩いてきた。
 途中、精鋭部隊の何人かの肩にポンと手を置いて何かを唱えていたのだ。
 手を置かれた兵士はうつろな状態となり、何かぶつぶつとつぶやき始めたのだ。
 そして、フラフラしながらも、オウギ王の方に向かって行ったのだ。
 手には剣を構えて・・・。

 私はその魔人が兵士に魔法をかけたように感じた。つまり、洗脳のようなもの。
 そう、少し前にテントに来た、警備隊と同じなのだ。

「カク、さっきの人と同じじゃない?
 どうにかしなくちゃ。」

 このままでは、王様に危害を加えてしまう状態であった。
 もちろん、シウン大将他、正常な兵士が王様を取り囲んではいるのだが、フラフラしながらも、彼らはこの国の精鋭部隊なのだ。

「どうにかって、どうするんだい。
 私たちにはどうすることも・・・あ、舞、さっきのをまた使うつもり?」

 私たちはそっとシェルターに戻り準備をすることにしたのだ。

 こんな、兵士でもない戦闘力の低い私たちが消えたところで、魔人にとっては、逃げただけと思う程度だったのだ。

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